「戦争は破片だ!」

  2004125静岡市内で綿井健陽さんが講演

 イラク自衛隊派兵違憲裁判静岡の会などの主催で、アジアプレスのジャーナリスト綿井健陽(たけはる)さんの講演会がもたれ、80人が参加した。イラクで取材した映像を示しての講演で、綿井さんは次のようなことを話した。(以下は、綿井さんの話を聞きながらのメモから、文責は竹内)。




 文民統制というが、自衛隊派遣はそのシビリアン(文民)の暴走の結果だ。それとともに自衛官幹部が改憲に関与するなどのミリタリーの暴走も現れ、これらの動きをその周辺から支持する動きがある。たとえば経済界をみれば、経団連は武器輸出を呼びかけ、経済同友会は民軍の協力体制を言い始めた。「軍産複合体」とはアメリカだけのことではない。この日本のことだ。

20041月市ヶ谷の防衛庁前で右翼団体が「自衛隊がんばれコール」をしていた。そして「日米安保体制強化」「自衛隊員が胸を張って活動できる法の整備を」と訴える。この風景は単に右翼団体だけのものではない。そこにはこの国の状況が確実に現れている。
 戦争の被害は個別具体的である。米軍はピンポイント・精密誘導の映像を示すが、その下にいる民衆は炸裂したあとに飛び散る破片によって殺傷されていく。クラスター爆弾によって右目を負傷した少女がいた。右目にはその小さな2ミリの破片がいまも突き刺さっている。戦争とは破片だ。民衆にとって、様々な破片が人を殺していく。劣化ウラン弾は放射能の破片を撒き散らすともいえる。

イラクの市民たちはいま、「レーシュ!」(なぜ)と叫ぶ。「この遺体が大量破壊兵器なのか!」と。イラクでのヘリの飛ぶ音・戦車の走行音・爆発音などが音の恐怖を市民に与えている。沖縄でこのヘリの音を聞いたとき思わず身をかがめた。イラクで聞いた音と同じだったから。

 ファルージャのモハマド君の目を負傷させたのは誰なのか。ファルージャを攻撃した部隊は沖縄から派兵された米海兵隊だ。海兵隊は日本で訓練してイラクに入ったのだ。日本人はイラク戦争においては、中立の立場にあるのではない。私はモハマド君に日本の現状をしめす手紙を書いた。

 200411月のファルージャ攻撃は病院を制圧し、メディアを排除しておこなわれた。そこでは従軍取材による「攻撃する側」の映像だけが示された。8月以降アルジャジーラはイラク暫定政府によって支局の閉鎖に追い込まれた。また、サマワには今日本人の記者がいない。契約されたイラク人の助手が残っているだけだ。自衛隊の広報班が撮影した映像や写真が、テレビや新聞に流れる。バグダッドには日本のフリージャーナリストもいなくなった。いまやバグダッド市内でさえ、取材ができないほど危険な状況になった。
 海外で活動するNGOにとって、安全の確保とは現地にとけこむことだ。だが、軍隊の派遣は現地での活動を危険にする。軍隊が出ていくとその周辺が危険になっていく。NGOが拉致され、ジャーナリストが殺される。軍事派遣は、NGOによる本当の人道復興支援を危険にすることになるのである。

 イラクの人々にはもともと日本人を信頼する人が多かった。広島長崎での原爆投下について、多くの人が知っている。日本の支援や援助に敬意を持ち、これまで有形無形の財産を作ってきていた。その友好的な感情が自衛隊の派遣によって崩れてきた。当初は、なぜアメリカを支援するのかという問いだったが、取材を続けていくと、自分たちがアメリカとともに日本を攻撃することもあるという発言が出るようになり、強く抗議されることが増えるようになった。

 イラクに民間軍事会社のスタッフは1万人以上いる。自衛隊も、クウェートからの物資搬送に対して、イギリスの民間軍事会社を雇っている。自衛隊に聞くと、自衛隊が契約したイラクの業者が雇っているとし、その実態を語ろうとはしない。陸・海・空合わせて、自衛隊のイラク派遣費用は年400億円以上が費やされるが、フランスのNGO「ACTED」は、約13千万円の規模でサマワの給水を行っている。彼らのほうがはるかに貢献しているのが実情だ。
 
今、日本では、イラクに自衛隊を送り、北朝鮮への経済制裁を語り、憲法や教育基本法の改正を語る集団が力を握っている。同じメンバーがメディアを利用して、盛んに、「日米同盟・国益・愛国心」を語り、組織的に動いている。日本が殺し殺される側になっていく状況が次々と生まれている。あと
10年後にどうなっているのか想像してみよう。この動きを止めるにはデモや集会だけでなく、これまでにないレベルでの戦略的な取り組みが必要だ。
 
サマワの人たちの多くが自衛隊の駐留を「支持」する背景には、地元の経済利益を考え、自衛隊の後の日本企業の進出までを計算しているから。しかし、いまの自衛隊の活動そのものには失望や不満を抱く人が確実に増えている。これは危険な兆候だ。彼らの不満や失望が、今後自衛隊に向けられる可能性は十分ある。

 
憲法
9条があるから、自衛隊はサマワでの給水や道路補修作業に留まっているともいえる。もし9条がなければ、オランダ軍やイギリス軍と同じような活動をしているだろう。そう考えれば、憲法9条は自衛隊員の戦闘や命をかろうじて止めている。同じような意識・思想を共有する人だけでなく、「日米同盟・国益・愛国心」を信じて疑わない人にこそ、直接訴えなければ変わらない。
 それでなければ、このまま自衛隊はイラクに、そしてイラクの後には、他の国にもどんどん「輸出」されていくだろう。

以上の話を綿井さんは映像を示しておこなった。

なお綿井さんの映画『Little birds・イラク戦火の家族たち』が完成した。                        (竹内)