「我々はノンフィクションが大好きだ。なのに今はイカサマ選挙で決まったイカサマ大統領をいただいて、イカサマの理由で戦争になり、イカサマ情報が流れている」「この戦争には反対だ。恥を知れ!ブッシュ」第75回アカデミー賞授賞式で「ボーリング・フォー・コロンバイン」により長編ドキュメンタリー賞を受けたマイケル・ムーア監督(03.3.25朝日)
全世界が注視するなか、タキシード姿で、自国の大統領の愚行を強烈に批判したマイケル・ムーアは、破綻しはじめた米国の再生につながる貴重な良心と言うべきだろう。(SIGHT-Vol.15)でフーアは「本来、恐怖は生き延びるのに必要な生存本能だった。でも、常にあらゆるものに恐怖を感じていたら、本当に恐れるべきものを見過ごしてしまう。4000万人もの人たちが貧困にあえいでいること、5000万人近い人々が医療を受けられないでいること、そうしたことこそが本当に俺たちが恐れるべき事態なのにさ」「結局、独裁者を倒す唯一の方法は、立ち上がって抵抗することなんだよ」と語った。
JDAM、GBU-28、MOAB、JSOWなど高価な精密誘導弾やハイテク兵器は戦争直前までその高性能と圧倒的破壊力をまるで新型自動車のごとく華々しく宣伝されていたにもかかわらず、誤爆や民間人の被害が続出している。パンフレットと違うじゃないかって?宣伝なんてそれ程のものでしかないのだ。
人間の盾としてバグダットに滞在するフォトジャーナリスト久保田弘信氏は「この恐怖をどう表現すればいいだろう」「おもわずウ、ウォーと叫び声をあげてしまった」「一発一発爆弾が落ちてくる。そんな恐怖を体験していないのに、やるべき戦争だとか言っているやつを張り倒したい」と語る。(03.3.23中日)
世界は想像力を試されている。その貧困をブッシュ。ブレアそして小泉が喜んでいるわけだ。この虐殺を止めるには飛び交うプリパガンだにまどわされず、ひるむことなく、自立した想像力で世界大の連帯をしなくてはならない。
3月23日、NO!AWACSの会主催の反戦デモは、かってない盛り上がりを見せた。“反戦デビュー”となった人も多かったはずだ。そんな一人の友人Tが「1000人くらい集まるかと思ってた」と言うが、浜松という土地の120人は経験的にみても大成功だろう。3分の1が外国人だったのが印象的だった。
フランス在住の姪が高校をサボって反戦デモに行ったという。しかしフランスでは親が休んだ理由を書いて提出すれば(たとえデモであっても)許可されるそうで、父親が文章を書いたという。学校のテストがすべて論文形式(算数、数学でさえ!)で答えが間違っていても論文として認められれば点数になるそうだ。子供の頃から論理力をたたき込まれるらしい。ふと考えたのが日本の学校では意味を理解しなくても答えが合っていれが良かったはず、という事だ。論理的整合性を無視した政治がまかり通る風土は、こうして育まれるのだろうか?国連で仏代表として保守のドピルヴァンが明解にイラク攻撃反対を語り、拍手が起こったが、その正反対の無能ぶりを示す小泉首相ごときが首相の座に居られる理由かもしれない。だから安倍晋三官房副長官などが拉致問題をキーワードに涙と感動と怒りをコントロールして国民一丸となって「有事法制」「改憲」などと示唆できるのだろう。「米国なくして日本なし、国家なくして国民なし」というそのうたい文句を裏返せば「寄らば大樹の陰」という日和見主義を煽っって日本版ネオコンを確立したいところか。ここにも想像力の貧困をあざ笑う構図がある。
米国メイン州の13歳の少女シャーロッテ・アルデブロンの「相手の立場になりましょう」という反戦メッセージが話題になっている。イラクに住む2400万人のうち半分以上は15才以下の子どもであること。湾岸戦争で殺された子供たち、その後、劣化ウラン弾の放射能で殺された子供たち、薬品がなくて病気が治らずに死んだ子供たち、学校へも行けず貧困にあえぐ子供たち、そうした子供たちを想像しようと呼びかけている。悲しい事、残酷な事から目を背けてしまう米国、日本、そして湾岸戦争をすっかり忘れてしまい現在のイラクを想い描くことも出来ない悲しい世界中の薄情な人々に13才の少女が訴えている。想像力を働かせるべきだと。
日本人の想像力の貧困が虐殺の犯罪者を平気でかくまっている。ペルーの元大統領フジモリだ。この国際的犯罪者を日本はVIP待遇さえしている。ICPO(国際刑事警察機構)はフジモリ元大統領を顔写真入りのポスターで国際指名手配した。そういえば1・2ヶ月前にフジモリは日本の出版社からなんとテロリズムとの闘いに関する本を出版した。書店で見かけ呆れた記憶がある。本末転倒・厚顔無恥がこの国ではまかり通るのだ。国連、国際司法裁判所、そしてICPOなどを機能させなければ世界基準のモラルを構築できない。日本は利己的に曖昧を装いつつ論理から逃げ続ける。「ペルー日本大使館人質事件」はフジモリの圧政に武装蜂起し大使館に立てこもったツパクアマルを軍が強行突入してフジモリの命令で虐殺した事件だ。
当時の日本の報道とその後のマスコミの対応のおかげでペルーから逃げ出したフジモリは日本を目指し、その後も安住している。これは日本人の想像力の貧困に他ならない。日本政府とフジモリがその恩恵に浴しているわけだ。
想像力の貧困は世界一の地震列島に50基以上の欠陥原発を稼動させ、返すあても無い借金を続け、世界に誇るべき平和憲法と世界第2位の軍隊を共存させ、自らの加害史を無視したまま平和外交に背を向けて軍事独裁政権を徴発し続け、国民総背番号制により軍事国家に変容しつつある。何よりも最悪の米国に無批判で追従しつづける。このような表現に躊躇するのは、心地良い言いまわしに慣れきった、もしくは意図的に曖昧な言いまわしによって政治的にコントロールされ、何よりも論理を忘れてきたという事ではないだろうか。言葉を復権させなければならない。
「言葉の闘いは、世界を、事実を、どう見るかという闘い」(有事法制批判、憲法再生フォーラム編 暉峻淑子 岩波新書)
シャーロッテ・アルデブロンのような少女ばかりが米国にいるとは決して思わないが、公園の野宿者を、一人では出来ないから集団で虐殺して、「死ぬなんて思わなかった」と泣く中学生を考えると想像力の歴然とした差を感じざるを得ない。
「有事法制」は必要だと思ったのに、こんな社会になるなんて思わなかったなどと泣く大人が出て来ないという保証はない。
2003.3.27 高木
「CIAは国会選挙で自民党を一議席一議席支援するために、何百万ドルもの予算を費やし、日本社会党を弱体化させるために策動した。その結果、自民党は38年にわたり権力の座を維持した。(中略)こうした策略により、日本とイタリアでは強固な複数政党制が発達しなかった」(アメリカの国家犯罪全書 ウイリアム・ブルム著 作品社)
国家は個人を守らないという証しがまたもや露呈した。自衛官募集に利用するため、防衛庁が住民基本台帳のデータ提供を受けていた自治体は800市町村にもなる。うち332市町村の情報には、住民基本台帳法で閲覧が認められている住所、氏名、年齢、性別の4情報以外に、保護者や電話番号、職業が含まれていた。中には個人の健康状態という、思想・信条とともに重要なプライバシーまで入っていた。これは目的外使用を招くため、禁じられた「名寄せ」(個人情報の一元化)がすでに行われているということだ。プライバシー保護が機能しない状態で病歴、犯歴、思想・信条、信仰といったセンシティブ情報が筒抜け状態と考えてもおそらく間違いないだろう。国民は管理の対象にすぎないということだ。
02年6月に発覚した「防衛庁リスト問題」から何の自覚も反省も無いまま、個人情報が、まるで裸で狼の群れに投げ出された如く無防備状態だ。しかも防衛庁は今回の事態を把握しながら10ヶ月も調査を怠っていた。審議中の「行政機関等個人情報保護法案」は行政側の不透明な情報収集やセンシティブ情報を禁止する規定はない。文字通り「官に甘く民に厳しい」ものだ。行政の恣意的な個人情報収集と利用を歯止めすることができない。 住民基本台帳をコンピュータで一元管理する「住基ネット」は8月に本格的に稼動する。戦争の出来る国、有事体制の構築のためには、国民の詳細な情報を管理している事が絶対不可欠だ。その個人が国家にとって不利か有利か、つまり(敵か、味方か)を選別することは言うまでもない。
住基法は住民票コードを他の情報と結合しても罰則はない。国家による国民の一元管理なくして有事体制は成立しないからだ。平和憲法下における軍備増強と巧妙な情報操作による国民の思考停止の目論見をほぼ完了した現在、最後の仕上げが始まっている。
「航空自衛隊は21日、2006年ごろ導入予定の空中給油機の運用体制確立を目的に、空自のF‐15戦闘機が米軍の空中給油機から給油を受ける訓練を始めた。空自が空中給油訓練を実施するのは初めて。空自からは空中警戒管制機(AWACS)も参加。防衛庁は、6月に米国アラスカ州で行われる日米共同訓練に、初めてF‐15戦闘機とAWACSの派遣を決めており、途中で米軍の空中給油機から給油を受ける予定」(03.4.22 静岡)
ほとんどの日本人は、よほど懐疑的でないかぎり同盟国である米国が世界で何をしてきたか知らないし、また知ろうともしない。つまり「自由と民主主義の国」という公的な宣伝文句に疑問を感じないでいる。たとえば「ケネディ神話」のように。さらに最近ノーベル平和賞を受賞した「ジミー・カーター」のように。米国は中東、ラテンアメリカ、アジア、アフリカにおいて残虐かつ非人道的行為を重ね、その結果として全世界にテロリスト予備軍を作り出してきた。報道されないので知られていないが、今でもラテンアメリカでは米国大使館、外交官、米国情報機関の事務所などに対して多くの攻撃が加えられている。01年〜02年のアフガニスタン、そして03年のイラク空爆後の民衆の声を聞き逃してはならない。「民主主義」をもたらすはずの空爆と戦闘に関するCIAのさまざまな工作が残したものが何であるかを(米国人でなく)現地の人の声を聞くべきだ。
米国はベトナム、ラオス、カンボジア、グレナダ、パナマ、イラク、ユーゴスラビア、アフガニスタン等で数えきれない人々の家族と仕事と人生を破壊してきた。「1945年から20世紀末までに、米国は40以上の外国政府転覆をもくろみ、耐えがたく残忍な体制と戦う30以上の大衆的民族主義運動を粉砕した。この過程で、米国は何百万人をも殺害し、さらに何百万人をも苦痛と絶望的な生活に追いやった。
そしてアメリカ国民はそれが米国政府の「人道的」動機によるものだと信じ込んでいる」(アメリカの国家犯罪全書)
もし大量破壊兵器がイラクやイランや北朝鮮にあったら大変などと危惧する前に、なぜ世界一の大量破壊兵器を持つ米国を糾弾しないのだろう?それがために世界の公平さが損なわれているというのに。
暗殺、拷問、盗聴、ABC兵器、選挙操作、拉致。何をやらせても米国は世界一だ。そんな米国の世界戦略に追随するため、自ら戦争可能にするために日本が動き出している。
戦争犠牲者、戦争経験者がますます消えてゆく現在、それがどんなものかを教育は語ろうとしない。戦争を知らない世代でその上自分は血を流すことなどない、という自信たっぷりの人間が、つまり、ただでさえ戦争のリアリティを欠いた人間が、コンピュータに幻惑したバーチャルイメージとしての戦争を始めようとしている。
コンピュータ管理社会が戦争のリアリティを欠いた権力に握られた時、想像を超える人権侵害が生ずるだろう。何しろ、痛みや苦しみへの想像力が無いまま遠隔殺人が正当化されるのだ。
「自民党も、はじめはこの法律に興味を持ってなかったんだよ。それが朝鮮半島情勢のからみで、この地で紛争がおこって大量の難民が日本に押し寄せてきたとき、これを管理したり追い返したりするために、こういう住民管理システムが必要なんだって自治省が言い出して自民党が乗ってきたという経緯がある。初めから治安目的なんだ。その話は全部伏せられているけれど」(私を番号で呼ばないで、やぶれっ!住民基本台帳ネットワーク市民行動編 社会評論社)
米国式民主主義というのは、爆撃で破壊する国と、爆撃無しで破壊する国を決めることのようだ。日本がどちらか言うまでもない。
2003.4.25 高木