静岡の仲間からの呼びかけ

内外から厳しい批判を受けている「新しい歴史教科書をつくる会」(会長・西岡幹二電気通信大教授)
編集の『中学校社会科教科書・歴史分野、公民分野』が、文部科学省の検定合格を経て、2002年4月
から、学校現場に持ち込まれようとしています。
 私たちは、今日までに、この教科書をめぐり明らかにされている事実を見る時、「教科書問題」にと
どまらず日本人全体の歴史認識を根底から変えようとする重大な問題が起こっているということを指
摘せざるをえません。
 第一に、「新しい歴史教科書をつくる会」(以後「つくる会」)は、「現行の教科書は、自虐史観に塗り
つぶされている。従軍慰安婦や南京虐殺はなかった。即時削除せよ。」との大キャンペーン運動を担っ
ての中から生まれました。「つくる会」と一体となってこの大キャンペーンを担ってきたのは、大東亜
戦争史観にもとずく「自由主義史観研究会」や改憲組織の「日本を守る国民会議」(現在「日本会議」)、
靖国神社公式参拝を主張する「自民党歴史・検討委員会」、そしてそれらの主張を代弁してきた「産経
新聞」などです。したがって当初から「つくる会」は、大変政治色の強い団体であり、その運動(教科
書の宣伝・採択運動)も政治運動化してきています。すでにこのことは、「つくる会」教科書のパイロ
ット版と称する『国民の歴史』(著者・同会会長西尾幹二)が、教科書採択にかかわる教育関係者や各
地の教育委員に無料配布されたり、検定申請した自らの本(白表紙本)が、宣伝のために教職員に配布
されたり、さらに、全国の地方議会に対して一斉に、“教科書採択から現場教師の意見排除を求める請
願”が行われたりするなど、自らの一方的主張をしゃにむに押し通そうとする姿勢に現れています。
 特定の教科書についてこのような運動が行われてたことは、いまだ無かったことです。このような「つ
くる会」の運動は明らかに教育への政治介入を禁じた教育基本法に違反する行為であり、したがってそ
の教科書も不合格・不採択にすべきであります。
 第二に、「つくる会」歴史教科書の内容が、とくに近代のアジアと日本にかかわる歴史事実をゆがめ、
その結果、アジアとの信頼と友好の関係を損なう銃だしな問題をはらんでいるということです。
 同教科書は、日露戦争からアジア太平洋戦争にいたるまで、日本の行った戦争が一貫してアジアを欧
米の植民地から解放するための戦争(「大東亜戦争」と記述)であったとの立場で書かれています。一
方、「韓国併合」は日本の安全と「満州」の日本の権益擁護に必要であり「合法的」であったという立
場をとっています。「朝鮮植民地は正当」であったという立場と「アジアを欧米の植民地から大東亜解
放の戦争」という立場は一体どのように両立するのでしょうか。みしりのことは、日本の植民地支配の
事実が「大東亜の解放の戦争」という主張が如何に偽りであるか、を示しているものと言えましょう。
また、「日本の国益のために」行った戦争と植民地支配が、アジアの人々にどれほど膨大な苦痛と悲惨
を与えたかについては、一言半句もありません。
 そこには、「過去」から学び、次代の教訓にしていこうとする真摯な姿勢はみじんもありません。こ
のような偽りと独善の歴史を次世代に教えて日本という国家に誇りを持たせようという歴史観が、今日
の国際社会ではまったく通用しないばかりか、アジアから厳しい警戒観と不信感をもって迎えられてい
るのは当然のことです。したがって、この教科書を合格・採択することは、1982年の教科書問題以降、
かずかず政治家たちのもうげん妄言をのりこえて積み上げられてきたアジアとの友好と信頼の関係を大きく損
なう結果となることは明らかです。
 第三に、「つくる会」教科書は、平和主義を柱とする日本国憲法を否定する一方で、大日本帝国憲法
を礼讃しています。
 歴史分野では、現憲法は米占領軍が関与してつくられたもので、日本政府はただ従うしかなかった“押
し付けられた”ものと批判する一方で、明治憲法は、「アジアで初めての近代憲法で日本を立憲国家と
して出発させた。天皇に政治責任を負わせないこともうたわれ、基本的人権も認められた」と、事実に
反する記述をおこないながら、これを高く評価。また教育勅語については、一頁を使ってその全文を載
せ、「非常時に国に尽くす姿勢、近代国家の国民の心得を説いた日本人の人格の背骨をなすものとなっ
た」と手放しでこれを美化しています。公民分野でも歴史分野と同じような記述がされる一方で、第9
条を徹底して敵視。「大国日本の役割」として自衛隊PKO活動を賛美、憲法第9条が自衛隊の活動の「障
害になっている」ので「憲法改正がつよく主張されている」と記述。基本的人権についても「社会全体
や国家の利益、国家の秩序」のためには制限されて当然とばかり、「国家への忠誠と国防の義務」を力
説しています。
 戦後、これほどまでに平和憲法を公然と敵視した教科書があらわれたことはありません。このような
独善的な教科書が次世代の「公正な判断力を養う」(学校教育法・教育目標)ことにならないことは言
うまでもありません。

 以上の理由から、私たちは、この事態に深い憂慮の念を表明し、今後、各地方教育委員会において、
この教科書が採択されることのないよう強く求めるとともに、日本とアジアとの真の友好と信頼関係を
築くために努力することを表明します。

以下16時に30分に申しいれました。
 
 
浜松市教委御中                     2001年4月4日  

            声明・要請書        NO!AWACSの会浜松

 2001年4月3日、政府文部科学省は「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書を検定合格としました。わたしたちはこれに強く抗議するとともに、市教委がこの教科書を採択しないように強く要請します。

 この教科書は、天皇制を賛美し過去の戦争をアジア解放のためのものと美化し植民地支配を合法とする姿勢で書かれました。この立場は、戦争に反対することや植民地支配からの独立を求める行為を犯罪・非合法とするものにほかなりません。「殺すな」「盗むな」「犯すな」などは人道・倫理の原則です。植民地支配、侵略戦争、性的奴隷など数々の戦争犯罪は、これらの原則に反します。人道・倫理に反するこれらの行為を過去、国家は正当化しておこないました。戦争と植民地支配によってアジアの人々が持った被害の記憶を消し去ることはできません。また戦争や植民地支配を再び繰り返してはなりません。

 わたしたちは浜松基地のAWACSに反対し基地の撤去を求め、戦争の準備に反対しています。かつて浜松基地はアジアへの空爆拠点でした。また特攻や航空毒ガス戦の拠点でもありました。このアジアへの加害・侵略の事実をふまえ、わたしたちは、浜松を再び派兵拠点にするなと活動しています。新ガイドライン安保という海外での日米共同作戦体制が進むなか、戦争を肯定する教科書が現れたことに対し、わたしたちは危惧を持つとともに抗議の意思をここに示すものです。

 浜松には多くの在日外国人がいます。この教科書の偏狭なナショナリズムは外国人への排外主義を生み、浜松市民の国際的交流を阻害するものです。

 わたしたちは市教委がこの教科書を採択することがないようここに要請します。市教委は、国際的視野を持ち21世紀の平和と人権を担う人間の育成をすすめるべきです。こどもたちには生命の尊厳を示すべきであり、戦争を正当化してはならないと考えます。