PLAN-5027
「ニッポン核武装」。ニューズウィーク日本版(03.6.4)号タイトルである。気になる要点は以下の通り。
「02.5月福田康夫官房長官が、核兵器保有は憲法違反でないと非核三原則見直しに言及。同年4月には小沢一郎が、その気になれば日本は原発のプルトニウムで何千発分の核弾頭をつくれる、と発言。03.1月に石破茂防衛庁長官が他国のミサイル基地を日本が先制攻撃する可能性について答弁。日本は現在、使用済み核燃料を再処理したプルトニウムを国内に5.6トン、仏、英に32.4トン保有。IAEA試算では核爆弾製造に必要なプルトニウムは、1発あたり、5〜9s、日本国内のプルトニウムだけでも500発以上製造可能。03.5月9日に日本が小惑星探査用に打ち上げたM5ロケットは個体燃料を使用しており、大陸間弾道弾ICBMそのもの。
米、ケイトー研究所員は、米は日本と韓国の核武装を認めるべき。北朝鮮の周辺諸国は、地域安全保障について自分で責任を負う時代になったと語る」
以前から原子力の平和利用の原発が生み出す核廃棄物由来のプルトニウムの管理が不透明であることを指摘する声は多かった。やはり平和のための核爆弾用だったいうことだ。
米、クリントン政権は94年当時、戦争発動寸前までいっていた。北朝鮮寧辺核施設空爆計画で「O-PLAN 5027-94」がそれだ。94年度試算では戦費10数兆円、死者100万人、米軍死者1万人以上というものだ。
この「PLAN-5027]について03.6月号のFLASHが公安当局のリークを掲載している。
「03年は米韓軍のドクトリンは見直しの年度ではないのに、ラムズフェルド国防長官が異例の03年版作成を命じた。核施設への限定攻撃の詳細かつ、具体的なシナリオだ。そして限定攻撃に対する北朝鮮の猛反撃を抑えるために核を使うしかないとする」(FLASH6月号)
「アジアにおける米軍の大規模な再配置を国防総省が検討。沖縄の2万人のうち1万5000人をオーストラリアなど国外に、在韓米軍もソウル竜山基地の撤収を10月までに開始」(03.5.30中日)
米軍兵士が死んだり傷ついたりしてはまずいので、移動するということか。開戦ならばイラク攻撃型の圧倒的勝利を狙うだろう。
02年9月の国家安全保障戦略で「先制攻撃」の正当性を謳った米国が、イラク攻撃型の侵略および小型核爆弾使用を、世界中で展開する手始めとして、北朝鮮が選ばれるということか。それにしても資源の無い朝鮮半島は、米国にとってセキュリティにおいてしか意味を持たないはずだ。現在の米国の権益としての興味対象は圧倒的に中東だろう。崩壊過程にある北朝鮮に余分な力を使いたくないという思惑もあるのではないか。いずれにしても(米の意にそぐわず、弱くて不可解、米と通商関係の無い事)などが攻撃対象となる。
人間が人間として生きるための努力は遅々として進まず、反対に人間を否定するのは瞬時に可能、というあまりにも不条理な現実がある。民主主義に至る複雑で遠まわしなレトリックは敬遠され、何事も単純なものが好まれるのは、人権という見えないものの構築が容易で無い事、さらにフェアである事の危うさの裏返しかもしれない。
韓国では若い活動家が育っていると聞く。生き方の選択がどうであれ、出発点としての歴史認識を全員で共有する事実は、社会正義の実現が真摯に行われる必要条件だろう。何でも揃った日本だが、それだけが欠落している。
国会の審議よりも、ギャグとパロディで笑いまくる政治番組に圧倒的人気のなる日本で、笑わずに政治を語る若者がほとんどいない事となんと違う事か。こうした政治風土こそが、主として40代の日本版ネオコンたちが活躍できる所以だろう。戦争の記憶の欠落は、軽薄で下品な感性しか生まなかったということだ。
朝鮮半島における米国による大量虐殺の可能性にリアリティを感じない多くの日本人は、そのまま北朝鮮バッシングの担い手でもある。一連の政治の流れに疑問を抱かず、いとも易々と煽動されるままだ。歴史認識を公的に偽造した社会が、国家間の優位性に甘んじているうちに偽造品を本物と勘違いしはじめている。自民党麻生「創氏改名発言」は「内弁慶」の情け無い姿そのものであり、さらに憂うべきは国内ではさほどさわがれないことだ。強弁する輩の、ソウルやピョンヤンの人々と話すことのできない弱さとも言える。
「日本の年間防衛予算は、4兆数千億円、通常戦力で空軍力、海軍力はアジアでNo.1。イージス艦保有は米、スペイン、日本のみ。それでも世論には、日本が巨大な軍事能力を持っている認識がない。それは日本が平和国家だと思っているから。そこで政府は憲法第9条をあえて改正しないのではないか。日本国民の6割が日米安保賛成、自衛隊賛成、憲法9条賛成である。あえて改正しようとして亀裂が入るより、むしろこれを残しておいたほうがいい。(中略)実際には、どんどんグレーゾーンが拡がってゆく。憲法の役割が意味転換を起こしつつある」(イラクから北朝鮮へ―妄想の戦争 姜 尚中・酒井啓子2003日弁連)
AWACSの初のアラスカ派兵で自衛隊浜松基地に抗議行動を行ない、帰りかえた時だった。スーパーカブに乗ったお百姓さんが近づいて「マイク使って何やっただあ?」と質問したので仲間が「AWACS派兵の抗議ですよ」と答えた。すると「AWACSは必要だがな」という声を残して去って行った。
最新鋭の戦闘司令機がなぜ必要か、お百姓さんはおそらく説明不能だろう。もしかしたら何をする飛行機かも知らないかもしれない。多くの日本人が自衛隊の兵器の具体的な殺人能力を知らないかもしれない。おびただしい兵器が日常の風景になっていることの意味を決定的にする有事法制が今日成立した。
2003.6.6高木