辺野古のとき
地引 浩
波が寄せている
波が寄せている
辺野古の海に
静かに語らいのときが
過ぎていく
潮が引いていく
潮が引いていく
辺野古の浜に
子どもらのあそぶこえが
流れていく
潮が満ちてくる
潮が満ちてくる
辺野古の海は
結びあう願いのいろを
映している
嵐がやってくる
嵐がやってくる
辺野古の海に
たたかいの そのときが
やってくる
(2014.4.3沖縄 辺野古の浜にて)
だれのためでなく
地引 浩
だれのためでなく
ただ わたしとわたしたち自身のため
街に出よう 街に立とう
そして 歌おう
だれのためでなく
ただ わたしとわたしたちが生きるため
街に出よう 街を歩こう
そして 歌おう
だれのためでなく
ただ わたしとわたしたちの明日のため
街に出よう 町で語ろう
そして 歌おう
汚されたフクシマの大地を 川を
空を 海を そして人々を忘れない と
渡良瀬川遊水地 谷中村跡 地引 浩
深い葦原が広がっている
見渡す限り 広がっている
ここは 古の村があったところ
銅山の鉱毒が沈殿する
渡良瀬川遊水地 谷中村跡
桑の大木が立っている
葦原の縁に 連なっている
それは 幾百年のいとなみの証
正造翁の無念が積もり積もった
渡良瀬川遊水地 谷中村跡
紅く百日紅が咲いている
葦原の島に かんざしのように
ここは 幾万の怨念がさまよい
無辜の民を鼓舞し続ける
渡良瀬川遊水地 谷中村跡
深い葦原が広がっている
見渡す限り 広がっている
ここは 古の村があったところ
原発の未来を予告する
渡良瀬川遊水地 谷中村跡 (2014.8.15)
太ったワニの腹
オスプレイ挽歌 地引 浩
オレはそいつをどこかで見たことがある
キャンプ富士だったか
普天間基地の上空だったか
そいつは太った腹を見せて
爆音とともに空を飛んで行った
そいつはワニだ 太ったワニだ
オレはそいつが何かに似ていると思う
自由を守るだとか
テロとの戦いだとかの大ウソで
そいつは太った腹を隠して
世界を飲み尽くし食らい尽くす
そいつはワニだ 太ったワニだ
オレはそいつを撃ち落そうとする
指の銃の狙いを定め
権力の中枢に向けて
念力のビームを発射する
爆音が消え ローターが止まり
そいつは落ちた 確かに落ちた
オレはわかった そいつが何なのか
先住民を殺しつくし
武力で世界を支配する
そいつは腐った自由主義だ
限りない欲望に狂わされた
USAという 太ったワニだ
オレは決めた そいつを撃ち落す
必ず いつの日か
「自由と民主主義」の名のもとに
そいつの太った腹を裂き
世界の人民を大ウソから解き放つ
そいつはワニだ 太ったワニだ
(2014・9・3 ワニさんごめんなさい)
かあちゃの ばあちゃの 地引 浩
だいこんを用意する 半本くらいかな
できれば丸大根 聖護院がいい
皮をむき 二センチくらいの拍子木に
米の研ぎ汁で透きとおるまで下茹でして
昆布を敷いたなべに水を入れ
箸で切れるまで柔らかく ことことと
すり鉢にいりごまを入れ よぉーくする
味噌を入れてすり ごま味噌を作る
あつあつに茹っただいこんと少しの茹汁を入れ
ざっくりざっくり 和える
はい 田舎風ふろふき大根のできあがり
熱いうちに召し上がれ
かあちゃの味 ばあちゃの味
ずーっと昔からの冬のごちそう
味噌は少なめがいい
(2014.12.12)
コオロギと虹と 地引 浩
ガラス戸越しに微かに聞こえてくる
コオロギが庭で鳴いている
おそらく ただ一匹
寒波の到来に震えながら
最後のいのちを燃やしている
コオロギは最後の最後まで生きている
鉄格子の窓から聞いていたという
コオロギが外で鳴いていた と
巌さんが 語り始める
雀やカラスが話していて
木枯らしが季節を連れてくる
巌さんは再審を信じて生きてきた
暗黒の空にくっきりと虹がかかった
身を乗り出して虹を見た
巌さんが 見ている
無実を訴え続ければ
最後は冤罪が明らかになる
巌さんが五十年ぶりの虹を見た
穏やかにうたたねをする
巌さんがいる 目の前に
(2014.12.6)
曼珠沙華のときに 地引 浩
眼を閉じる
曼珠沙華の紅い色を想う
一面の紅に
朽ちかけた墓石が立ちすくむという
谷中村跡共同墓地
行こう いま一度 曼珠沙華のときに
眼を閉じる
曼珠沙華の紅い叫びを聞く
一面の紅に
影を落とす桑の巨木が泣くという
谷中村跡共同墓地
行きたい もう一度 明日を忘れないように
眼を閉じる
曼珠沙華の紅い願いを想う
一面の紅を
すすきの海の銀色が囲うという
谷中村跡共同墓地
行こう 必ず 曼珠沙華のときに
眼を閉じる
曼珠沙華の紅い色を探す
一面の銀色に
忘れられた畦が紅く染まるはずの
あの地 あの村 あの田んぼ
行こう いつの日か 曼珠沙華のときに
(2014.9.23 さようなら原発大集会の夜)