「サマショール 遺言第六章」浜松上映会

 

 2023年3月4日、「サマショール 遺言第六章」(監督豊田直巳・野田雅也、2020年)の上映会が浜松市内であった。上映後、豊田直巳さんの話もあった。

 映画は「遺言 原発さえなければ」の続編で、飯舘村が舞台である。飯舘で新たにソバ作りを始める長谷川健一・花子夫妻、同僚の佐藤忠義、放射能測定をする伊藤延由、今中哲二さんらが出てくる。

 復興という名で新たな安全神話が作られていく。避難指示が解除され、飯舘村への帰還がすすめられる。2017年3月末、「いいたてむらおかえりなさい式典」が開催された。全国紙に「ただいま、ふるさと」の広告も出された。放射能汚染の加害者である東京電力の社員が並んで出迎え、東芝のアンドロイド女性が笑顔で語りかける。式では子ども達が悲しみを解き放て、握りしめた拳を開け、と「ときよめぐれ(までいのロンド)」を歌った。

責任をとらない、責任を問わない中での帰村。除染といっても周辺の山々は除染されず、除染した家屋などにも放射性物質は残っている。事故などなかったかのように演出され、実害が風評の言葉で隠蔽されていく。

飯舘村には多額の交付金が流され、交流センター・ふれ愛館、道の駅・までい館、新校舎、体育館、グランドなどが何億もの金をつぎ込んで建設される。修学旅行費も無料の学校に、子ども達のほとんどが村外から通学する。帰還者の多くが60代以上だ。

サマショールとはウクライナ語で「自主帰還者」のことである。チェルノブイリ原発事故以後、村に帰った人びとのことをいう。帰還しても20年経てば、人はいなくなる。飯舘の未来でもある。映画に出てくる長谷川さんは甲状腺ガンのため、2021年10月に亡くなった。68才、ガンの発見から8ヶ月のことである。飯舘の酪農家であり、裁判外紛争解決手続きでの慰謝料増額申立団の団長となり、原発事故被害者団体連合会の共同代表にもなって活動してきた。

 豊田さんの本に「福島「復興」に奪われる村」がある。そこには、あることをないことにする社会ヘの批判、すすむ除染神話、安全神話の実態、抵抗への模索が記されている。「福島事故を忘れない」というが、飯舘のような帰還と復興の実態がどれだけ知られているというのだろう。「いいたてむらおかえりなさい式典」の映像が忘れられない。悲しみを解き放つ時は、拳を開く時は、来るのだろうか。 (T)