在日米軍再編 キャンプ富士移転問題
外交の壁高く、地元説明なし /静岡
米軍の再編にからんで、在沖縄海兵隊の一部を
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「日米両国の上の方でやっているだけで、地元には何も知らされない。我々が得られる情報は報道だけだ」。
海兵隊移転が一部で報じられて以降、同市の対応は素早かった。数日後には横浜防衛施設局に抗議文を出し、7月に入ると2度にわたって県や他の市町と共同で外務省などに「受け入れは困難」とする要請をしている。
これらの行動が奏功し、与党からは「地元は混乱している」と、仕切り直しを求める声も出てきた。しかし、政府から明確な説明はなく、交渉過程も明らかにされない。市幹部は皆、交渉の成り行きを報じる新聞コピーを注視する日々だ。
11月の米大統領選ではブッシュ氏が再選され、米軍の変革・再編問題を大きく左右する国防長官にはラムズフェルド氏の留任が決まった。今後、再編問題が急展開することも予想されるだけに、市関係者の緊張は高まる一方だ。
立ちはだかる「国家外交の壁」の前に、地元自治体が「拒否カード」として頼りにするのが陸上自衛隊の東富士演習場(
米側は移転に際し、訓練場の隣接を望んでいるとされる。同演習場では98年から、基地が集中する沖縄の負担軽減のため、海兵隊による実弾射撃訓練を受け入れるようになったが、演習場を使うには国と関係市町、地権者団体と使用協定を結ばなければならない。現在の協定は来年3月末で終わるため、新しい協定が必要になる。
長田市長は「地元と調整がなく海兵隊の移転が決まり、押しつけられる心配もあるが、ちょうど使用協定の更新時期と重なった。移転問題やキャンプ富士のあり方について議論するにはいいタイミング」と、“偶然の一致”を歓迎し、横浜防衛施設局に対して「再締結は米軍の再配置がないことが前提」とくぎを刺している。
地権者団体の同演習場地域農民再建連盟の勝間田祐一幹事長(47)も「今まで以上に国に対して返還を強く訴え、移転のないことを確約してもらいたい」と強気の構え。新たな協定は3月31日に調印の予定だが、それまでは日米両国の政府間交渉をにらみながらの協議になる。
◇不安募らせる周辺住民「治安悪化が心配」−−キャンプ富士
「中のことは分からない。のぞき込むと警備員に追い返される。沖縄海兵隊が来たら余計分からなくなる」とキャンプ富士近くに住む無職男性(68)。主婦(61)は治安の悪化を心配しながら「孫もいるので反対」と話した。
住民は今のところ、意見を述べる機会もない。近くの自営業の男性(52)は「基地周辺の住民の意見を聞くこともないまま移転が決まるのでは」と不満そうだ。また、市民運動の経験もある同市二枚橋、主婦、辻川公子さん(53)は「海兵隊が来ることは、イラク派兵などにつながるし、海兵隊を狙ったテロが起きても不思議ではない」と懸念している。
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■ことば
◇キャンプ富士
東富士演習場内にあり面積は約118ヘクタール。宿泊施設11棟のほか管理棟、車両整備施設、体育館などがある。演習用部隊の宿泊棟は7棟で収容人員は約1700人。ほとんどが日本側の「思いやり予算」で建設され、104実弾射撃訓練時などに使用されている。管理部隊約200人が常駐し、日本人従業員は約130人。東富士演習場は68年、米国から返還されたが、キャンプ富士はそのまま残った。
毎日新聞 2004年12月12日