イラク反戦日誌7 2006年1月 

   宇宙の軍事化とミサイル防衛導入

     宇宙の軍事化

アメリカはグロバリゼーションをすすめ、その投資の利権を維持するために、宇宙空間の支配を語る。米ソ冷戦の中ですすめられたスターウォーズは映画とともに新たな形で登場している。アメリカは宇宙と情報の覇権国家となり、地球戦争を始めるようになった。

アメリカは宇宙を支配し、宇宙空間での情報把握によって、誘導兵器を使い戦争を遂行する。宇宙支配を背景に指揮を執る軍事の革命がすすむ。アメリカの利益と投資を守るために宇宙をベースに軍事作戦をおこなう宇宙軍が作られた。2002年6月にはこの宇宙軍と戦略軍が統合されることが発表された。あらたな地球作戦を担う戦略軍団が形成されたのである。

イラク戦争はこの軍団が主導し国防衛星通信システムを使っておこなわれている戦争である。ミルスター衛星群がトマホークなどを誘導し、キーホール型衛星群が地上の動静を探り、アクロス衛星群がイラクの信号を諜報する。アメリカ中央軍司令部はこの情報をもとに前線に指令を出す。すべての戦闘が宇宙から統合指揮されているのである。このアメリカの先制攻撃の盾としてあるのがミサイル防衛なのである。

なお、戦略軍の司令部はネブラスカのオファット基地に置かれていた。宇宙軍の司令部はコロラドのピターソン空軍基地におかれ、近くのシュリーバー空軍基地には宇宙作戦センターがある。

    ラムズフェルド構想

ブッシュ政権は石油・原子力資本や軍需資本の利権を代表する政権だが、そのなかで国防担当として登場したのがラムズフェルドである。彼は宇宙の軍事化とミサイル防衛をすすめてきた。

1997年に「新たなアメリカの世紀のためのプロジェクト」をネオコンが立ち上げるが、そこにラムズフェルドやチェイニー、ウオルフォウィッツらも参加している。2000年9月に出された報告書『アメリカ国防の再建のために』はアメリカの利益のために世界を再編しようとするものだった。

この動きのなかで、ラムズフェルドを委員長とする「アメリカに対する弾道ミサイル攻撃の可能性評価委員会」はミサイル防衛をすすめ、1999年には全米ミサイル防衛促進法を成立させた。これは全米でのミサイル防衛システムの早期配備をすすめるものであった。2001年にはこの委員会の宇宙政策報告書が出され、そこで、アメリカを宇宙覇権国家に改造することが提示された。宇宙軍の配置を追求し、次世代の先端システムを開発し、アメリカを宇宙交戦国家へと改造していこうというのである。宇宙の軍事化は兵器の配備を含めてすすめられている。

● 諜報の強化

このなかで、アメリカの国家安全保障局NSA、国家偵察局NRO、国家画像地図局NIMAなどの活動が強化されている。信号情報の盗聴、宇宙空間からの偵察や巡航ミサイルの誘導などの戦闘支援の態勢づくりがすすむわけである。

デンバー郊外にバックリー空軍基地がある。ここは赤外線監視システムの拠点であり、ミサイル防衛を支援する。またNSANROが共同で使う諜報拠点であるが、この基地の近くにはロッキードマーチン、レイセオン、TRW社の工場がある。それは軍産複合体を象徴する風景である。1999年には宇宙配備レーザー共同体がつくられ、弾道ミサイル迎撃のためのレーザー兵器開発をすすめている。この共同体はボーイング、ロッキードマーチン、TRW社などの軍需企業で構成されている。グローバリゼーションは4000億ドルの軍事予算、140万人の軍人、50万人の兵員の派遣で支えられ、軍需企業が暴利を得ている。

宇宙の軍事化のもとで、アメリカの地球的規模での軍事再編がある。アメリカは小型核兵器をも使っての先制攻撃を想定し、米軍の地球的規模での緊急展開能力の強化や軍事同盟の拡大を狙っている。米軍と自衛隊との一体化がすすめられ、空自司令部を米軍横田基地に移転し、共同作戦司令部を形成しようとしている。それにともない各地の基地の再編をすすめようとしているのである。

日本のMD導入の動きはこのようなアメリカの動きと連動している。それとともに宇宙空間からを含めての民衆への監視の強化がすすんでいるわけである。

     ミサイル防衛導入

 イラク戦争が始まり、自衛隊のイラク派兵がすすめられようとしていた2003年秋に、日本政府はミサイル防衛導入を決め、2004年度予算概算要求に1423億円を盛り込んだ。これまでは日米の研究・開発をすすめてきたが、導入に踏み切ったのである。さらに05年度予算概算要求では1442億円を要求し、2005年から2009年度の中期防衛力整備計画ではミサイル防衛関連費として5700億円が盛り込まれていった。

 ミサイル防衛はアメリカと一体の態勢である。アメリカの先制攻撃を受けた国からミサイルが発射される。アメリカの早期警戒衛星がそれをつかみ、その情報がアメリカの司令部に送られ、さらに日本へと伝えられる。日本からの迎撃はイージス艦からのSM3ミサイルと陸からのPAC3ミサイル(新型のペトリオット)によっておこなわれるという想定である。

 レイセオン社のSM3は一発20億円、ロッキードマーチン製のPAC3は一発5億円もする。2006年予算では日米共同の迎撃実験費として62億円が計上されている。06年度の新型SM3のシステム設計費は30億円である。次世代の迎撃ミサイルの開発費は、日本側負担が最大で1284億円、アメリカ側と合わせると3000億円になるという。

PAC3配備

現在のPAC2は航空機やミサイルの近くで爆発して迎撃するものであるが、PAC3はミサイルに直接当てて落とすというものである。PACとはPatriot Advanced Capabilityの略である。防衛庁は「ペトリオット能力開発改善型」といっている。PAC3は長さ5・2メートル、直径0.25メートル、重さは315キログラムである。射程は20キロメートルという。

日本へはすでにPAC2の配備がおこなわれているが、2010年度までにPAC3への改編すすめ、全国3高射群(埼玉・岐阜・福岡)と教育訓練部隊(浜松)に18基分、計124発を配備する予定である。さらに北海道、青森、沖縄などに配備をすすめ32基の配備としていくという。米軍は青森(空自車力分屯地)への警戒レーダー配備も狙っている。

2010年度までの配備予定先について具体的に記しておけば、第1高射群(入間・霞ヶ浦・習志野・武山)、第2高射群(芦屋・築城・高良台)、第4高射群(岐阜・白山・饗庭野)、浜松(高射教導隊・第2術科学校)である。最初のPAC3は2007年3月に第1高射群に配備されるという。

PAC3はロッキードマーチン製だが、三菱重工がライセンス生産をおこなうことになる。三菱は現在PAC2のライセンス生産をおこない、減少する兵器生産への受注を宇宙軍拡への参入によって切り抜けようとしている。

アメリカでは2004年にPAC3をアラスカのポートグリルリとカリフォルニアのバンデンバーグに配備し、さらに05年にかけて配備を拡大している。またアメリカは2005年までに韓国の光州、群山、平沢、烏山など各地に計64基のPAC2PAC3を配備した。日本への配備はこのような動きと連動しているのである。

このなか2005年5月には「光州パトリオットミサイル基地閉鎖と駐屯米軍撤収のための光州全羅南道共同対策委員会」が、光州の空軍第1戦闘飛行団前で、「パトリオット米軍基地閉鎖全国大会」を持ち、激しい抗議運動を展開した。またカナダはミサイル防衛への参加を拒否した。

     NO!MDNO!PAC

ここでみてきたように、ミサイル防衛はアメリカの宇宙の覇権による先制攻撃(侵略)を支える盾として想定されているものであり、日本の「防衛」のためにあるのではない。

 このミサイル防衛は日本の平和諸原則にことごとく反するものである。政府はミサイル防衛導入にあたり、日本国憲法第9条、宇宙の平和利用、武器輸出禁止、文民統制などの平和諸原則を破壊する言動をことある毎に口走るようになった。日本政府は、宇宙の軍事化をすすめ、武器を輸出し、憲法改悪をすすめ、ミサイル攻撃での現場判断権を認め、3軍の統合司令部を作り、米軍との共同作戦をすすめ、米軍を支援しての海外への派兵、それらを狙っているのである。それらの政策はアメリカによるアジアの分断統治支配に従属するものであり、アジアの平和共存に向かう道ではない。

ミサイル防衛導入は東アジアに危機を呼び込むものである。それは集団的自衛権行使であり、日本列島の要塞化であり、日本を先制攻撃の盾とするものであり、アメリカの宇宙戦争への加担であり、新たなミサイルを含めての宇宙軍拡をもたらすものである。

ミサイル防衛導入を中止し、PAC3の配備を中止することこそすすめられねばならない。PAC3は浜松をアメリカの宇宙戦争・先制攻撃の拠点とするものである。教育用であって実戦用ではない、単なる改良であるという言い方はごまかしである。

 参考文献 藤岡惇『グローバリゼーションと戦争 宇宙と核の覇権めざすアメリカ』、D.クリーガー他『ミサイル防衛 大いなる幻想』、核とミサイル防衛にNO!キャンペーン報告集(2001〜2004)他新聞記事等。             

                     (竹内)