20097 強制動員真相究明全国研究集会参加記

 

2009725日から26日にかけて強制動員真相究明全国研究集会が神戸市内でもたれ、連行朝鮮人名簿、供託金問題を中心に活発な討論がもたれた。

ここでは集会で話された供託金問題について、そこで学んだことやその前後に強制動員真相究明ネットの活動であきらかになったことを記してまとめとしたい。

戦後、朝鮮人の未払い金の多くは供託によって処理されていった。この供託には2種類があり、一つは民法494条によるものである。この供託は弁済者が供託によって債務を免れるというものであり、弁済供託という。なお、民法495条では、供託場所を債務の履行地の供託所とし、債務者へは供託通知書を出すこととしている。

この供託が行われるようになるのは、1946年の厚労発572号労政局長通達「朝鮮人労務者等に対する未払い金その他に関する件」によるものであり、朝鮮人連盟などの団体が各事業所に対して未払い金の支払いを請求する動きに対抗しての処理方法だった。

もう一つの供託は、1950228日の政令22号「国外居住外国人等に対する債務弁済のための供託の特例に関する政令」によるものである。この供託処理では、供託場所を東京法務局とし、政令で定めるまで供託金の時効はないものとされた。また、民法495条による供託通知書の発行は不必要とした。

通知なしで供託をすることを認めたわけであるが、供託は債権の保護のためのものであり、返還を請求する権利は継続しているということができる。

朝鮮人の未払い金については、1946年ころから供託が行われていき、さらに1950年の政令22号で再供託されたものもあるようである。政令22号によって、軍人軍属についての未払い金は東京法務局への供託がすすめられ、軍人軍属分ですでに供託されていたものは再供託されていった。軍人軍属の未払い金については東京法務局で集中した管理がおこなわれるようになったということができる。

真相糾明ネットメンバーの情報公開請求によって、東京法務局の供託明細書については氏名・住所などを伏せた形で公開されたが、明細書は1950年で540枚、1951年で3524枚、1952年で3024枚、1953年で1942枚であり、1954年には2枚となって減少している。供託が1950年から53年にかけて集中しておこなわれていたことがわかる。1958年と59年には226枚、221枚の増加がみられる。1950年から52年の供託のうち労働者分は109516枚であり、多くが軍人軍属分とみられる。

供託にあたっては、供託書が作成され、添付書類として供託明細書も作成された。この明細書には債権者である朝鮮人の氏名や住所が記載されることになる。供託書は正本と副本が作成され、正本は供託者の企業などが、副本は供託所である法務局などが保管する。また、供託を受ける機関では、供託の受付簿を作成する。政令22号による供託についてみれば、東京法務局の場合、19503月から19593月までは「金銭供託受付簿」、1959年以後は「金銭供託元帳」という帳面で保管されている。これらの供託書類は重要書類であり、企業内でも保管されているものが多数あるだろう。

各企業による労働者未払い金の供託状況の集計は、195010月の労働省労働基準局の調査「帰国朝鮮人に対する未払賃金債務等に関する調査について」で行われた。それにより、1953年には全国的な一覧表である「帰国朝鮮人に対する未払賃金債務等に関する調査集計」が作成され、「朝鮮人の在日資産調査報告書」なども作成されている。

この史料は国立公文書館つくば分館で公開された『経済協力韓国105』という文書のなかに収録されていた。この文書が2008年に公開されたことにより、企業ごとに未払い金の供託状況があきらかになった。この史料によれば、供託・未供託分での未払い金の判明分は、約13万件分、約14360円分となる。

しかしこれは未払い金の一端を示すものとみられる。この調査が、『経済協力韓国105』という文書に収録されているように、日韓交渉における日本側の内部資料として作成されたものである。

軍人軍属の供託金については、200712月に日本政府から韓国政府に軍人軍属関係の供託書と供託明細書が渡された。それにより韓国の日帝強占下強制動員被害真相糾明委員会での調査も進展し、調査報告「朝鮮人軍人軍属に関する『供託書』『供託明細書』の基礎分析」(『韓日民族問題研究』14所収)も出された。

この韓国側に渡された史料の分析によれば、明細書の件数で、陸軍で約6万、海軍で約55千人分の計115千人ほどが記載され、重複を除けば、供託人数は陸軍で58126人、海軍で36449人の計94575人分となり、金額は陸軍で約3360万円、海軍約5818万円の計9178万円になるという。つまり、9000万円を超える金額が未払いのままになっていることが判明している。

しかし、「旧海軍軍属身上調査表」には92209人の供託が記されていることから、この判明分の数は未払い金の一部を示すものとみられている。海軍分の分析結果をみると、1946年から49年までに各地で供託されていたものが、政令22号によって1951年以降、東京法務局へと再供託されていることがわかる。

なお、2010年1月、韓国の真相糾明委員会は、企業に連行された労働者分の供託金名簿の情報については、日本政府から韓国政府へと20103月に引き渡されることを公表した。今後の分析によって、企業への強制連行の状況が明らかになるだろう。

以上、供託金についてまとめてみた。不明である事柄がまだ多いが、今後、補充・訂正していきたい。                             
                               (竹内・
20101月)