2005年、静岡県内での扶桑社版の採択はありませんでした。
●6月24日金16時から
教科書問題で浜松市教委要請行動
●6月24日金18時30分から
「歴史認識とアジアの平和」交流会
韓国の市民団体メンバーと歴史認識とアジアの平和を
6・24
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2005年6月24日16時から
市教委によれば、6月末に西部地区教科用図書採択連絡協議会(各地区教育長・校長代表・保護者代表の24人で構成)が開かれ、教科書研究委員会(校長・教頭・教諭ら34人で構成)が選定した案をもとに採択案を作成し、7月5日の臨時教育委員会のその案が出されて決定するとの事だった。
参加者は、扶桑社版は採択をすすめるために白表紙本を静岡県でも配布していている、市教委はその実態を調査すべきこと、現行教科書には占領・植民地支配について2ページがとられているし、またチマチョゴリの引き裂きを示し人権について問う内容があるが、扶桑社版にはそのような内容がなく他国を敵視するものであること、などを指摘した。
韓国側からも、教育委員会が歴史観を押し付けるのではなく歴史を正しく伝える役割を果たしてほしいこと、アジアの平和において正しい歴史認識が必要であること、靖国参拝や侵略戦争を否定する動きが強まるなかでアジア各国との関係が悪化している、40年間の植民地支配と南北分断の歴史を子どもたちに示し、史実を認め、被害者へ賠償をおこなうべきであること、侵略の歴史を知るアジアの子どもたちとそれを知らない日本の子どもたちとの間でどう未来がつくられるというのか、と指摘した。
A 「歴史認識・平和」交流会
18時30分から
以下、許栄九さんと李壽甲さんの発言をまとめる。(なお以下の要約は通訳を経てのものであり、発言者の校訂を経ていない。文責は人権平和浜松にある。)
許栄九(前韓国民主労総副委員長・投機資本監視センター代表)さんの提起
●新自由主義と戦争準備のなかでの歴史歪曲
はじめに新自由主義をめぐる動きについて報告します。
いま、すべてを市場に任せ、市場が神になったかのような状況になっています。国家権力は、すべてを市場に任せ、そのなかで富が再生産されています。この新自由主義を推進しているのは、企業・財閥や国境を越えての多国籍金融資本、さらに国際機関(IMF・FTA・APEC・WTO)、そしてアメリカの覇権の4つの力です。かつてはIMFケインズ体制であり、そこでは、労働者の側からの雇用・福祉充実要求を認めて、労資間で社会的な合意をおこない、そのかわりに搾取を認めるという体制であったのですが、今それが不可能になったのです。資本主義の側の利潤率の低下はこの社会的合意を維持できなくし、資本はさらに利潤を求めて海外に展開します。そのなかで民族主義的な抵抗もおきてきます。
現在の特徴は、資本と資本との提携がすすみ、全地球的レベルでの資本と労働との対抗が生まれてきているといっていいでしょう。資本の連携しながらの競争の下で、全地球的規模での労働者への搾取がすすんでいるのです。そのなかで、帝国主義的な侵出と国家間の対立が生まれ、アメリカ帝国主義の覇権があります。東アジアでは日米・日韓の軍事同盟の問題が深刻なものとしてあります。
アメリカはイラクでの戦争と朝鮮での戦争、つまり2箇所での同時戦争をすすめ、一箇所での完全勝利をねらう態勢をとり、九・11以後は、米本土防衛戦態勢もとっています。一箇所での完全勝利の対象は北朝鮮ですが、中国・ロシアの動向があります。そのため、アメリカは、日本の軍事強化、自衛軍化をもとめています。朝鮮半島内では米軍の再編が、ソウルの竜山基地の平澤への移転、群山基地の移転、済州島での韓国海軍基地建設(実際は米軍用)などさまざまな形ですすんでいます。基地の南方への移動は戦争時に米軍の被害を少なくするためのものです。
このような戦争準備のなかで扶桑社の教科書が出てきています。それは歴史の歪曲のみならず、憲法改悪の動きとつながるものです。それはあらたな戦争をおこなうための根拠づくりであり、あらたな帝国主義の動きです。朝鮮での戦争準備と結びついた動きなのです。
新自由主義と帝国主義はグローバリゼーションのメダルの表裏です。新自由主義は労働者に苦しみをもたらし解雇者やパート労働者を増やし賃金を下げます。帝国主義は労働者を戦争に動員します。このようななかで資本への抵抗や戦争への反対を組織し、階級としての団結をすすめていきたいと考えます。
●独島問題と盧武鉉政権の評価について
独島問題については、階級的な視点、民族主義的視点の2面からみることができます。独島問題は日本の侵略の方向性を示すものです。かつて独島占領をへて植民地支配をおこなっていった歴史があります。今あらたに独島を日本の領土であると主張することは、朝鮮半島は日本のものであるという主張につながります。
韓国では日本帝国主義支配への怒りのみならず、日本の軍国主義化と戦争準備への動きに対する怒りと抵抗があります。韓国の保守層はこの問題を民族主義の問題とし、階級的な視点を後景化させています。南北分断60年は特殊な状況であり、階級と民族の問題が混在化していることも事実です。
盧武鉉政権の評価については、民族主義的な立場、民主主義的な立場、形式的改革、階級的立場、の4点からみることができます。民族主義的には日本への過去清算要求が出ています。しかし日韓協定の問題は未解決です。民主主義的には実質的な改革はありません。形式的には権威主義的な側面はなくなり、民衆と同じ言葉を大統領が使っています。韓国内での支持率は今30パーセント代です。それは経済問題によります。韓国では貧富の差が広がり、経済は沈滞状況です。外国資本がつぎつぎに入り込み、パートや失業が増え、中小企業の倒産が増えています。現政権は新自由主義・開放政策ですから、階級的には財閥や外国資本のための政策を行っているわけです。国家権力は政府にはなく企業にあるというのです。改革派の市民の中には、失業は個人の責任という者までいます。
●新自由主義とのたたかいのために
新自由主義の動きを階級的な視点で考えます。
「新自由主義」というと新しい自由がくるような印象を持ちます。よいことだから対案も出さずに反対するなと評価する人もあらわれます。「民営化」というと民衆自身が経営するような幻想を持ちます。非生産的なものを改善するのだから反対するなという印象をもたらします。
しかしこれらの用語はイデオロギーであり、民主労総は民営化ではなく「私企業化」「私営化」と呼んでいます。民営化は新自由主義の核心にあるものです。その狙いを明らかにすることが必要です。労働者の雇用や賃金は保証されず、運賃が上がり、事故も増えます。福知山線事故のように、利益のためには何でもやるということに他なりません。韓国通信の民営化によって、数万人が解雇され、非正規職がふえ、設備投資がおこなわれず、通話不能の場所さえ出ています。純利益は増加しています。電力や鉄道の民営化が狙われ、公務員への評価制度も導入され競争のなかに叩き込まれようとしています。
公共企業体は規模が大きく、労働者が経営できるようなものではありません。コンツェルンや外国資本が経営するようになります。
このなかで、民主労総は企業の公共性を提起し、公共企業体の民営化の停止を求め、再国営化も要求しています。他国では民営化の中止や再国営化の事例もあります。
民営化の目的は階級的な労働運動の破壊です。労働者の意識を企業意識と競争関係の中に持ち込み、労働者の団結をつぶすのです。かつては民主労総の柱だった現代重工の労組はトヨタ型の労働運動にむかいました。労働者が労働者を管理統制する方向です。他の業種では懐柔されて株式を貰い、労働者連帯よりも株式に一喜一憂する労働者も現れています。
新自由主義・民営化とのたたかいには、民営化が労働者や市民にどれだけの被害をもたらすのかを示すとともに、国際的な連帯が不可欠です。
李壽甲さんの提起
●日本の戦争準備と歴史歪曲
きょうは、この集会の天皇制賛美と歴史偽造を許さないという観点でみなさんとともに行動してきました。
かつて日本の戦略戦争を体験したものとして、今の日本の状況は不幸であり、きわめて危険の状況となっていると思います。かつての侵略の準備ととても似ています。日の丸君が代強制・有事法制と戦争の準備がすすんでいますが、それは労働者を総動員するためのものです。
軍国主義者たちによる歴史歪曲は侵略戦争をやろうとしているからです。日本は過去の戦争で2千万人を殺し、文化・生活を破壊尽くしたのです。12〜4歳の娘さんを、父母が助けてくれというのに連行していったことを、わたしも知っています。なぜそれを隠そうとするのか。再び戦争を起こすために歪曲しているのです。小の日本の侵略の歴史・体験については夜を徹しても語りつくせません。
日本の兵士は天皇に忠誠を尽くし、「天皇陛下のために」殺せば殺すほど評価されました。「肉弾3勇士」や「玉砕」が宣伝されたのです。
正しい教育がなされれば侵略戦争はできません。だから歪曲し事実を隠して、戦争を狙っているのです。その戦争の準備ができたから、日本側から独島問題が出されてきたのです。「有事」とは、日本自らが起こそうとしていることなのです。
浜松市教育長 様 浜松市教育委員様 2005年6月24日 浜松市教育委員会委員長 様 要請団体 人権平和浜松 浜松月桃の会
No!AWACSの会 6・24要請行動参加者
扶桑社版教科書を採択しないことを求める要請書
過去の侵略戦争において浜松は陸軍航空基地と軍需工場をもつ軍都であり、そのため激しい米軍の空襲を受けました。浜松から出撃した航空部隊は中国・シンガポール・ビルマ・インドなど各地で無差別空爆を繰り返しましたが、戦争末期には浜松市民がその体験を強いられたのです。
戦後に編集された浜松空襲の体験記をみれば、竜禅寺町では動員された女子学生が被爆し、頭部が飛び散って首がないもの、腹部が裂け大腸が露出したもの、手がないもの、脚部が切断されたものなど「その惨状は言語に絶す」と記録されています。浜松駅前では防空壕が艦砲の直撃弾を受け、50人余が死亡するなど、浜松市民の死亡者は3500人余りとなりました。この体験から、市民は体験記に「戦争が憎い」、「二度と繰り返すな、この惨なる戦争を」と記しています。
わたしたちは市民としてこの浜松の歴史に学び、今イラクで空爆を強いられている人々に想いを馳せ、このイラク戦争への自衛隊の派兵を糾弾するものです。
現在、市民の平和を求める想いに反するかたちで、靖国思想を肯定し、過去の戦争を正当化し、海外派兵をすすめる動きがすすんでいます。
教育においては、過去の戦争を正当化し愛国心と国家主権を強調する扶桑社版の歴史・公民教科書が検定に合格したことで、国内のみならずアジアからも大きな批判がでています。
扶桑社版教科書については、日本の戦争を正当化していること、加害や被害の記述が少ないこと、国家と天皇を重視し民衆の歴史を軽視していること、国家主権を強調し旧帝国憲法を賛美していること、近隣諸国を友好ではなく脅威の対象としていること、男女平等を否定的に描くこと、などさまざまな問題点があります。史実を恣意的につなげ、戦争を美化し、新たな戦争動員を狙っている教科書ということもできます。
21世紀を迎えた今、過去の戦争の清算と和解に向けての歩みをすすめ、東アジアでの国境・民族を超えての共同体を形成することが求められています。しかし、この教科書は極端な民族主義的偏向を持ったものであり、東アジアの友好・平和につながるものではありません。またこの教科書は、浜松地域に住む外国籍の人々に敵対的な関係をもたらすことになるものです。
わたしたちは、平和を求める市民として、中学生を持つ親として、教育現場で子どもたちに真実を教える者として、外国籍を持つ市民として、教育長・教育委員長・教育委員に要請します。
一 扶桑社版教科書は戦争を正当化し、新たな戦争動員につながるものであり、この教科書を採択しないこと。