イラク反戦日誌4 2004・3〜8

 イラク戦争についての20章 ―― ファルージャ・アブグレイブ・ナジャフ

 

1ファルージャの虐殺

 

4月に入り米軍によるファルージャ攻撃が始まった。ナジャフなどイラク各地で反米の抵抗が始まり、44日から8日までのイラク人死者は450人を超えたという。ファルージャ・ナジャフは約90年前に反英闘争が繰り広げられたところでもある。

ファルージャ侵攻の直接の契機はアメリカ人4人が殺され死体がつるされたこととされているが、それは口実であり、制圧にむけての計画がすでにあり、抵抗の強い都市を米軍が制圧することをねらったものといえるだろう。しかし米軍は制圧できなかった。停戦交渉は、抵抗した住民が都市の治安を維持することを認める結果となった。

4月の時点で、市民700人以上が死亡し、ファルージャのサッカー場は墓場となったという。この攻撃に動員された部隊に、03年末沖縄に送られ、訓練後に派兵された第5海兵連隊第1大隊があった。沖縄はファルージャ制圧の拠点とされた。

 

 

2 戦争報道

 

 戦争をはじめたものたちの利益をまもるために、翼賛報道が垂れ流されていく。ラジオはときおり反戦評論を流すときがあるが、映像は、翼賛評論家の軍事面のみの解説と米日の支配層の立場からの視点がほとんどだ。8月に清水港に米艦カウペンスが寄港したが、民放は反対行動を放映したが、NHKはひとつも流さなかった。

 煽動された熱狂と無知が愛国心の衣をきて、差別と殺人をすすめられている。死体は映されない。殺された一人ひとりの歴史、その痛みが語られることはほとんどない。報道を見ることで、逆に受身となり思考が停止させられていく。

 

3 ブラックウォーターセキュリティコンサルティング

 

ファルージャで殺されたアメリカ人はこのブラックウォーターの社員だった。かれらは元米兵であり、海軍の最精鋭部隊SEALSに属していた人もいる。食料搬送を警備するなかで死亡した。彼らは軍事行動をおこなうが、米軍の軍事規則には縛られない。

 会社の設立は1996年、元SEALS隊員による。米国防総省は2002年以降、業務委託料として、約60億円を支払ったという。イラクでの武装警護要員の日給は1000ドル(約105千円)ともいう。この会社はCIAとリンクし、チリの傭兵をイラクに派兵している。

 このほかにも、元米英の諜報部員がつくったディリジェンス社は情報収集・ボディガードを請け負い、イラクに治安要員を送り込んでいる。日給は約4万3千円という。戦時保険もかけられる。死亡時の最低補償は月額で約43万円、受取人が死ぬまで支払われる。死亡時にはこれとは別に会社は約27百万円の補償金をだすという。

CACIインターナショナル社はアブグレイブ収容所に取調官を派遣していた。03年度の売り上げは約950億円。

米軍関連の求人をみると、取調官、年収1030万円から1130万円、勤務地バグダッドというものもあるという。CPAと契約した米警備会社社員には3ヶ月で650万円が支払われたという。

このように、米警備会社に雇用された元兵士は一ヶ月に100200万円を受け取っているわけである。4月の時点で約4千人の治安要員が派遣されているという。警備だけで米企業60社2万人がイラクにいるという。作業員は3万人という。軍事サービス産業による情報分析や警備・監督の請負がすすんでいるのであり、戦争の民営化である。米兵は13万人が展開しているが、元兵士たちは彼らを支えているわけである。。

石油関連企業のハリーバートンには求職者が10万人も殺到しているという。イラクに行けば、年間880万円、超過勤務をいれると1320万円、つまり年1千万円の収入となるわけである。

支配階級が失業者を戦争に動員するやり方は国境を越えておこなわれている。米国籍を持たない傭兵は、米国人の死者にカウントされない。元米兵の警備要員の死者は米軍死者にカウントされない。かれらはみな米軍兵士と一体なのに。

 

4 キリスト教原理主義

 

かれらは1960年代の社会運動の高揚に対抗し、その反動で政治活動を活発にしてきた。かれらは、人間は神によってつくられたとする。だから、進化論を認めない。公教育に反対し自宅での教育を重視する。愛国心と安全保障を重視する。かれらの拠点校に、パトリックヘンリー大学がある。かれらはサタンを撃つ終末戦争を信じる。十字軍によるイスラム・テロリストとの長期戦争が語られていく。善と悪を2分し、イラクにすべての悪を擦り付ける論理のルーツのひとつがここにある。

かつてのK.K.Kが形を変えて、この動きになっているともいえるだろう。最近「骸骨団」についての評論も現れた。かれらは階級下層を兵士としてリクルートし、イラクに派兵し、イラク人を人とみなさずに殺戮する関係へと兵士を追い込んでいる。自らは手を下さず、階級下層に武器を持たせて、一方で軍隊内での平等の擬制をつくりあげていき、いっそう殺戮を正当化させていくキャンペーンをはる。

ブッシュが演説をするとき、巧みに後景に両性と諸人種による兵士群が配置されている。かれらによるブッシュへの拍手は、この動員構造をよく示している。その核心には「神の子」を信奉する一群がいる。

 

5 戦争責任

 

日本人3人、のちさらに2人がイラク内で誘拐され命を狙われる事件がおきた。そのなかで、「自己責任」の名の下でかれらを攻撃する論調が作られていった。首相は「私の問題じゃない」と言い放った。「人に迷惑をかけた」「自覚を持て」と政府関係者が語る。

政府は自己の戦争責任を棚に上げて、平和と真実を追及するものたちを無責任よばわりした。それに追随する人びとがあり、無責任な中傷が増殖した。

日ごろは「迷惑をかけるな」と脅し、表現の自由に関する理解を示さずに、スポーツに夢中となり、政治には関心はない、と言い放つ。流行に身をゆだねるが、自己主張はない。それが、支配的な主義主張とは別なものを危険思想視し、自らイラクにいったものたちを中傷する行為ともなる。かれらは、国際法に反する戦争とそれを支援する自衛隊の派兵には声をあげない。そこには法理がなく、現実の情動がものさしとなっている。それが支配を下から支える。

何度でも確認すべき言葉は「戦争責任」である。その責任者が処罰され、そこで死を強いられたものたちへの賠償がおこなわれなければならない。

日本人へのイラク人の反感の増殖は、日本がアメリカによる侵略を支持し、戦闘地域に自衛隊を派兵した参戦行為にある。その参戦責任は今後ずっと問われつづけられるべきものである。まさにイラクでの誘拐は小泉政権の「問題である」。

 

6 「反日分子」

 

自民党の柏村参議院議員が「反政府反日的分子のために数十億円の血税を用いることに強烈な違和感・不快感」と426日に国会内で発言した。

日本に住むものが諸外国との友好をすすめ真実を追究して現地を訪れることは決して「反日」ではない。政府の派兵に反対することも「反日」ではない。また「反日」だから悪いと決め付けてはいけない。税は市民の生命を守るためにつかわれるべきものであり、その思想信条で差別してはならない。

国会内で公然と発言し、それを訂正しようとしない議員の存在はこの国の国際的信用をまた落とした。

 

7 バイオメトリスク

 

 米政府は4月、9月までにビザなしで入国する者に、生体識別検査(バイオメトリクス)をおこなうと発表した。入国の際、指紋の採取と顔写真の撮影をおこなうという。

アメリカによる対テロ戦争への突入は、第一に、愛国法を制定して自国民を敵とした。そして今度はビザなしの入国者へのバイオメトリクスの導入である。

密告と戦争動員がすすむなか、すべてが敵とされ、安全の名によって、自由が権力に差し出される。

そのなかで戦争企業は利益をあげている。ロッキードマーチンのバンカーバスターは一発1800万円、レイセオンのトマホークは一発7200万円、ボーイングのホーネットは一機68億円、ノースロップグラマンのB2は一機1500億円! ボーイングの精密誘導弾JDAM(一発240万円)はイラク戦争で使い果たされ、新規に3万発・約720億円の発注があったという。

ここであげた4社は02年に6兆円近い契約を国防省と結んでいる。ユナイテッドディフェンス、カーライルなどはブッシュ政権と関係が深い。特に巨利をあげていくのが、ベクテルなど軍事コンサルタント・商社部門を持つ資本である。

求められているのは、このような軍産複合体の「メトリクス」である。

 

8 アブグレイブ

 

アブグレイブでのイラク人虐待が広く報道され、問題となったのは5月はじめのことだった。すでに1月には刑務所内で告発がはじまり、捕虜虐待は以前から問題視されてきた。アフガン戦争での捕虜をグアンタナモに運び、拷問してきた歴史が、アブグレイブで公然化したといえるだろう。アメリカは海外施設では米国の司法権は及ばないという都合のいい解釈で虐待をつづけてきた。他国にはジュネーブ条約の遵守を求め、自らは守らない姿をさらしている。

二十歳になったばかりの兵士が、捕虜管理の最前線に投入される。尋問担当の民間会社から「派遣軍人」も投入されていた。旧フセイン政権下で政治犯を収容してきたこの収容所が反米抵抗者の収容所となった。虐待が集中した時期は03年の10月から11月というが、すでに常態化していたとみられる。

男女の裸にしてビデオで撮る、自慰を強要して撮る、性器に電線をつける、女性収容者への強姦、男性の肛門に蛍光灯やホウキを突っ込む、犬にかませる、殴るける、射殺、首輪をはめ犬扱いする、裸にして積み上げる、女性の下着をはかせる、男性を女性兵士が男性器模型で犯す、死者の横でVサインを示して記念撮影、など数多くの事例が証言や映像資料で明らかにされていった。米兵がこのようなことをされたら虐待としてアメリカは大問題にするであろう。

これらの虐待は計画的・組織的におこなわれたといえよう。この虐待事例のすべてが公表され、米政府の戦争責任として処罰されねばならない。

 

9 フィリピン・タイのイラク撤兵

 

4月末、ポーランドは選挙後の来年2月以降に計画的撤兵(削減)することをあきらかにした。オランダも来年3月には撤兵するという。

フィリピンは人質事件を契機に撤兵した。7月にはタイが撤退を始め、9月までに撤退を完了する予定という。すでに、スペインをはじめスペインの下にあったホンジュラス・ドミニカ・ニカラグアなど中南米諸国が撤兵している。撤兵が現実のものになってきた。

イラクに非戦闘地域があるなどという言葉を最も信用していないのは自衛官自身である。

 

10 米兵の棺

 

ブッシュ政権は「遺族への配慮」を口実に遺体帰還場面のメディア取材を禁止していたが、遺体が帰還するドーバー空軍基地への情報公開によって棺の写真が公開された。1990年代までは撮影が許可されていたという。

048月末には米兵の死者は1000人近くなっている。傭兵・軍属などを入れればもっとその数は増えるし、手足をなくし、内臓に大きな怪我をした兵士も多いだろう。

戦争はその国の支配階級が自らの支配を維持するために、愛国心で階級下層を煽動・動員して行うものである。

死者の棺は<彼らのために死ぬことはない。殺される必要もない。だまされてはならない。仲間たちを早く国へ返してくれ>と語っているようにも思う。

 

11米英議会調査委員会報告

 

7月9日米上院情報特別委員会は、情報分析に大きな誤りがあったとする報告を出した。14日には英イラク大量破壊兵器調査委員会が同様の報告書を発表した。大量破壊兵器の存在は根拠のないものと判断され、旧フセイン政権とアルカイダとの関係も否定されたのである。政府の責任追及までは踏み込んでいないが、両国の調査委員会が、戦争の口実とされた「大量破壊兵器による攻撃の危険」を否定した意味は大きい。

9・11以前から、ブッシュらがイラク戦争を準備していたとする指摘も政権周辺から暴露されている。戦争計画があり、「大義」などは後から付けられていたにすぎないことが明らかになっている。

そのような戦争による占領の継続は、イラク民衆の激しい抵抗を生んでいる。即時撤兵と占領の終結が第1に求められている。

 

12 採取されたDNA

 

4月末、防衛庁が、陸上自衛隊員の血液を派遣命令が出される前から採取し、そのDNAを簡易特殊カードに保存して保管していることが明らかになった。万一のときの身元鑑定のためという。

政府は派遣先を「非戦闘地域」としているが実際は戦闘地域である。この血液・DNA保管はかれらが隊員の死を想定していることを示している。鑑定を想定してのDNA保管がすでにはじまっていたのである。法の整備前にすすむ軍事領域での人間の究極的管理の進行が明らかにされたことになる。

 

13サマワ・人道復興支援というデマ

 

サマワはイラク南部から北部にむかう交通の拠点である。この地域の軍事的掌握はイラク北部への軍事輸送に欠くことができない。オランダの治安維持活動の狙いはイラク北部への輸送ルートの確保にある。

「人道復興」は派兵を正当化するための口実にすぎない。自衛隊は基地に引きこもりの日々が多い。気温は46度を超えているが、自衛官はそこでテント暮らしである。8月に入り、オランダや日本の基地への迫撃砲弾による攻撃は頻繁に起こるようになった。自衛隊には事業発注をおこなう権限が無く、「諸謝金」という報酬金・月約1千万円を使って地元のイラク人を雇用している。

「官民一体となった人道復興支援のベースキャンプへ」と陸幕長は語っていたが、それは米軍の侵攻のベースとなっていることを棚に上げて、自衛隊派兵を正当化する詭弁であるといえよう。サマワに500人以上いる自衛官の自由な外出はほとんどない。敵対視され、自由に歩けないほどの状況であり、周りが「敵」だらけであることは派兵された自衛官自身がよく知っている。

 

14 米軍の世界再配置

 

 米軍の世界再配置の動きが報道されている。韓国内の基地は縮小、日本を軍事拠点とし、米日の共同司令部を形成していくうごきである。このことは、日本を先制攻撃の拠点とすると言うことである。日本は「戦力投入根拠地」とされ、アジア侵略への最大拠点として整備されていくことになる。

7月中旬の報道からみると、米空軍は横田とグアムの司令部を統合し横田に空軍司令官を置き、空自は横田に司令部を移転する、米陸軍はワシントン州からキャンプ座間に陸軍第一軍団の司令部を移転する、沖縄の米海兵隊はキャンプ富士・座間などに移転する、という。日本の軍事拠点化と日米の共同作戦体制の強化は明らかである。米海軍は横須賀の第7艦隊の空母群にもうひとつの空母攻撃群を加えて、西太平洋地域へと2つの空母攻撃群の配置をおこなう計画である。MD(ミサイル防衛)計画に対応して、日本海へのイージス艦配置をもねらっている。

最近、韓国映画の「シルミド」や「ブラザーフッド(太極旗の下で)」が相次いで公開された。そこにあるのは、戦争と分断のなかで死んでいった名もなき人々の歴史を語りその尊厳を回復しようとする、韓国民衆の歴史的な要求であり、封印されてきた過去の歴史を奪還しようとする社会的な意思であるといえるだろう。どちらの映像も、消されてきた基層民衆のひとつひとつの生を大切にする視点をもっている。このような反戦と統一への熱い想いが、韓国内での米軍基地撤去闘争の高揚ともなっている。

米軍の再配置はこのような反戦のうねりをかわしながら、より強固な基地の建設を、日本を拠点におこなおうとするものである。

沖縄普天間基地の辺野古への移転・海上新基地建設の動きの世界化といってもいい。

8月末に米軍ヘリが沖縄国際大学構内に墜落した。米軍は直ちに出動し周辺を立ち入り禁止とし、日本の警察の現場検証さえ拒否した。危機になるとその本質がよく示される。「沖縄返還」なるものがうそであることが示された。独立国とされているが日本は米軍主権下にあり、日米安保条約は米国支配による占領継続の宣言でもあったことになる。しかし、問題なのは日本政府の対応にある。政府には米軍の横暴を止めさせる権限はあるのである。

 

 

15 有事体制

 

6月14日、有事関連の7法が成立した。次々と戦争法がつくられていく。

国民保護法という国民戦争動員法、 戦時に米軍に物品役務を支援し補償するという米軍支援措置法、外国軍用品海上輸送規制法という臨検のための法、自衛隊施設にいる米軍への物品役務提供のための自衛隊法の改悪、特定公共施設利用法という港湾・空港の軍事利用法、捕虜取扱法、非人道的行為処罰法。

戦争そのものをやめるではなく、これらの法は戦争を想定し、米軍を支援していくための法律である。非人道的行為とは戦争そのものである。国会では朝鮮を仮想敵国とした特定船舶入港禁止法も制定した。これも有事・戦争法である。

戦争国家の法制がイラク派兵と並行してすすんでいる。

 

16 焼かれた折鶴

 

6月5日広島の江波山公園の「母子愛の像」の折鶴1万羽が焼かれた。昨年8月の原爆の子の像の鶴への放火に続く事件である。

母子愛の像の鶴が焼かれたことが象徴的である。国家愛・愛国主義・国益主義による派兵のなかで母子愛が憎悪されたといっても言い過ぎではないだろう。

折鶴を焼くということは平和と生を希求する精神の否定である。この国の政府がすすめていることも同様である。失業と派兵の進行は折鶴への放火を生む。兵士やファシストの予備層が蓄積されていく。

 

17 イラク「主権委譲」

 

 2004年6月29日、連合国暫定当局(CPA)からイラク暫定政府へと、「主権」が「委譲」された。式典参加者はわずか6人。密室での行為だった。

 この政府には外交権はなく、国会はなく立法権がない。また外国軍隊の撤兵は要求しない。

アメリカ人が顧問として政権に介入している。まさしく傀儡政権である。アラウィへの権力の集中とそれへの抵抗がはじまっている。

イラク戦争は国際法に反する違法な侵略であり、その後の違法な占領によってアメリカ主導によって作られた暫定政府は、正当なものではなく違法性を継承するものである。そこには主権は無く、軍事指揮権は米軍等が牛耳ったままである。占領をまず終了することから、イラク人の主権がはじまる。米軍への抵抗は主権回復の正当な行動である。

イラク人を人間扱いせず、殺戮を繰り返す今回の侵略行動が終わることが、真の意味での「主権委譲」といえるだろう。

8月、米軍と暫定政府はナジャフへの侵攻をはじめた。ファルージャに続いて数百人が死亡した。ファルージャ・バグダッドでの戦闘もひろがった。サマワでもオランダ軍や自衛隊基地にむけて迫撃弾が撃ち込まれている。全土が戦闘地域となっている。

しかし、政府は8月3派に分けて、青森から陸自第3次派兵を強行した。オリンピックの「勝ち組」の青年たちとそのサポーターが「アテネの空に日の丸を」「胸張って君が代を」「がんばれ日本」をはやしたてる中で。いつになったら普遍的な精神が語られるのだろう。

 

18 自衛隊の多国籍軍参加

 

アメリカは、形式的な主権委譲をおこない、国連多国籍軍を作らせてその指揮権を握った。

この多国籍軍へと自衛隊が参加することを小泉はアメリカで約束し、国会閉会後、閣議決定をもって決めてしまった。

憲法違反とされてきた多国籍軍への自衛隊の参加が、政府の独断によってすすめられた。

多国籍軍に参加しても日本は独自の指揮権を持つ、といっているが、国連決議は米軍よる統一指揮下で活動することを明記している。その実態は、占領軍がその名を変えて自己の活動を正当化しているに過ぎない。

 戦争を放棄した憲法の下で、政府がその法を無視しそれに反することを公然と行っていく。それを煽動された大衆がささえるという状況が生まれている。プロスポーツや部活動などの試合に一喜一憂し、海のかなたでの戦争には表現をしないという風景がある。時事への感性の目が削がれ、歴史認識が閉ざされ、平和を拓こうとする表現が欠落していく。社会連帯への意識に向かう契機が次々にうばわれていく。それを統合するものとしてナショナリズムが現れてきている。それは軍拡派兵と国際競争をテコとして拡大している。

 

 

19 「防衛白書」・「防衛大綱」見直し

 

 今年度の「防衛白書」が出た。必要なのは、イラク戦争をはじめ、世界各地での戦争の原因、それによる死傷の状況、解決への課題を示した『平和白書』だろう。

「防衛白書」を見ると、イラク戦争への参戦を正当化し、更に派兵を継続する方向が示されている。

アメリカの先制攻撃戦略・反テロ戦争に追随し,自衛隊を海外に派兵する。そのために、海外展開のための常設部隊の設置まで提示する。空自では国際活動のために輸送補給力を強化することが指摘されている。海外派兵が本来の任務とされ、3軍の統合と統合幕僚長や「統合情報部」の設置が提起される。それは海外戦争司令部をつくるということだ。また、ミサイル防衛に参加し、武器輸出もすすめようとしている。この軍拡をすすめるために、中国・朝鮮の脅威を煽るような記述が目立つ。

今回の白書は「戦争参加宣言書」といってもいい。そして、この白書の方向に沿って、「防衛大綱」の見直しをすすめている。

この5月31日から6月4日にかけて、北富士演習場に作られたミニ・サマワ宿営地で第6師団(青森)・第9師団(仙台)の100人と北富士の300人の隊員で武装襲撃対策の実戦訓練がおこなわれた。イラクの民衆に銃をむけ戦闘をする訓練が実際におこなわれているのであり、この訓練を経て、8月の青森からの派兵があった。青森からの派兵は民間空港を使用し、この青森からの8月の2〜3派の派兵時にはタイ機がチャーターされた。

 

 20 「華氏911」によせて

 

8月末、日本でもマイケルムーアの『華氏911』が公開された。「華氏451」は管理国家での焚書の発火時の温度であったが、911は「反テロ」戦争の発火点であった。平和と権利への発火をはじめた起点といってもいい。

けれども、それは皮相な見方である。共和党のブッシュという人格の問題に戦争の原因を還元してはならない。彼はアメリカ帝国という戦争マシンが操るひとつの人材にすぎない。アメリカのグーロバリゼイションとミリタリズムの本質が問われるべきだろう。

ともあれ、ブッシュとその取り巻きの問題点はこの映像でよく示されている。ブッシュ当選のためのフロリダでの選挙操作,デモ抗議のなかでの就任式、たくさんの休暇と911時の無能な反応、ビンラディン財閥との癒着、サウジ資本マネーのアメリカ経済との関係、ブッシュとサウジ・ダルビン王子との密接な関係、カーライル・ハリーバートン・ユノカルといった資本と戦争との関係、カルザイがユノカルの代理人であること、などブッシュ政権の内幕が暴かれている。

放映前のブッシュらや櫛をなめてつばで整髪するネオコン派のウォルフォウィッツの姿は、映像がいかに一面だけを取り上げているのかを示している。ロックのCDを聴きながらそのビートに合わせて引き金を引き戦闘する米兵の姿も印象的だった。

個々の兵士の物語を語ることが必要である。戦場の兵士からの手紙に反ブッシュの言葉が現れる。戦士に対し「息子を返せ」と母が泣く。「もうイラクへは行かない」と退役兵が言う。戦争を始めたものの責任は重い。                      

ムーアはオーウェルの『1984年』から、戦争が無知と貧困のうえにつくられ、戦争がその社会の支配システムの維持のために遂行されていくこと、戦争の目的はその継続であることを示す。不況の町で兵士がリクルートされる。連邦議員の子弟からは一人しか派兵されていない。下層階級が兵士とされ、多国籍資本の利益を享受する支配階級が生き残る現実が描かれていく。

「イラクの解放」「人道復興支援」・・、うそばかりだ。「騙されるな!」「戦場へ行くな!」「殺すな!」の表現は繰り返して示されねばならない。

(竹内・2004830日)