日本人がイラクについて知っている事

 

「結局のところ、自衛隊がイラクでなにをして、どんな貢献をしているのか、分っている日本人はおそらくほとんどいない」(『日本マスコミ臆病の構造』ベンジャミン・フルフォード 宝島社2004

B・フルフォードは政府の勧告に従って報道陣がサマワを完全撤退、海外派兵という歴史的事件なのに、その活動を伝えるのは、殺された橋田信介のような少数のフリージャーナリストや小さな通信社しかないという「大本営発表」状態に異議をとなえる。

都合の悪い部分を隠蔽して、好都合によってのみ派兵が歓迎されている様子を捏造するのは容易に決まっている。そうまでしているのに、現地から隠しようもない深刻なニュースが伝わって来る。日本政府はイラク、サマワの自衛隊宿営地への砲撃事件を19時間も隠蔽していた。主要メディアの報道では、爆発は無く被害も小さい印象だったが、「実際には倉庫はほとんど全壊状態で、隊員のいる兵舎に着弾していたら、大惨事になっていた」(FRIDAY

「自衛隊がやれることは何もない。治安悪化で宿営地にこもって給水活動を続ける意味がどこにあるのか」「イラク派遣を続けてもだれからも感謝されず、米国の手先と思われ嫌われるだけです」(軍事評論家:藤井治夫 日刊ゲンダイ04.11.3

「宿営地ロケット弾攻撃の責任は、約束を果たさなかった自衛隊にある」サマワの新聞に地元警察カリーム・ヘルベット本部長は、人道復興支援が失敗したことを語った。自衛隊を批判する空気も出ているという。(04.11.3毎日)

そしてイラクの武装組織に拘束されていた香田証生殺害事件である。香田青年はどこにでもいる普通の日本青年だ。イスラム社会ではタブーである「半ズボン」で、敵国「イスラエル経由」でイラクに入り、出会った人の家に泊めてもらう程、所持金も少なく、ビザも持たずに「何が起きているか、自分の目で確かめたい」という純粋な気持ちで出発したが、彼の認識と現地の治安情況に明確な差があり、何よりも自分が占領軍側である自覚が決定的に欠落していた。彼はフツーの日本青年である。この年代の青年として突出した人格や行動とは思えない。その意味において彼が軽率すぎるとは思えない。彼の認識を育んだのは日本社会である。たとえば世界中が「イラク戦争反対」と数十万、数百万人の異議申し立てに連帯した際、彼は街頭に立って反戦を叫んだだろうか?日本で彼の世代のどれ程の数が反戦デモに加わっただろうか?

先進国と呼ばれる国では、異常に反戦平和行動の参加者が少ない日本社会は、真面目に生きてゆく事と、主権者として政治参加、政治表現することが全く別の事とされている。(「お上」に異議申し立てをするなんて考えられない)(大きな声では言えないけれど・・・)といった独裁国家並のフツーの人々が圧倒的に多い。年間3500036000人もの自殺者を出す国で、異議申立ての機会を自ら放棄、思考停止が賢い処世術では、人間として最も大切な想像力が鈍磨するのは当然だ。糅てて加えて歴史認識が無い。世界は勝ち組と負け組で出来ている、ぐらいの浅はかさが、アメリカナイズされれば、どのような「常識」が形成されるかは言うまでもない。日本の常識とイラクの常識は決定的に異なっていた。

この人質殺害事件については前回の人質事件と少々異なる。(命という意味では同じだが)前回の人質は明確に反戦意識を表明しており、日本社会において反戦を表明する人は少数派にすぎないからだ。その上で、もし香田青年の軽率さを指摘するなら、日本の20代の青年たちを育んだ日本社会の異形をこそ見つめるべきではないか。それを「フツー」と呼ぶ社会を。ここまでは香田青年が首を切断され殺された事件、おそらく本人の認識、情報そして、あえて口にするなら軽率さが招いてしまった悲劇についての話だが、原因を溯れば「自衛隊派兵」にあるのは自明だ。そもそも国民の生命と財産を守るはずの自衛隊が、憲法を無視してまで中東イラクの地に在る事、そうさせた詭弁の前提「非戦闘地域」がイラク全土非常事態宣言下にあるという滑稽、茶番、大法螺。新潟は「戦闘地域」か?

人質事件発生後「イラクの聖戦アルカイダ組織」が48時間以内の自衛隊撤退を要求。政府は実質的になすすべが無いまま小泉首相が単純明快に「自衛隊は撤退しない。テロに屈することは出来ない」と早く殺せと言わんばかりの要求拒否。「人道」を口にしながら小泉にとっては青年の命より対米貢献が上位にあった。しかも嘘の理由による侵略と世界が認めた今でさえ。

米、イラクの大学共同研究チームによれば今回のイラク戦争におけるイラク人死者数は10万人を越え、過半数が女性と子供だったと発表した。仮に5人家族平均とすれば50万人以上に悲劇と憎悪を刻み込んだことになる。反米の激情に駆られたイラクの人々にとって米軍側としての日本の軍隊が、たとえ「人道復興支援」と声高に叫んだところで聞き入れないのは火を見るよりも明らかだ。ようするに小泉の言葉が通用するのは日本の茶番国会だけで、世界はブッシュの番犬としか見ていないということだ。設定を変えて、小泉がイラクへ行って直接イラクの人々を説得できるか考えればいいわけだ。イラク戦争も、派兵も軽率であり、そこに発生した人質殺害事件も日本政府の軽率から生じたと言えるだろう。それにしても香田青年の両親は息子が首を切断されたという衝撃に在りながら「多くの方にお詫び申し上げたい。感謝の気持ちでいっぱいです」と語っている。政府関係者をはじめ、電話、Fax、メールなどの相当の圧力をここに読むべきだろう。日本はかくも「人道」から遠い国でしかないということだ。

ところで気になる報道があった。1023日朝日新聞によると「反戦活動家でアラブイスラム協会代表高橋千代(64)、会社役員巨海六一(78)ら4人を薬事法違反(無許可販売)の疑いで逮捕。ヨウ素などのカプセル64081400粒を売った疑い。知人に売ったり無償で配ったりイラクの病院に運んだりしていたという」

湾岸戦争(1991)では、320トン〜800トンの劣化ウラン弾が使われた。英国原子力公社UKAEAによると225トンの劣化ウランにより50万人を死亡させるという。湾岸戦争退役米兵で被曝した25万人強が健康被害、この内9000人以上がすでに死亡している。劣化ウラン弾が戦車などを貫通する際に劣化ウラン粒子となり、吸入した微粒子の量の半分が体外に排出されるのに1020年かかる。微粒子が5ミクロン以下なら半永久的に肺に留まる。高熱でセラミックウランとなったものは排出されるのに24000年かかる。劣化ウランの危険性はアルファ線の体内被曝だが、同時に水俣病のような重金属化学毒性中毒も起こす。この状態を放置したまま米英によるイラク経済制裁が10年以上続き、医薬品のないままたくさんのイラク人が殺されていった。今回のイラク侵略は、その上にさらに行われたのだ。もちろん劣化ウラン弾を用いて。国連人権委員会は1996年、劣化ウラン弾、クラスター爆弾、核爆弾などの大量無差別殺戮兵器にたいして非人道的であると決議した。

ヨウ素は被曝による甲状腺障害の予防や治療に使用される。イラク派兵された自衛官や家族にイラクが劣化ウランの埃が蔓延する地域であることを知られたくないために、麻薬でも爆薬でもないのに微罪逮捕したと考えるべきだろう。ほとんどの日本人がイラク戦争が核戦争であったことを知らないままだ。帰国自衛官と家族に悪夢が訪れないことを願うばかりだ。

2004.11.11 高木

『クレイジー』な政府と国民

 

「地震の起きる危険のある地域に原発を建てている国は日本以外にない。東海村の事故(99年)の際、来日した核専門家が、日本の原発の立地場所に『クレイジー』と驚いたほどです」(古川路明 名大FRIDAY04.12.3

原発の安全基準は78年のもので、阪神淡路大震災などによる見直しは行われていない。耐用年数30年といわれる原発だが、日本の52基の原発のうち19基が70年代に運転開始、30年を超えているものも多い。

M8M8.5といわれる東海地震により浜岡14号機の原子炉が大事故を起こした場合、日本国民の5分の1が死ぬ」(小出裕章 京大FRIDAY

IAEAは各国に炉心損傷確率が、年当たり0.01以下(既設炉)と設定することを推奨している。原子力安全基盤機構の研究で、福島、大飯、浜岡の各原発を評価したところ、浜岡がIAEAの基準を満たしていない結果が出た」(04.11.22毎日)

1122日に『原発震災を防ぐ浜岡現地交流会』が開かれ、元原発技術者菊地洋一(鹿児島大講師)が、国が直下型の縦揺れでプラントにかかる加重を過少評価していると指摘。原子炉と配管の接続部分のノズルは(14号機)すでにひびが入っている可能性が高い。直下型の巨大地震では1号〜5号機すべて持たない可能性が非常に高いと訴えた」(04.11.22中日)

世界中の地震の10%が、きわめて小さい日本列島に集中しているのに、そこに原発を52基も稼動させて平然と暮らしてゆけるのは、きっと宗教のようなもののおかげにちがいない。そうでなければ「クレイジー」でしかない。それにしても日本人というのは自らのリスクを感知しない特殊な人間のようだ。

ところで「三位一体改革」(補助金削減、税源移譲、地方交付税改革)が進められてゆく。ピンとこない人でもたとえば病院にゆけば「国民皆保険制度を守りましょう」というチラシが置かれはじめた。現在の保険診療を保険外診療(自費)と混合させて「混合診療」に政府がもってゆく方針だが、それに反対する署名運動だ。「国民皆保険制度」は小泉改革で葬られようとしているが、収入の格差に関係無く誰もが治療を受けられる日本が世界に誇るべき制度だ。

小泉政権の対米追随により、これから所得格差は限りなく拡がり、以前から指摘しているようにごく一部の富裕層だけが医療にかかれる、という米国型社会がやってくる。

(社会保障関係費抑制は最大の構造問題)とする小泉政権は 介護保険の自己負担率2割を3割に引き上げる。入院中の食事を保険適用除外する。一定額までの介護・医療費を全面自己負担にする。高齢者に設定した公的年金控除140万円、老齢者控除50万円の廃止などが予定される。

「財政再建をたてに扶養控除などを次々撤廃し、平行して年金の保険料アップ、給付ダウン。医療費の5割負担で国民を絞り上げ、最後に消費税の大幅アップで完成するはず。しかしながら、こうした増税オンパレードに文句を言う人間はどこにもいないのである」(『患者見殺し医療改革のペテン』崎谷博征 光文社2004

同書では、健康保険制度の存在しない米国が、医療費全額自己負担で盲腸ひとつ患ってもニューヨークで244万円かかり、日本では患者が支払うのは6万円、という例を示す。構造改革はそんな米国型を目指している。すでに2003年に、180日以上の長期入院に対して、自己負担が決定。カゼなど軽症で受診した場合や、市販薬類似品とよばれる薬もまもなく全額自己負担になろうとしている。そして低所得の中小企業のサラリーマン(中間層)ほど健康保険(被用者保険)の負担が増加することになる。

国保加入者の半分は高齢の無職や年金生活であり、毎年100万人を超える新規加入者のほとんどが、失業者やフリーターである。このため保険料を払うためサラ金やカードローンに手を出すケースが出始めているという。それにより年収300万〜500万円の中間層にしわ寄せが起きている。(大阪では年収300万の世帯で41万円の保険料がかかる。福岡では年収360万円で65万円の保険料を支払う)高額保険料が払えない中間層が「無保険者」として急増している。治療費が心配で病院にかかれず、手遅れで死亡事件が全国で相次いでいるという。すでに米国並みの格差社会が実現しているわけだ。そもそも三位一体改革とは国・官僚の失敗のツケを地域・国民にまわすことだ。

さらに「株式会社の医療参入」をはじめとする規制緩和で米政府の指針通りに制度の根本的改革しようとする動きをノー天気なマスコミが医療ビッグバンなどと呼んでいる。ブッシュの父親(元米大統領)が上級顧問を務める巨大軍事投資会社カーライル・グループが日本の医療に参入してきた。自由市場(市場原理)に任せている米国では、医療費の高騰に歯止めがかからない。たとえば最近20年間で薬価が55倍に高騰している。

日本の「国民皆保険制度」はWHOの評価が非常に高い。反対に世界一医療費の高い米国医療制度はWHO評価で、健康達成度15位、平等性32位である。

医療に市場原理を導入して「国民皆保険制度」を解体しようというのが「医療制度改革」にほかならない

崎谷は西洋医学の限界を指摘する。西洋医学は要素還元主義と心身二元論を基本とする。しかし臨床では原因がはっきりしているものは(一部感染症を除き)皆無。さらに、なぜ病気が起こるのか?など根本的疑問に現代医学は何も答えられない。身体をひとつのシステムとして見る考え方、精神、人間を取り巻く自然や宇宙を含めた生態系という考え方の入る余地はまったく無い。これはいまだに臓器別に診療科があることが象徴している。疾病の原因は多因子であり、ここに西洋医学の限界がある。ゆえに西洋医学で治せない病気には対症療法しかない。(断っておくが、西洋医学を全否定するわけでは決してない)

社会が伝統医療や東洋医学を排除するは、巨大化した製薬会社や保険会社、医療機器メーカーなどの儲けが無くなるからだ。厚生労働省の報告では2003年の医薬品による副作用は約34000件にのぼる。崎谷は警告する。「病院なんかに来ると病気になる」と。医薬品は合成化学物質だ。狙った対象ばかりでなく周りの健康な部分まで破壊される。イラクの米軍がピンポイント攻撃をしているのに罪の無い一般市民の犠牲がやまないことと同じだ。軍需産業も医薬品メーカーも戦争や病気がなくては生きてゆけない。国家規模にまで肥大したそれらの産業のために意図的に戦争や病気が作り出されているわけだ。最終兵器とまで呼ばれた核兵器を頂点として、ニッチを埋めるが如く多種多様な兵器がつくられてきた。もちろん使うために、である。言換えれば平和でなく、破壊と殺戮のためにほかならない。莫大な種類の医薬品、最先端医療が止まる事を知らないかのように増え続ける。まるで明日には病気が克服されるかのように。だが不思議なことに病気もまた増え続けるのだ。これらの意味するものは何か?おそらくパラダイムシフトを示唆しているに違いない。すなわち軍事的解決など幻想にすぎず、対話すなわち外交の道しかないということであり、医療においては、決して市場原理になじまず医師と患者の信頼関係をもとにできるかぎり自己治癒力を生かすことだろう。市場原理導入のために排除してきた代替医療、伝統医療、東洋医学などの再認識にこそ人間と自然にやさしい方法があるのではないだろうか。

2004.11.22 高木

ファルージャ制圧とMD構想というフィクション

 

「アメリカが自由、民主主義などと言うのを耳にすると、私は怒りがこみあげる。イラクの元囚人でありながら、そんなことを口にする者がいたら、私はそいつを殺してやりたい」イラクの刑務所で米兵による凄まじい拷問、虐待を目撃した元囚人の聖職者が語った。(米軍はイラクで何をしたのか−ファルージャと刑務所での証言 土井敏邦 岩波ブックレットNo・631)日本の宗教関係者は、この聖職者の呻吟をどう思うだろう?

20年ほど関わったパレスチナ、そしてジェニンの虐殺などを取材したフリー・ジャーナリスト土井は、パレスチナとイラクのひとびとが、占領という不当に、反米ないし反イスラエルの武装闘争という回答を表出したことに米国のかかげる「民主化」の本質を見出す。すなわちミサイルやクラスター爆弾による夥しい女性や子供の身体を粉砕して瓦礫とミックスする作業にほかならないことを。200445日から25日間にわたった米軍のファルージャ虐殺では、総合病院によれば死者731人で半数が女性や子供だったという。米軍側は、ファルージャはテロリストの巣窟と主張するが、住民たちの証言はまったく違う。米軍と戦ったのは、ファルージャの一般市民とファルージャ出身のムジャヒディンだったという。ファルージャは数多くの政治家を輩出してきた。そして英国による占領時代から、住民はどんなかたちの占領も嫌っていたという。力による米軍の作戦が、ファルージャ住民全体を戦士にした、と住民が証言する。米国、日本政府、日本の主要メディアの情報では、イラクの人々の叫びも呻きも聞こえない。それがそのまま加害者、占領側であることを保証しているというのに。

200411月、米軍はイラク軍と合わせて15000人を投入して再びファルージャを総攻撃した。米海兵隊によれば1000人を殺害、1000人以上を拘束した。テロリストとされるザルカウイ容疑者やアブドラ・ジャナウィ師は、すでに逃亡、過激なメンバーの多くも別の都市に逃げたという。英BBC記者は「ヤシの並木も砲撃を受け、幹しか残っていない。たくさんの遺体が放置され、死臭が耐えられない」と伝えた。米軍曹は「なんてこった!とんでもない破壊だ」とつぶやいたという。

イラク暫定政府アラウイ首相は1116日「ファルージャに人道問題は無い」と声明を発表。米国と同調して責任回避を図った。しかし、米海兵隊員がモスク内で負傷した無抵抗のイラク人を「こいつ、死んだフリしている」と言いながら射殺した映像がアルジャジーラなどで世界に流され、アラブ・イスラム社会で激しい批判が起きている。

20051月のイラク議会選挙を成功させるために、米国およびイラク暫定政権にとって、イラクで最も抵抗の激しいファルージャ制圧は象徴的な意味を持っていた。だが結果として反米意識をイラク中に拡散させたばかりか、アラブ・イスラム社会全体に共有させることになってしまった。「テロリスト」というフィクションを掲げて虐殺するのが「民主化」であるなら、誰もが批判するし、ましてや友人、家族を殺されたものなら憎悪に駆られるのは当たり前だ。それにしてもそのようなリアリティをまったく報道しない日本のメディアのおかげで、一触即発のイラクや、サマワの自衛隊の様子は日本人に伝わってこない。巷ではもうすぐクリスマス、程度のムードの日本だが、本当は「国の負債が今年6月末で、史上最高の787兆円、国と地方で1000兆円の借金を抱えている」(日刊ゲンダイ041119)年金、医療、福祉、教育などの制度も崩壊寸前、とんでもない増税しか残された道がないなどと言われている。相次ぐ地震や台風の復興も目処が付かぬうちに「次は、どこか?」と恐怖のシナリオが予想されているが、それでも世界一の地震地帯に原発列島の自覚には程遠い。ようするにこの国では、すべてが他人事であり、当事者すなわち被害者にならないとリアリティを感じないのだろう。ところで浜松の企業ヤマハが「ひきこもり」を商品化した。「男の世界(?!)の実現」とか銘打って、机とパソコン、オーディオなどを内臓した小さな閉鎖空間を室内に置いて閉じこもり、夢の世界に浸るらしい。まさにタイムリーな日本らしい商品ではないか。与えられた仮想現実に甘んじて引きこもる人々。そしてイラク、サマワの笑い事ではない厳しい現実。だが、どう考えても不自然だ。閉鎖系(自己完結型)はコミュニケーション不全でしかない。人もものも情報も、すべて流動し交流しているはずだ。対等、平等が約束され自由が保障されなければ健全なコミュニケーションは無い。日本だけの論理が通用するはずないように、日米だけの論理も全土非常事態宣言下のイラクでは有り得ない。思い起こせば、そもそも国内の混沌を放置したままの派兵だった。言換えれば、混迷し困難極まる内政問題を、派手な外交パフォーマンスにすりかえたということだ。論理破綻を隠蔽する場当り的な小泉語(ショート・フレーズ)を連発しながら。沸いたのは思考停止したひとたちだけだった。他の人々は本当の恐怖を味わっているはずだ。

「日本のMDはブースト段階が終った後で迎撃する仕組みなので、着弾地域が不明のミサイルを迎撃する事態は生じない。集団的自衛権の行使にはならない」(守屋防衛事務次官04.11.15朝日)ミサイル防衛(MD)は最も単純な弾道ミサイルを想定して進められてきた。それでも現実的な命中精度は初歩段階でさえ完璧ではない。「技術面の最大の問題は、相手のミサイルがおとりの風船や金属片をばらまくと、確実に識別する手段がない」「ノドンを迎撃するなら切り離された弾頭に命中しなければならない。迎撃実験では、本体と弾頭が切り離されていない大きな標的しか撃墜できていない」(04.11.15朝日)

防衛庁や軍需産業は、ライセンス生産に期待していたが、米の思惑により、ライセンス生産でなく有償軍事援助契約で金が日本に落ちないことになった。

「プーチン大統領は数年以内に新型核戦力を実戦配備すると語った。(米英など)他の核保有国がただちに追随できない新型核ミサイルがすでに実験段階、数年以内に実戦配備の見通し。ロシアは今月、ICBMの改良型と見られる試射に成功。9月には、新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の試射にも成功」(04.11.18朝日)

10月初め頃、何気なくラジオを聞いていたところ、ロシアの弾道ミサイル実験の話が出てきた。米国防省関係者らが、発射段階から見守っていたが、しばらくして驚きの声があがったという。なんと通常の弾道飛行をしていたミサイルが、突然弾道を外れて、予測不能の飛行を始めたらしい。これを聞いていて思わず手を打った。MDが無力化したはずだからだ。

不況下の日本が参加を決めたMDは一兆円を超す整備費がかかる。来るとわかっている地震や津波対策にまわせばどれ程の人命が助かることか。そして被災地新潟で家も職も失った人々、不況で失業した人々など現実的な被害者が放置されたままだ。

MDは、もしロシアの今回実験に成功したミサイルが先程想定したようなものであるならば振出し以前に引き戻されたことになる。それは冷戦の教訓であったはずの際限無き軍拡という自滅への道を示唆するものに他ならない。

米国一極支配は所詮、絵空事にすぎない。ブッシュ・小泉同盟がいかに稚拙なものかを世界が知り始めている。

2004.11.19 高木