グローバル反戦日誌08・06

グローバル戦争と「ミサイル防衛」         

  2008622日・静岡での平和人権講座の要約

今日はグローバル戦争と「ミサイル防衛」をテーマに、グローバル戦争の動きとそれにむけてのグローバル軍の再配置、そして「ミサイル防衛」とPAC3配備の現状についてまとめ、今後の課題について話したいと思います。

 

●グローバル戦争の動向

現在のグローバリゼーションの矛盾を軍事的な力で解決するために、米軍が軍事的に展開し、グローバル戦争がおこなわれています。この戦争の特質は、第1に宇宙覇権による宇宙の軍事化、第2に予防先制攻撃とミサイル軍拡、第3に情報戦・諜報戦の日常的展開、という形でまとめることができると思います。

 米軍の再配置は、200510月の「日米同盟―未来のための転換と再編」から、20065月の「再編実施のためのロードマップ」(最終報告)を経るなかで、明らかになってきましたが、すでにクリントン政権の1990年代後半から装備・戦闘システムの重点的近代化、軍事の革命、業務の革命、未来の恐怖への保証など4つの課題があげられ、軍事の強化がおこなわれてきました。

 グローバル戦争の展開に向けて、米軍を中心とするグローバル軍(地球軍)の形成が米軍再編の名ですすみ、米軍と自衛隊との軍事的一体化がもくろまれているわけです。

ピースデポの梅林さんたちの報告にあるように、この再編では、「統合」の推進とその「能力」が重視され、「柔軟性」の名による、地域を超えての地球規模での運用と展開、そしてそのための法整備がねらわれています。

米軍の「蓮の葉戦略」では、主要作戦基地(MOB)、前進作戦地(FOS)、安保協力地点(CSL)に分類されます。主要作戦基地(MOB)は常駐し、インフラを確立し、作戦部隊を配備し、従業員を雇用します。前進作戦地(FOS)は、ローテーション部隊をおき、少人数が常駐します。安保協力地点(CSL)は短い通告で使用可能な前進基地です。

このような再編で、陸軍は戦闘装甲車(ストライカー)旅団や空挺旅団などの50個の旅団に再編されます。ヨーロッパをみれば、ルーマニア・ブルガリアはイランなど中央アジアに対する前進作戦地となり、ポーランド・チェコは「ミサイル防衛」の拠点とされます。アジアでは、グアムが主要作戦基地となります。フィリピンは前進作戦地とされ、シンガポールは安保協力地点となります。韓国では平沢と烏山に2つに軍事基地が集約され、日本では自衛隊司令部と米軍司令部が統合されます。

 

●日本地域での軍事的再配置

ここで日本での軍事的再編の特徴をみておきます。現状は、日米共同というよりも、あらゆる司令部レベルでの日米の一体化・統合が進行しているとみるべきです。日米共同演習が強化され、米軍による自衛隊基地の使用や、MDへの協力がすすみ、指揮統制システムの連携がすすみます。2001のアーミテージ報告では、負担の分担から「権限の分担」が語られていますが、これは日米の軍事的一体化・統合を示す表現です。  

この間、米ソ冷戦以後、1991年に湾岸戦争から1996年の日米安保共同宣言、さらに1997年の「新ガイドライン」、それによる1999年周辺事態法とACSA2000年の「日米調整メカニズム」と、日米の軍事的な共同がすすみ、日本の海外派兵への動きが加速してきました。さらに、2001年の911から2001年のテロ特措法によるインド洋派兵、2003年の武力攻撃事態法、そしてイラク特措法による派兵、2004年の米軍行動円滑化法の成立、2007年の軍事情報一般保全協定GSOMIAの成立となります。「ミサイル防衛」にも参加するようになりました。

冷戦以後のこの20年は、グローバル戦争とその軍事的配置に向けての日米の軍事的一体化・統合への動きといっていいでしょう。

在日米軍の再編と再配置についてみておけば、日米の統合軍の形成に向けての動きが加速しています。

座間には、米陸軍第1軍団司令部から新編成司令部が移駐し、陸自の中央即応集団司令部もそこに移ります。相模原には戦闘指揮訓練センターができます。横田には在日米軍司令部と広域空軍司令部(第5空軍・第13空軍)が置かれ、空自の総司令部も2010年に移転する予定です。横田には「日米共同統合作戦調整センター」が設置されますが、この組織がMDに対応する日米共同統合司令部にもなります。

横須賀には2008年に原子力空母の配備が計画されます。すでに日米の司令部が横須賀にあります。海では佐世保が米空母の準母港として機能しています。日本は2つの米空母群の基地を持つことになります。清水などへの米艦寄港の動きはこの一環です。

この動きに連動して、基地と部隊の再配置がすすめられています。厚木の艦載機が岩国に移り、岩国の海自の哨戒機部隊が厚木に来ます。普天間基地の辺野古への移転と新基地建設もすすんでいます。グアムへの海兵隊の移転には、日本が102億ドル負担を負担するといいます。また、新たな共同訓練もおこなわれるようになり、嘉手納基地・三沢基地・岩国基地の米軍機が、空自の三沢・千歳・百里・小松・築城・新田原基地で訓練をおこなっています。キャンプシュワーブやキャンプハンセンも日米で共同使用します。1990年代後半からの沖縄104訓練の本土分散移転もこのような動きのなかにあったとみるべきでしょう。

 

●ミサイル軍拡としての「ミサイル防衛」

次にミサイル防衛についてみていきます。

ミサイル防衛(MD)とは上昇段階、中間飛行段階、着弾直前の最終段階で敵のミサイルを破壊するというものです。上昇段階では開発中の航空機からのレーザー兵器で、大気圏外ではイージス艦からのSM3などで、最終段階では地上からのPAC3などで迎撃するというのです。地上配備型「サード」(THAAD)ミサイルも開発中です。宇宙空間での迎撃兵器の配備も構想しています。「宇宙の兵器化」がすすんでいるのです。

ミサイル防衛構想の経過についてみておけば、はじまりは、1983年のレーガンの「SDI」(戦略防衛構想)です。冷戦後の1999年には「全米ミサイル防衛促進法」ができますが、ここにはラムズフェルドらの暗躍があります。2001年にブッシュ政権が成立すると、これまでのNMDTMDMDへと統合されます。2002年には戦略軍と宇宙軍を統合し「全米戦略軍」が編成され、2005年には「宇宙地球規模攻撃司令部」が編成されます。

このような動きに抗して、「宇宙への兵器と原子力の配備に反対する地球ネットワーク」の活動もおこなわれてきました。この運動から学ぶことは多いと思います。

「ミサイル防衛」によって軍需産業が膨大な利益を上げます。PAC3はアメリカ製の1発が約5億円、三菱重工がライセンス生産することで79億円になり、SM31発約20億円といいます。日本のMDの初期配備分で約1兆円といい、約6兆円になるともいいます。ボーイング、ロッキード・マーチン、レイセオン、ノースロップ・グラマンなどの軍産複合体が利権を持ち、暴利を得ます。三菱重工、三菱電機、三菱商事がPAC3などのライセンス生産やMD用レーダー・偵察衛星の製造、ロケットの打ち上げ、兵器輸入の代理店として利益をあげるわけです。

 最近の経過をみれば、066月に米軍は車力分屯地(青森県)にXバンドレーダーを配備しました。0710月には青森県米軍三沢基地に「JTAGS」(統合戦術地上ステーション)ができましたが、これは米国の警戒衛星の情報を受信し、司令部やイージス艦へ伝達するものです。0712月には海自イージス艦「こんごう」がハワイ沖でSM3による初の迎撃実験を行いました。この費用は60億円といいます。「あたご」はハワイ沖でSM2の迎撃実験を行い、帰還の途上で漁船に衝突したのです。085月には「宇宙基本法」が成立し、軍事警戒衛星の所有や宇宙開発戦略本部を設立する方向に動いています。

ここで、日本でのPAC3の配備状況をみておきます。

20073月末には入間(埼玉)、11月末には習志野、081月末には武山(横須賀)、3月末には霞ヶ浦(茨城)と配備が続いています。081月には、東京の新宿御苑で入間のPAC3の「移動展開訓練」がおこなわれ、展開後にマスコミに示されました。

08年の5月には浜松基地へのPAC3配備が始まりました。これまでマスコミに公表し、夜間の配備が多く、市民が抗議する行動をとってきました。しかし、浜松での動きをみると、浜松市へと2日前に配備を通告したのですが、防衛庁側は浜松市には外部に公表しないように要請しています。秘密裡の配備でした。

09年度には岐阜・白山(三重)、饗庭野(滋賀)、10年度には芦屋・築城・高良台(福岡)への配備が計画されています。

このようなMDに対して、MDが先制攻撃の盾であること、グローバルな軍拡競争をもたらすこと、武器輸出三原則を破壊し、宇宙の軍事利用につながること、グローバルな統合司令部が形成され、ミサイルの迎撃は戦争そのものとなることなどの批判があります。まさに「MDの標的は憲法第9条そのもの」であるわけです。

 

● 恒久派兵法と憲法改定に抗して

3兆ドル」に及ぶというイラク・アフガン戦争によって、アメリカは財政赤字と金融危機に陥り、国際的信用をも失いました。イラクからは撤退するしかない状況です。アメリカの新自由主義と投機マネーの利潤第1主義は、社会を破壊し、グローバルな戦争と貧困をもたらしました。今では原油や食糧への投機によって、世界の民衆の生活が破壊されています。

これまで「北朝鮮・中国は悪」とする煽動が繰り返されてきましたが、北東アジアの共同体にむかう構想こそ求められていると思います。民衆レベルでの共同性を基礎にEUの経済統合や政治統合に向けての取り組みからも学ぶ点もあると思います。国交の回復なくして拉致問題の解決はないでしょう。戦争犯罪に責任を取ることも共同性確立には不可欠です。投機マネーを規制し地域の経済主権や食糧主権を確立することも求められます。

グローバル戦争の中でのイラク派兵に抗して、各地で裁判が起こされ、名古屋では違憲判決をかちとりました。それは、空自のイラクでの軍事輸送を憲法9条第1項違反とし、平和的生存権を概念化したのです。憲法第9条第2項の交戦権の否認は「殺す権利」の否定であり、派兵された隊員の生命をも守っています。恒久派兵法の動きやMD9条破壊につながるものです。MDを終わらせ、多額の軍事費を民生のために使っていくべきです。

各地での反戦平和運動の力が、戦争と派兵を止め、自衛隊員とアジア民衆の生命を守ることになります。浜松基地ではイラク派兵から帰還した隊員へのいじめによる自殺に対し、遺族が裁判に立ち上がっています。それは派兵の時代の新たな人権闘争であると思います。浜松基地へのPAC3配備の動きに対しても反対の声をあげていきましょう。 

                                  (竹内)