新たな日朝関係にむけて・過去の清算と東アジアの友好
はじめに
今日は、「過去の清算と東アジアの友好」という題で、歌の紹介を含めて、お話したいと思います。2002年9月の日朝平壌宣言には、「日朝間の不幸な過去を清算し」、「実りある政治、経済、文化的関係を樹立する」とあります。
ここにある「過去の清算」をどうとらえるのかということですが、過去の清算とは、国家間での取り決めだけではなく、民衆が歴史を取りもどし、人権と平和を獲得する運動としてとらえることが大切であると思います。
1過去の清算をめぐる動き
天皇制国家による侵略戦争と植民地支配では、万世一系、神聖にはじまり、暴戻支那、鬼畜米英、神風などと偽りの宣伝が繰り返され、それによって多くの人々が死を強いられました。その戦争の責任は十分に取られず、その後も国家無答責論や受忍論が繰り返されてきました。他方、戦争被害を明らかにし、その過去を清算させるために、責任をとらせ、戦争被害者個人への賠償の権利を認める運動もすすめられてきました。
たとえば、韓国では過去清算が民衆運動としてすすめられ、済州島4・3事件、光州事件、民主化運動弾圧事件、朝鮮戦争下での住民虐殺事件などでの真相究明と名誉回復がおこなわれてきました。これらは冷戦期の国家暴力による民衆被害の清算ですが、この動きのなかで日本統治下での強制動員についても真相究明と被害者支援がすすめられてきたわけです。さらに南北朝鮮の平和的統一や日朝の国交正常化も課題になっています。
南北の統一を願う歌には「イムジン河」や「ソウルからピョンヤンまで」などがあります。
戦時の強制動員(強制労働)をめぐっては、2013年の三菱名古屋女子勤労挺身隊光州地方法院判決で、反人道的不法行為や植民地支配に直結する不法行為に対して被害者の損害賠償請求権を認める裁定がだされました。被害者個人賠償の訴えを韓国の司法は認めるようになりました。20年にわたる被害者の要求が実現しはじめているわけです。
また、韓国政府による真相究明がすすめられるなかで、2014年6月には強制労働被害者支援のための財団が発足しました。三菱・三井系企業をはじめ、日本の強制労働企業は連行の責任をとって財団を作り、韓国の財団と連携して拠出すべきでしょう。
2静岡県の強制労働
帝国主義による世界戦争では、総力戦体制の下で植民地・占領地からの労働動員・軍事動員がおこなわれたわけですが、日本でも同様な動員がありました。戦時の強制連行の足跡は全国各地に残されています。静岡県下へも朝鮮半島から1万5000人以上の人々が動員されました。中国からも1000人以上が静岡県に連行されています。
静岡県だけを調べていても、強制連行の全体像は明らかにできませんから、全国調査をはじめ、韓国での資料調査もしました。そのなかで、連行現場一覧、死亡者名簿、連行地図、現存連行企業名簿、供託金一覧表、軍人軍属の動員表などを作成し、主な連行現場の調査をしました。それらは、『戦時朝鮮人強制労働調査資料集』1・2(神戸学生青年センター出版部)、『調査・朝鮮人強制労働』@〜C(社会評論社)の形でまとめました。
北海道の陸軍浅茅野飛行場工事では21世紀に入ってから遺骨の発掘がおこなわれました。その発掘現場では穴に投げ込まれた3体の遺骨が出ました。それは戦時での労働者に対する過酷な扱いを示すものでした。
北海道の朱鞠内での遺骨発掘の中で、歌われてきた追悼歌に「徴用者アリラン」があります。鄭泰春という人が作った歌ですが、日本語に翻訳されています。
3東アジアの友好にむけて
帝国主義による植民地分割にむけての世界戦争の時代があり、その後、米ソ「冷戦」下の戦争の時代がありました。そして今はグローバルな戦争の時代です。日本では過去の戦争や植民地支配を合理化、正当化する動きが強まり、憲法改悪や集団的自衛行使の動きもすすんでいます。過去の清算をおこなうことなく、新たな戦争の準備がすすめられているわけです。日の丸を掲げた排外主義者集団が街頭で差別行動をするようにもなりました。グローバルな戦争・ファシズムの動きとグローバルな反戦・平和の運動とが対抗する時代になっています
このような時代であるからこそ、歴史認識が重要なのだと思います。また、戦争被害者への個人賠償の確立が求められると思います。過去の植民地支配でいえば、支配での強制性を認識するということ、戦争被害者の側から歴史をみていくという視点が必要です。戦争の目的はその継続であり、戦争は支配体制を維持するためにおこなわれるというジョージ・オーウェルの指摘に学びたいと思います。
過去の戦争の歴史をみても、戦争は一時であり、古代の民族移動にともなう戦争でも、稲作や金属器、仏教や絵画などが文化として残りました。秀吉の侵略戦争でも陶磁器が文化となり、戦後の友好の歴史が朝鮮通信使の文化として残されています。
政治制度を超えての友好的な関係と文化的な交流が大切だと思います。過去を清算する力は民衆の側で人権と平和のある社会をつくりあげていくことになりますし、国家暴力による人権侵害を拒む力になります。
朝鮮半島の平和に向けては、日朝が国交を正常化すること、外交による平和への努力が重要です。国交が正常化され、自由な行き来ができるようになることで「拉致問題」も解決できます。また、正常化にあたり、日本が植民地時代におこなった強制動員問題や文化財の略奪問題などの過去の清算も不可欠です。
おわりに
2002年9月の日朝平壌宣言や2014年5月の日朝合意を読めば、植民地支配と冷戦下で起きたさまざまな問題の解決をおこなうことによって国交正常化をすすめることが記されています。時の政権当事者の利益のためではなく、民衆同士が良い関係をつくるために、国家間での平和的な関係が構築されるべきなのです。隣人同士を対立させて利益をあげるという支配の歴史を繰り返してはならないのです。平和に向けて、次の世代に何を残し、何を伝えていくのかが問われていると思います。
沖縄ではキャンプシュワーブ海岸での新基地建設工事が始まろうとしています。沖縄民衆は命の海を守れと抵抗しています。沖縄の辺野古での座り込みの際につくられた「命の海に杭は打たせない」(まよなかしんや作)という歌がありますが、そこには人々の思いが込められています。わたしはこの歌を、沖縄戦での久米島の住民虐殺と久米島に送られた陸軍中野学校二俣分校出身の離島残地諜報員の話を加えて紹介しています。
(2014.6.21 日朝友好静岡県民会議総会での話の要約・竹内)
資料1(太字筆者による)
日朝平壌宣言 2002年9月17日平壌
小泉純一郎日本国総理大臣と金正日朝鮮民主主義人民共和国国防委員長は、2002年9月17日、平壌で出会い会談を行った。
両首脳は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなるとの共通の認識を確認した。
1.双方は、この宣言に示された精神及び基本原則に従い、国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注することとし、そのために2002年10月中に日朝国交正常化交渉を再開することとした。
双方は、相互の信頼関係に基づき、国交正常化の実現に至る過程においても、日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む強い決意を表明した。
2.日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した。
双方は、日本側が朝鮮民主主義人民共和国側に対して、国交正常化の後、双方が適切と考える期間にわたり、無償資金協力、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施し、また、民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致するとの基本認識の下、国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することとした。
双方は、国交正常化を実現するにあたっては、1945年8月15日以前に生じた事由に基づく両国及びその国民のすべての財産及び請求権を相互に放棄するとの基本原則に従い、国交正常化交渉においてこれを具体的に協議することとした。
双方は、在日朝鮮人の地位に関する問題及び文化財の問題については、国交正常化交渉において誠実に協議することとした。
3.双方は、国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した。また、日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認した。
4.双方は、北東アジア地域の平和と安定を維持、強化するため、互いに協力していくことを確認した。
双方は、この地域の関係各国の間に、相互の信頼に基づく協力関係が構築されることの重要性を確認するとともに、この地域の関係国間の関係が正常化されるにつれ、地域の信頼醸成を図るための枠組みを整備していくことが重要であるとの認識を一にした。
双方は、朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関連するすべての国際的合意を遵守することを確認した。また、双方は、核問題及びミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した。
朝鮮民主主義人民共和国側は、この宣言の精神に従い、ミサイル発射のモラトリアムを2003年以降も更に延長していく意向を表明した。
双方は、安全保障にかかわる問題について協議を行っていくこととした。
資料2(太字筆者による)
日朝合意2014年5月30日
双方は,日朝平壌宣言に則って,不幸な過去を清算し,懸案事項を解決し,国交正常化を実現するために,真摯に協議を行った。
日本側は,北朝鮮側に対し,1945年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地,残留日本人,いわゆる日本人配偶者,拉致被害者及び行方不明者を含む全ての日本人に関する調査を要請した。
北朝鮮側は,過去北朝鮮側が拉致問題に関して傾けてきた努力を日本側が認めたことを評価し,従来の立場はあるものの,全ての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施し,最終的に,日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明した。
日本側は,これに応じ,最終的に,現在日本が独自に取っている北朝鮮に対する措置(国連安保理決議に関連して取っている措置は含まれない。)を解除する意思を表明した。
双方が取る行動措置は次のとおりである。双方は,速やかに,以下のうち具体的な措置を実行に移すこととし,そのために緊密に協議していくこととなった。
―日本側
第一に,北朝鮮側と共に,日朝平壌宣言に則って,不幸な過去を清算し,懸案事項を解決し,国交正常化を実現する意思を改めて明らかにし,日朝間の信頼を醸成し関係改善を目指すため,誠実に臨むこととした。
第二に,北朝鮮側が包括的調査のために特別調査委員会を立ち上げ,調査を開始する時点で,人的往来の規制措置,送金報告及び携帯輸出届出の金額に関して北朝鮮に対して講じている特別な規制措置,及び人道目的の北朝鮮籍の船舶の日本への入港禁止措置を解除することとした。
第三に,日本人の遺骨問題については,北朝鮮側が遺族の墓参の実現に協力してきたことを高く評価し,北朝鮮内に残置されている日本人の遺骨及び墓地の処理,また墓参について,北朝鮮側と引き続き協議し,必要な措置を講じることとした。
第四に,北朝鮮側が提起した過去の行方不明者の問題について,引き続き調査を実施し,北朝鮮側と協議しながら,適切な措置を取ることとした。
第五に,在日朝鮮人の地位に関する問題については,日朝平壌宣言に則って,誠実に協議することとした。
第六に,包括的かつ全面的な調査の過程において提起される問題を確認するため,北朝鮮側の提起に対して,日本側関係者との面談や関連資料の共有等について,適切な措置を取ることとした。
第七に,人道的見地から,適切な時期に,北朝鮮に対する人道支援を実施することを検討することとした。
―北朝鮮側
第一に,1945年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地,残留日本人,いわゆる日本人配偶者,拉致被害者及び行方不明者を含む全ての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施することとした。
第二に,調査は一部の調査のみを優先するのではなく,全ての分野について,同時並行的に行うこととした。
第三に,全ての対象に対する調査を具体的かつ真摯に進めるために,特別の権限(全ての機関を対象とした調査を行うことのできる権限。)が付与された特別調査委員会を立ち上げることとした。
第四に,日本人の遺骨及び墓地,残留日本人並びにいわゆる日本人配偶者を始め,日本人に関する調査及び確認の状況を日本側に随時通報し,その過程で発見された遺骨の処理と生存者の帰国を含む去就の問題について日本側と適切に協議することとした。
第五に,拉致問題については,拉致被害者及び行方不明者に対する調査の状況を日本側に随時通報し,調査の過程において日本人の生存者が発見される場合には,その状況を日本側に伝え,帰国させる方向で去就の問題に関して協議し,必要な措置を講じることとした。
第六に,調査の進捗に合わせ,日本側の提起に対し,それを確認できるよう,日本側関係者による北朝鮮滞在,関係者との面談,関係場所の訪問を実現させ,関連資料を日本側と共有し,適切な措置を取ることとした。
第七に,調査は迅速に進め,その他,調査過程で提起される問題は様々な形式と方法によって引き続き協議し,適切な措置を講じることとした。
資料3 朝鮮人強制連行
<韓国>元徴用工支援へ財団発足 「日本側も出資を」毎日新聞 6月9日(月)
【ソウル大貫智子】植民地時代に日本企業で働かされた韓国人元徴用工らへの支援事業を行う財団が、韓国で発足した。首相直属の被害者支援担当の委員会が9日までに発表した。基金は当面、韓国政府と韓国企業が拠出するが、財団側は日本政府と日本企業の参加も求める方針で、元徴用工らが日本企業に損害賠償を求めている韓国内の訴訟にも影響を及ぼしそうだ。
韓国安全行政省は2日、「日帝強制動員被害者支援財団」の設立を認可した。財団は、元徴用工や遺族への支援事業として、被害者の遺骨の発掘、返還や追悼事業、強制動員に関する記念館設立などを行う。今年度は韓国政府が30億3400万ウォン(約3億円)を計上したほか、1965年の日韓請求権協定に基づく経済協力金を受け取った鉄鋼大手ポスコが3年間で計100億ウォン(約10億円)を拠出する。韓国道路公社なども拠出する考えを示しているという。
元徴用工らの損害賠償を巡っては韓国最高裁が2012年、個人請求権は消滅していないと初めて判断。これを受け、韓国内では日本企業への訴訟が相次いでおり、日韓間の大きな外交問題に発展している。
原告弁護団側は日本企業が財団に出資し、元徴用工や遺族が財団から補償金を受け取ることで和解が成立するよう新たな法整備を求めている。しかし、日本政府は徴用工問題は請求権協定で解決済みとの立場で財団への拠出に難色を示し、日本企業にも拠出しないよう求めており、出資を巡る協議は難航が予想される。
また、財団や原告弁護団側は、元従軍慰安婦も財団の補償金支給の対象とし、戦時中の歴史問題による訴訟を一括解決すると主張している。財団は12年から設立準備が進められていたが、遺族間の意見対立などにより発足が遅れていた。