企業の社会的責任(CSR)から問う強制連行
2009年7月11日、京都の龍谷大学社会科学研究所が主催して、企業の社会的責任(CSR)から強制連行問題を問う集会がもたれた。
集会では、日本製鉄の戦後補償裁判にかかわってきた奥村秀二弁護士が「戦後補償裁判の現状と企業責任」について話した。
奥村さんは言う。
戦後補償裁判では、裁判所は、国際法上は個人請求権を認めず、国内法では政府には国家無責任、企業には時効・徐斥を適用し、その責任を排除してきたが、2003年の東京高裁では国家無責任の法理を否定、時効・徐斥についても、2002年福岡高裁判決以後、日本企業の不法行為や安全配慮義務違反を認めるようになった。2004年には広島高裁で日本企業の損害賠償責任が認められた。このようななかで2007年4月27日の最高裁による西松判決(日中共同声明での請求権放棄)が出され、これが以後の、日韓条約や日中共同宣言での「請求権放棄」判決につながった。
しかしこの論理は政治的な判断であり、法的根拠は薄弱である。もともと日本政府は請求権放棄条項による放棄は外交保護権であるとし、個人請求権ではなかった。日本政府が解釈を転換したのはアメリカでの捕虜による提訴があり、その損害賠償を認めさせないためだった。また中国政府は中日共同声明での請求権放棄の解釈は違法・無効と判決後に見解を示している。
韓国では、三菱広島の原告が釜山で訴訟を起こし、日韓条約文書の公開、真相糾明への取り組み、強制連行被害者への補償につながった。中国でも提訴が予定されている。アメリカ、カナダ、オランダ、EUでは「慰安婦」決議がなされた。ILOでは戦時産業強制、慰安婦をILO29号条約違反とし、被害者要求を受け入れるように勧告している。企業は社会的責任をとり、救済に向けての努力をすべきである。挫けることなく、粘り勝ちしよう。
続いて韓国から参加した張完翼弁護士が「韓国での被害者補償の現状と課題」について話した。張さんは言う。
2008年日帝強占下強制動員被害真相糾明委員会は、過去時整理委員会との統合や09年3月に4年の真相調査が終わること、太平洋戦争前後国外強制動員犠牲者支援委員会との関係などの問題を抱え、混沌としていた。これらは真相調査期間が6か月延長され、支援委員会と事務局を統合して運営することでひとまず解決された。この支援委員会は2008年の6月の法律に基づいて成立したが、統合しての運営には新しい法律が必要だ。
韓国での訴訟についてみれば、三菱重工訴訟は09年2月に控訴審でも敗訴し、上告中であり、新日本製鉄訴訟は09年7月に控訴審の判決が出る。ポスコ(浦項製鉄)訴訟では2審で企業が社会的倫理を果たし基金などの方法をとる調停案が出されたが、会社側が拒否し、09年7月に判決がでたが、敗訴した。日本軍慰安婦では、日本政府に対し韓国政府が仲裁を請求しないことが憲法違反という憲法訴訟を起こしている。反人権的な国家犯罪については時効を無くすという特別法の制定が求められる。
現在、真相糾明に関する特別法の改正、犠牲者支援、原爆被害者調査支援、慰安婦被害者支援、サハリン同胞帰国・支援、占領下民間財産請求権実態調査など、さまざまな法律案がだされている。
龍谷大学の重本直利さんは「企業の果たすべき経済的責任と戦後補償責任」という題で話した。
重本さんは言う。
企業の社会的責任の中身は「社会に対する企業の経済的責任(CER)」である。CERは雇用、良質・安全な商品・サービスの提供、適正な賃金支払い、正しい納税、職場環境の改善、などをいう。社史では100年以上の歴史を記しているのだから、経済組織としての法人は継続している。時効として責任を取らないことは誤りである。
強制連行裁判に対する企業の対応をみると、異法人、60年以上前、時効などを主張し、経団連担当者は企業責任を問う全国ネットとの面会を拒否している。三菱マテリアルや三井鉱山は「国が和解協議を拒否している以上企業としても和解協議をおこなうのは困難」(1995年)という対応である。他方ドイツの企業は「記憶・責任・未来」財団を設立し、総額49億1000万ユーロの補償をおこなった。過去の企業責任に目を閉ざす企業にCSRを語る資格はない。
このような3者の問題提起を受け、参加者は話し合った。現在の問題点が明らかにされ、今後の運動にむけての視点が明確にされた討論会だった。 (T)