2・23「暴走する安倍政権との対抗―反システム運動の課題」

2014年2月23日に、浜松で「暴走する安倍政権との対抗―反システム運動の課題」の題で、白川真澄さんを講師に集会をもった。以下は白川さんの話の概略である。

「暴走する安倍政権との対抗―反システム運動の課題」白川真澄

 浜松の皆さん、こんにちは。白川です。今日はこの題で、安倍政権の暴走、そのアキレス腱、民衆の対抗運動の順にお話したいと思います。

●暴走する安倍政権

安倍政権の暴走は、集団的自衛権行使の態勢づくり、特定秘密保護法の制定強行、沖縄の辺野古基地新設へのゴリ押し、靖国神社公式参拝の強行、改憲への積極的な姿勢、教育への国家介入の強化、原発再稼動の企て、TPP参加、アベノミクスの新しい展開と、さまざまな分野で進んでいます。9つもの悪事を働いているわけです。

特に集団的自衛権の行使では「積極的平和主義」という名で「専守防衛」の建前を投げ捨て、実質的な9条改憲を行おうとし、日米ガイドラインの再改定も狙っています。靖国参拝では、米国から公式に「指導者が近隣諸国との緊張を激化させる行動をとったことに失望している」と非難されました。「失望」は、同盟国としては最大限の批判です。

安倍首相は、「憲法が国家権力を縛るものだという考え方は、絶対王政の時代の主流的考え方。憲法は日本の国の形、理想、未来を語るもの」(23日衆院予算委)と、立憲主義を真っ向から否定する発言を繰り返しています。アベノミクスでは、消費税率を3%引き上げ、6兆円公共事業費を大盤振る舞いし、すべての労働者の非正規化をすすめようとしています。まさに暴走です。

では、なぜ、安倍政権は、やりたい放題ができるのでしょうか。安倍を支えているのは、国会内での“1強多弱”体制、50%の高い支持率の維持、対抗勢力(リベラル勢力、左翼勢力)のいちじるしい弱体化です。民意は、集団的自衛権行使の容認では反対が59%、賛成が27%、原発の再稼動では反対が56%、賛成が31%です(ともに朝日新聞の調査)。このように民意では、反対が多数であり、民意に反する暴政が行なわれています。

 

●安倍政権のアキレス腱

 では、安倍政権のアキレス腱をどこにあるのでしょうか。

まず安倍政権は、世界から右翼ナショナリスト政権と警戒され、国際的な孤立を深めています。靖国神社参拝強行は、アメリカからの非難をも招きました。財政危機のアメリカは、軍事費を減らし日本に軍事的役割の肩代わりを要求していますが、同時に対中関係を最重要視し、対抗しつつ協調する路線(「新型大国関係」の構築)をとっています。アメリカは、日本の軍事的役割の強化が、歴史認識問題=ナショナリズムの台頭と相まって中国・韓国との関係を悪化させることを警戒しています。尖閣をめぐる日中間の軍事衝突を回避するよう強く求めています。

戦後日本は、対米従属ナショナリズムを特徴としてきました。これは、復古的な民族意識が反米・対米自立に向かわないかぎりにおいて成り立つものでした。しかし、安倍の靖国参拝強行は、この対米従属ナショナリズムに裂け目を入れたのです。靖国参拝は、日中韓の関係を安定させるというアメリカのアジア戦略の枠を踏み破る行為です。参拝は、安倍の右翼ナショナリズム思想への不信を決定的にしました。NYタイムズは社説で「安倍氏の目的は『戦後レジームの脱却』である。・・彼が1945年以前の国家を復活させようとしている。時代錯誤で危険な思想だ」(1216日)と指摘しました。安倍は、仲井真知事による辺野古の海の埋め立て承認という手土産と引き換えならば、靖国参拝も黙認されると計算したのでしょうが、アメリカの「失望」声明は想定外でした。これまでアメリカから不信を持たれた政権は長続きしませんでしたが、その法則性が安倍にも当てはまるかもしれません。

日中・日韓関係は、領土問題と歴史認識問題を抱えて行き詰まり、危機に陥っています。安倍政権発足から1年以上になるのに、首脳会談は一度も開かれていません。13年中に25カ国と外国訪問に熱中している安倍は、一番近い中国と韓国には訪問できていないのです。経済界からは、対中関係の悪化が経済(アベノミクス)に悪影響を与えるという批判がではじめています(中国への輸出11.4兆円、輸入16兆円、貿易の2割を占める、2013111月)。日本経済新聞の社説は、靖国参拝は「内外にもたらすあつれきはあまりに大きく、国のためになるとはとても思えない。」「いまの日本は経済再生が最重要課題だ。あえて国論を二分するような政治的混乱を引き起こすことで何が得られるのだろうか。」「アベノミクスでも掲げた『アジアの成長力を取り込む』という方針に自ら逆行するのか。経済界には首相への失望の声がある。」(1227日)と記すに至りました。

つぎに経済面をみてみましょう。

アベノミクスは、「異次元の金融緩和」による株価の急上昇と公共事業の大盤振る舞いで景気回復を演出してきましたが、実体経済の回復なき「景気回復」にすぎません。「賃上げなきインフレ」だけが進行しています。そこで、政府による企業への賃上げ要請が行われています。しかし、グローバル市場競争の激化は人件費の切り下げを強制し、賃上げの余地を奪っています。非正規雇用労働者が急増して全体の4割近くを占め、また零細企業(従業員30人以下)の労働者が全体の5割を占めています。そのなかで、大企業の正社員の賃金が上昇しても、労働者全体の賃金上昇にはつながりません。物価だけが上がって実質賃金が下がれば、アベノミクスへの期待は失望に転じるでしょう。

さらに、公共事業投資の増加と大幅な法人税減税によって財政赤字は膨らみます。財政再建は「国際公約」ですが、財政赤字が減らないと、日本国債への信認が揺らぎ、長期金利が上昇する危険性があります。

 緩和マネーの激しい動きによるバブルの崩壊の可能性もあります。日本の株高は、緩和マネーの流入が引き起こす世界的なバブルの一環です。いったん流出の動きが起こると株は暴落します。

 

●民衆の対抗運動

現代は、世界的な民衆運動、デモ・座り込み・占拠などの直接行動が噴出する時代です。「アラブの春」、スペインの5.15ブエルタ・デル・ソル広場占拠運動、ニューヨークの「ウォール街占拠」運動、ドイツの脱原発デモ(2011年)、ギリシャなど南欧諸国での反緊縮財政のデモ・スト・暴動(201112年)、トルコとブラジルの反政府デモ(2013年)をはじめ、日本でも脱原発デモの高まりがあります。

その特徴は、多様な個人やグループの柔軟で水平的なつながり、フェイスブックなどの駆使、非暴力の徹底、占拠による「共同体的自治」の出現などです。社会的な閉塞状況に対する若者の異議申し立てが生まれています。

巨大なデモの爆発や占拠という直接行動は、政権から譲歩と政策転換を獲得しています。しかし、直接行動はいつまでも持続しませんから、制度的改革や「よりましな政権」の形成につなげることが課題になります。脱原発のデモの高まりも、民主党政権に「30年代に原発ゼロ」を決めさせましたが、選挙では脱原発の争点化に成功しませんでした。

また、政治・経済システムのオルタナティブ構想は、直接行動のなかでは未成熟です。しかし、オルタナティブな社会づくりの多様な取り組みが始まっています。それは、金融資本主義やグローバル資本主義に対抗し、ローカルを拠点に、地域内でモノ・サービス・カネが回り、労働が交換される社会をめざすものです。そこでは自治と連帯の協同組合が主役になります。経済危機に対抗する地域での自立・半自給の試みは、アルゼンチンでの「ピケテーロス」運動(2001年)、スペインでの地域通貨システム「時の銀行」の開設(2011年)などが典型です。

日本でも、人口減少・人口流出による地域経済の崩壊の危機のなかで、地域の資源を活かしたエネルギーや食の“地産・地消”の実験(岡山県真庭市、北海道下川町の「木質バイオマス」発電や木質ペレットのボイラー・ストーブ)、農家が生産・加工・販売を手掛ける「6次産業化」(農村レストラン)、山形県置賜地方の「地域自給圏」構想、高齢者と共に暮らすまちづくり(高齢者と若者が同じ団地に住んで交流、配達サービスをする地元商店街など)の取り組みが始まっています。「里山資本主義」(藻谷浩介)が大変な評判を呼んでいます。

安倍政権を押し返すためには、民衆運動の国際的なつながりの強化が不可欠です。軍隊慰安婦問題、原発輸出反対、日中間の民衆交流、TPP反対、グローバル金融資本主義の規制など、さまざまな課題の運動で国際的な交流と連携が進んでいます。

安倍政権の暴走に対して、国会内の対抗勢力が弱小化しているだけに、集団的自衛権行使反対の運動、脱原発運動の継続、沖縄の反基地運動、反貧困・非正規労働者の運動など、社会運動の対抗力がいっそう重要になっています。それに加えて、リベラル・左翼の政治勢力の再生・結集が求められます。その柱は、反改憲・脱原発・反規制緩和(反TPP)、反アベノミクスであり、保守内リベラル派との連携も必要になります。その再生に向けて、地域・地方自治体のレベルからの反撃と対抗勢力の再生が鍵になります。

                       (要約・人権平和浜松)