2007・11 野宿者死亡事件に関する抗議

資料


@女性野宿者への浜松市の不適切対応に抗議する申し入れ書

2007年11月27日
     浜松市長 

             MAOS UNIDAS野宿者支援グループ

             ファミーリア(居宅生活者自助グループ)

 11月22日木曜日、14時30分頃、浜松市役所庁舎正面入り口手前左側の路上に、ひとりの人が倒れていました。周囲を数人の市職員が取り囲む様に立っていましたが、倒れている人に手を差し伸べる人はなく、不自然な印象を受けました。すぐに駆け寄り近付いてみたところ、その人は、普段は浜松駅前バス・ロータリー付近で野宿をしている知的障害を持つ女性でした。市職員はまるで来庁する市民の目から女性の姿を隠すようにして立ち、そのうちのひとりはマスクをし、手袋までしていました。

 女性の顔色は血の気がなく、青白くなっており、眼は瞬きもせず、見開いたままでした。頬に触れてみましたが冷たく異常を感じましたので、手首と頚動脈を触り、脈を確認しようとしましたが、脈を取ることはできませんでした。女性に意識があるようには見えませんでした。

 周囲にいる職員に「救急車を呼んでください。」と頼みましたが、職員からは「女性は救急車でバス・ロータリーからここ(市役所)まで来た。」と言われました。それでも、女性の容態が悪いから病院へ連れていかなくてはと、救急車を呼ぶように依頼しました。10人前後の職員が入れ替わり立ち替わり様子を覗きに来ました。

 救急車が到着し、職員に「彼女と一緒に乗って行って。」と言われました。私は、その日、70歳の男性野宿者の生活保護申請のために、不動産業者で住居契約を行い、賃貸借契約書を持ち、中区役所での生活保護申請(2〜3時間必要)に立ち会う予定で市役所へ来たところ、この場面に遭遇しました。女性の周囲に多数いる職員が救急車に同乗しないのが不審でしたが、女性の容態を考えると一刻も早く病院へ向かう必要がありましたので、脱がされ足元に置かれていた彼女の靴と、胸の上に乗せられていた非常食のアルファ米1袋を手に、女性に付き添いました。病院のたらい回しをされると困りますので、搬送病院を指定しました。救急車内では、医師の指示を仰ぐ救急隊員の声が聞こえましたが、「自発呼吸なし」という言葉が耳に残りました。

 病院に到着し、救急外来で数人の医師と幾人もの看護師による20分以上の医療処置が施されました。処置室では、物差しで瞳孔も計測していました。脳外科の担当でした。意識不明ですが、入院が決まったので、病院のMSW(医療ソーシャルワーカー)に中区役所へ連絡し生活保護申請を行うよう依頼したところ、直後にMSWから、中区役所から1週間後にしてほしいと言われたと聞きました。区役所のあまりの対応に怒りを覚え、女性の入室した部屋を確認し、彼女の靴を置き、後でまた戻ることを病院側に伝え、中区役所へ向かいました。社会福祉課へ直行し、課長補佐と生活保護グループ・グループ長、グループ職員の3人に出てもらい、質問をしました。以下に質問と回答を記します。

○「女性の容態を聞いていますか?」  

「危篤であると聞きました。」

○「女性を乗せた救急車が市役所へ到着したのは何時でしたか?」

    「13時30分から14時の間」

○「容態の悪い女性にアルファ米を渡した理由は?」

    「彼女がお腹が空いていると言ったと、聞いたから」

○「病院のMSWの生活保護申請に対して、1週間後にと言った理由は?」

「そんなことは言っていない」

○「女性に対し、どの課の職員が対応しましたか?」

    「管財課と保健師、生活保護グループ」

 「管財課ですか?」

    「はい」

○「保健師は何と言っていましたか?」

    「どうしようもない」

 「どうしようもないとは、どういう意味ですか?」

       答えはありませんでした。

○「死にそうだから、このままにしておこうということですか?」

       答えはありませんでした。

○「救急車で女性が到着してから病院にいくまでの間の市の対応は適切なものでしたか?」

    「そうではなかったかもしれない。」

 これらの事を聞いて、私は市の対応には問題があったと感じました。「ああいう人達は・・」との言葉もあり、社会福祉課で障害者、野宿者を下に見る様な表現はやめてほしい、とも伝えました。

 女性には知的障害があり、約10年前から浜松駅構内、駅前バス・ロータリー付近で野宿生活を送っていました。私達は週1回おむすび等を配る活動を行っています。数ヵ月前から女性の体調が悪くなっていることを感じていました。最近は常に「お腹が空いている」と口にしていました。身なりを気にする余裕がなくなり、やせ細っていくのがわかりました。自ら病院へ行き、症状を伝える力は持たないようにみえました。しかし、バス・ロータリーには多くの人が出入りしますので、万一容態が悪化すれば誰かが救急車を呼んで病院へ連れて行ってくれると信じていました。

 女性は、23日午前1時5分に病院で息を引き取りました。

 私達は今、彼女から大切なメッセージを託されたと思っています。「知的障害があっても、野宿者であっても、人として接してほしかった。人間として接してもらいたかった。」というメッセージです。言葉で上手に表現できなかった彼女の代わりに、私達は市に問いたいと思います。

 浜松駅前交番から救急車出動要請があったのは、12時55分。しかし、なぜか救急車は彼女を乗せて病院へ向かわずに市役所へ行き、到着したのが13時10分。ボランティアが市役所正面入り口に来たのが、14時30分頃。この13時から14時30分の間に、いったい何があったのでしょうか。1時間30分の間のことを明らかにしてもらいたいと思います。そして、以下2点についての説明をお願いします。

 1.救急隊が女性を救急車に乗せ、市役所へ搬送したことは、救急隊として適切な行動であったと考えておられるのですか。

 2.救急車が市役所へ到着してから行われた女性への対応は、市として適切な対応であったと考えておられるのですか。

女性は暖かな庁舎の建物内に入れてもらえず、路上に何の敷物もなく転がされた状態でした。寒い中、毛布1枚すら掛けてもらえずにいました。市職員は、彼女の人権をないがしろにしました。命を大切にしよう、人権を守ろうと市は市民に呼びかけています。しかし、今回の事件は、弱い立場に置かれている人に対する行政の暴力ではないでしょうか。女性の人生の最後は、市の不適切な対応によって、惨めで悲しいものになりました。私達は、女性は市職員によって見殺しにされたと考えます。

なぜ、1時間30分の間に、もう一度救急車を要請し、市職員が同行して病院へ向かわなかったのでしょうか。

なぜ、女性を抱きかかえて庁舎建物内に招きいれ、柔らかな敷物の上に、またはソファ等に横たわらせなかったのでしょうか。

人権とは・・すべての人間は生まれながらに自由であり、法の下においても平等であって、人種・信条・性別・社会的身分等により差別されません。誰もが生まれながらにして、人間らしく生き、幸せに暮らす権利を持っています。・・と浜松市人権啓発センター発行のパンフレットにも書かれています。

人間らしく生き、幸せに暮らす権利、これが人権です。人権は互いに認め合い、尊重することによってしか守られません。まず、市職員が職務を行う上で人権について考え、それに基づいて行動することを求めます。

再び今回の様な悲惨な事件が起きないことを願い、申し入れをいたします。

以上。

 A浜松市役所で起きた高齢野宿女性の死亡事件の検証に関する申し入れ書

 

2007125

浜松市長 

           MAOS UNIDAS野宿者支援グループ

           ファミーリア  (野宿経験者支えあいのグループ)

 1122日昼過ぎ、救急車で浜松市役所庁舎正面入り口前まで搬送された野宿者の知的障がいがあると思われる高齢女性が、およそ十人の市職員が周りを取り囲んだり、行き来したりする中で、正面入り口前の路上において危篤に陥り、救急車で再搬送されるときはすでに心肺停止状態であったという事件がありました。なぜ救急車は医療機関でなく市役所に彼女を搬送したのか、なぜ、市職員らは1時間半近く適切な対応ができず、彼女を死に至らしめてしまったのか、わかりません。

1127日、私たちは市から説明を受けました。1127日に、市は、

(1)時系列で事件についての事実確認をした上で、検証を行い、改めるべきところは改める(2週間以内)、

(2)こうした事件が起きた背景として、市の野宿者支援策と、生活保護の運用について検証する、という2点を約束しました。

しかし、市が事件の重大さを受け止め、真摯に検証する姿勢は見られません。29日には「生活と健康を守る会」による申し入れがありましたが、その際に市が行った説明は、26日に市が発表した「報道資料」をそのまま読み上げるというものでした。27日の申し入れの場では、22日の事実関係の確認を市側と行いましたが、市による「報道資料」をふまえた説明と、22日に現場に居合わせたボランティアの体験した事実との間には、大きな食い違いがありました。申し入れの中で、それらの点についてボランティアから詳細な指摘を行いました。しかし、そこで指摘されたはずのことがらも反映されることなく、26日の「報道資料」が29日にもそのまま読み上げられたのでした。29日は既に検証のプロセスに入っているはずです。それにも関わらず、疑義が出された点を無視し、市の側の一方的見解をあらためて主張したのです。また、29日午前中には、ボランティアが直接電話にて、「報道資料」の誤りと思われる具体的箇所を示して、訂正を求めていました。

こうした経緯からは、市がきちんとした検証を進めているようには見えません。その他にも、この事件に真摯に向き合うのではなく、曖昧なままに終わらせようとしているのではないかと思わせるような、市のその後の対応も見えています。

ここに、市が真摯な検証を行うよう、あらためて検証のあり方と内容について、以下のとおり市に申し入れをいたします。

私達が求めるのは、事実と向き合わない、また、現場の担当者に責任を負わせてそれで幕を降ろし、行政のあり方は何も変わらないというような「検証」ではありません。それでは亡くなった女性に申し訳がたちません。

私達は、「路上死の起こらない町、浜松市」をめざして、今回の事件の検証を求めます。

次の4点について、文書での回答をお願いいたします。

1.検証のあり方について

T 浜松市は、何故、何のために検証を行うのでしょうか。

   当たり前すぎる質問ですが、大事なことです。

浜松市として今回の事件を真摯に反省し、市職員が、野宿している人々と同じ目線に立ち、相手の状態に応じた法的支援、援助をきちんと行えるようにするには、従来の浜松市の野宿者施策と生活保護の運用にどの様な欠点があったのかを明らかにし、今後、市としてそれをどのように改善していくか、実効性のある計画を立て、具体化していくことが必要です。  

こうした立場から検証していただくことを強く要望いたします。同じ立場であるということでしたら、同じであると、異なるということでしたら、独自の立場を文書で述べてください。

U 検証には、第三者の立ち合いが必要と考えます。第三者には、社会福祉・生活保護の専門家、研究者を推薦します。

 そして、第三者を交えた検証を行う場合には、当初、市が示した2週間という期限について、私たちはこだわりません。誠実かつ真摯に今回の事件を検証するために必要な日数は新たに設定していただいてかまいません。

2.検証の内容について

V 1122日以前に、なぜ、適切な対応ができなかったのでしょうか。

(1)8月頃、女性は、それまで日中のほとんどの時間を過ごしていた浜松駅近くのビル「フォルテ」1階の休憩スペースから出されました。「フォルテ」は市が関係する建物であり、他にも対応の仕方があったはずです。酷暑の下、彼女をどこに行かせるつもりだったのでしょうか。このことが、体調が悪くなり始めていた女性を一層苦しめたのではないでしょうか。

この時点で生活保護を適用していれば、今回の事件は防げました。なぜ、そうした対応をとることができなかったのでしょうか。

(2)117日に、社会福祉課生活保護グループ職員が女性と会い、話をしています。この時点で、職権で生活保護を開始していれば、今回の事件は防げました。医療機関での受診、救護施設の利用、他の施設等のショートステイを実現させることはできたはずです。なぜ職権で女性を保護できなかったのでしょう。

W 1122日当日の市による一連の対応について、誠実に振り返り問い直してください。

(1)1230分ごろ、駅前交番から、中区社会福祉課へ、「駅前バスロータリーに、ホームレス女性で具合が悪い人がいる。」と連絡がありました。

この時点で、女性を速やかに医療機関に搬送し、適切な医療処置を行えば、彼女の命は救えたでしょう。なぜ、急迫状態にある人に対し、職権保護、医療機関への搬送ができなかったのでしょうか。

(2)1255分に、駅前交番から救急隊へ「衰弱して動けない女性がいる」との連絡が入り、救急車が出動しました。

この時点で、なぜ、救急隊は女性を医療機関へ搬送できなかったのでしょうか。

なぜ、救急隊は、約1時間半後に心肺停止状態になる女性を市役所庁舎前の路上に置いて、帰路についてしまったのでしょうか。

(3)1330分から1439分まで、市役所庁舎正面入り口前道路上に女性を放置し、死に至らせてしまいました(1439分、現場にて「意識レベルJCS300、心肺停止」)。

なぜ、アルファ米の袋をそのまま渡すことしかできなかったのでしょうか。

    救急隊員に「お腹が空いている」と訴え、「ご飯が食べられるとの呼びかけに対し、嬉しそうな様子であった」女性に、非常食を食べられないまま渡したことは、大きなショックを与え、女性を支えていた気力を一気に失わせたのではないでしょうか。

  女性の容態の悪化に対応して、どのような措置が必要だったのでしょうか。

なぜそうした対応ができなかったのでしょうか。

    なぜ、複数の課の多数の市職員たちは、目の前で女性が亡くなっていくのを見ながら、手をこまねくことになったのでしょうか。

   管財課が対応した理由も、女性は人間であることから、私たちには理解できません。

 なぜ、ボランティアが救急車を要請してから、消防本部へ連絡するまでに時間がかかってしまったのでしょうか。

                                    

  女性への市の対応の背景に、野宿者は「厄介者」、「目の前から消えてほしい」、「関わりたくない」と考える市の姿勢が見えます。市の姿勢は、市民の野宿者への偏見につながります。

  自力で生活を変えることが困難な野宿者に対し、まず、市が自ら野宿者に近寄り、野宿者の抱える問題に真剣に眼を向けるべきではないでしょうか。

 

以上。