●12月8日(水) 18時30分 
                  ザザシティ5FパレットB室

 映画「にがい涙の大地から」(海南友子監督
                    上映会

   中国での遺棄毒ガス弾被害者の状況を取材 
                    主催 人権平和浜松 


映評「にがい涙の大地から」

 

この映画は中国で旧日本軍が遺棄した毒ガスによる現地の被害者を追ったものである。製作者の海南友子さんはハルピン・フラルギ・チチハル・依蘭・牡丹江などを訪ねていく。これらの地域は旧日本軍の毒ガス戦部隊の拠点や毒ガス部隊が配置されていたところである。中国に遺棄された毒ガス弾は約70万発という。今もその被害が絶えない。その遺棄毒ガスのなかには浜松から派兵されていった航空部隊が使用していた毒ガスも含まれている。国家と国家の間で戦争が終結されても、現地の民衆にとってはまだ戦争は続いているのである。

毒ガス戦の被害者や遺族は旧日本軍の毒ガス遺棄の責任を問い賠償を求めて日本政府を訴えている。その原告の中に、映像でも紹介される劉敏さん、李臣さんらがいる。

劉敏さんは1995年のハルピンの毒ガス事故で父を失った。父は両腕を吹き飛ばされて入院するが、多額の治療費を残して死亡した。父の作った家は人手に渡り、劉敏さんは学校を辞めてすみこみで働く。そのなかでの過労で母は病を負う。その治療費がさらに家計を圧迫する。毎日14時間の労働のなか劉さんは「働くだけで考える暇もない」という。人手に渡ってしまっている父のつくった住居を見る劉さんの20代後半のまなざしはせつない。

李国強さんは1887年にフラルギで毒ガス缶の分析を頼まれて被毒した。毎日咳の発作が起きる。17年間、熟睡できた日はない。深夜、激しい咳に襲われる李さんを映像がとらえる。暗闇のかすかな露光のなかで、苦しいせきの音と喘ぐからだが映される。嘔吐物がのどの奥から出される。咳き込み、苦しみを背負うしかない日々が続く。

李臣さんは1974年、ハルピンでの川の浚渫工事中に毒ガスの事故にあった。性器も毒ガスに侵されたという。入退院を繰り返し、妻が命がけの仕事をしてかれを支えてきた。入院してもガスによる症状への治療費が高いため、自宅へと帰らざるを得ない。「歯を食いしばって生きているのは正義を信じているからだ」と妻は言う。

このような状況の中で、被害者は尊厳と正義の実現を求めて裁判にたちあがった。その判決が、20039月に出された。東京地裁は日本政府の責任と賠償を認めた。この判決の場に原告を代表して劉敏さんと李臣さんの姿があった。「正義を勝ち取ったのだ!」と原告は叫んだ。しかし、日本政府は控訴した。

控訴に対する会見の場で、劉さんの体は震えた。大粒の涙が幾筋も流れた。「(日本政府にとって、)わたしたちは人間ではないのか」「責任を取るのが怖いんだ。悪いのが誰かはわかっているのに」。

その悲しみはかの女だけでのものではなく、毒ガスによって殺され、戦後も被害をうけてきた多くの人びとの声であるように思われた。「たとえ負けても事実を人々に伝えよう」と原告は語る。

この映画は人間の尊厳と価値を語るとともに歴史をどのような立場から語り伝えていくべきかを示すものである。

この日本政府による控訴のあった2003年の末、政府は「人道復興支援」を口実にイラク派兵を決定した。この映画は、過去の戦争の被害者が今あることに対して、その責任をとらない者たちの語る「人道」の皮相さ、かれらの語る「人道」の偽りを示す映像でもあるといえるだろう。政府は、自らの責任で救済すべきものを無視し、殺戮と占領に加担する行為を「人道復興」と語っているに過ぎない。             (竹内)                       

 

 

 

「にがい涙の大地から」 浜松上映会のアンケート

 

○ 日本政府の身勝手さに唖然とした。実際に映像で見てあまりにも残酷であり、改めて考えさせられた。日本人として日本政府に責任をとるように要請しなければと感じました。

○ よい映画を見せてくださりありがとうございました。映画に出てくる裁判で、日本政府が控訴したことをはじめて知りました。

○ すごい映像だった。これから犠牲者を出さないこと。入院したことも借金したこともない自分、贅沢な生活にまだ不満を抱いている・・・。

○ 「楽しみなんか何もない。働くばかりで考える暇がない」「朝まで眠った日は1日もない」「将来の夢はもう叶わなくなった」凍りつくしかない言葉に圧倒され、息が詰まりそうだった。

○ 戦争の悲劇、貧困、貧富の格差(中国での)、権力の裏にあるもの、これらのことを深く考えさせられた。

○ あんなに苦労している人がいるなんて思わなかった。

○ いつ中国の人たちがカメラに向かってものを投げつけてくるのか心配でならなかった。それほど迫力のある映画だった。それにしても控訴したあの日本の外相・総理大臣が情けない。