『アメリカばんざい〜crazy as usual』(監督:藤本幸久)
「叫べ」、「叫べ」、「叫べ」、指導教官は新兵に対してこう何度も叫ぶ。新兵が家族に電話しようとするとき、訓練の中、普段の生活の中、声が少しでも小さいとき、「叫べ」と、怒鳴りつける。つまり、脳のはたらきを中止せよ、ということである。
若者が入隊してはじめてキャンプに到着するのは夜中の12時頃。それから48時間の内に怒鳴り倒されながら、整列させられ、頭を坊主にさせられ、軍の制服を着せられ、銃を手に持つところまでやらされ、やっと宿舎に返される。なぜ夜中に到着させ、48時間眠らせないのか、という問いに対し、疲労と恐怖が一般人から兵士への改造を容易にすると、教官は語っている。新興宗教と何ら変わらないマインドコントロールである。
アメリカでは、ホームレスの3分の1が帰還兵だといわれている。ベトナム、湾岸戦争、イラクから帰った兵士のPTSDは大変厳しい状況になっている。入隊するときの「大学への奨学金」、「軍隊に入れば貧乏から抜け出せる」「いろいろな資格が獲得できる」等の甘言はほとんどが嘘っぱちであり、その恩恵を授かるのはごく一部の兵隊でしかない。「米軍の女性兵士の85%がセクハラを受け、45%が性的暴行を受けている。しかし犯罪者が裁かれるのは2%に過ぎない」という統計がある。
映画は証言がほとんどであり、息苦しい。それを和らげてくれたのが「おばあちゃんたち」であった。アメリカ兵を募集している事務所の「OPEN」と書かれた上に、「CLOSED」と書かれた紙を貼っていく。警察が来て連行していくのだが、楽しそうに歌を歌いながら刑務所に向かう。1,2泊させられたのであろう、出所してきた彼女たちは「こんなことで兵隊になる若者が一人でも減ればそれでいい」と語っていた。
こういう明るさと逞しさに出会い、見ていてスカッとした。
『告発のとき』(監督・脚本・制作:ポール・ハギス)は印象に残った。イラク戦争から帰国したはずの息子が、焼かれ、切り刻まれた死体で発見されたとニュースが入る。もと軍人である父親のハンクは真相を究明するため、調査をしていく。
その結果、犯人は息子の軍の同僚であり仲のよい3人であったことがわかる。そして、「もし、場所と時間が違えば立場が逆転していた」こともわかる。その裏には、イラクでの悲惨な体験があった。
車を運転中に子供をはねて殺したり、イラク軍捕虜への虐待などのトラウマが、若い米兵を苦しめていることが浮かび上がっていく。正義、家族愛等を織り交ぜながら、戦争の悲惨な一面を描いた映画である。
『さよなら。いつかわかること』(監督:ジェームズ・C・ストラウス)は、イラク戦争に参戦していた妻が戦死し、それを娘二人に伝えるために苦悩する夫の話である。
イラク戦争には当然女性兵士も参戦しているが、今まであまり話題にならなかった。そのような状況に目を向けた作品であり、全編静かな作品であるが、それだけに切ない映画だ。 (池)
『花はどこへいった』(監督・撮影等 坂田雅子)
この映画を観るまで、枯葉剤による影響はすでに過去のものとなっているという間違った認識を持っていた。映画の中で、1990年代、あるいは2000年代に入ってからも「奇形児」が生まれているという事実を知り、衝撃を受けた。
1975年に終結しているベトナム戦争による爪あとがいまだに人々も体を、生活を蝕んでいるという重い現実に、戦争の残虐性を改めて認識した。枯葉剤はベトナムの人々だけではなく自軍の兵士の体をも蝕んでいったのだ。
ベトナム戦争の中で多くを学び、成長し、その後、真実を追究するカメラマンとしての人生を送ったグレッグ。その一生を支え、今回映画という形でまとめた坂田雅子さん、障がいを持つ子どもを明るく、強く育てていくベトナムの人々の姿など、人間の美しさを感じる映画でもあった。係争中の裁判で原告が勝訴することを祈る。 (白)