「線の体験2006」によせて
ギャラリーCAVEで乾久子展「線の体験2006」が11月末から12月にかけて開催された。
12月10日CAVEに行くと、アボリジニの民族楽器イダキと笛の音の中で、オイルバーを使っての即興表現の最中だった。
民族楽器イダキはユーカリの幹を蟻が穴をあけ、その穴に息を吹き込んで音を出すというもので、低音やかすれた音が身体の奥底にジワリと浸み込んでいく。そこに笛の高低音が絡みつき、それらの音が、青と白のオイルバーの先にスピリュアルな方向性を与えていくようだった。時に、オイルバーの壁をたたく音がイダキの音と交わる。
発色のいい太いオイルバーでギャラリーの壁に描かれた縦横の線は、1時間ほど経つと、壁面の青と地面の白とがつながり、その壁の画は一個のくちばしを持つ飛翔体のような形態を示した。
乾の展示案内によれば、「体ごとの線」を描きたい旨が書かれている。線は震え、有機的な塊との出会いを求める。他者の評論によればその軌跡は「コミュニケーションとしての線」という。身体の提示による関係を求めての線の表出ということなのだろう。
表現者がそこにいて一本の線が生まれる。考えてみれば、線とは生命の表出であり、その1本の線を人間の存在とみなすこともできるだろう。そのような線の関係の再構築が必要なのだと思う。このようなアンサンブルの再編にむけての欲求をもって、描かれる線にその希望を重ねていたから、そこに飛翔体をイメージしたのかもしれない。一本の震える線に込められた、その存在への想いを深くする「体験」の1時間だった。 (竹)