2010・8 対日抗争期強制動員被害調査及び国外強制動員犠牲者等支援委員会訪問記
●対日抗争期強制動員被害調査及び国外強制動員犠牲者等支援委員会の成立と活動
韓国では過去清算の動きの高まりの中で、二〇〇四年二月に、日帝強占下強制動員被害真相糾明に関する特別法が成立した。それにより、二〇〇四年一一月には強制動員被害真相糾明委員会が発足した。真相糾明委員会への被害者の申告は二三万件近くなされ、委員会はその被害認定をすすめてきた。さらに二〇〇七年一一月に強制動員犠牲者支援法が成立すると被害者への支援活動がとりくまれるようになり、その活動を真相糾明委員会がになうようになった。糾明委員会の組織活動は延長を重ねて二〇一〇年三月まで続いた。期間中には真相調査と被害者支援は完了できなかった。
過去清算の動きを終わらせようとする政府側の動きの中で、過去清算に関する組織の多くが解散することになったが、強制動員に関する活動は継続され、二〇一〇年四月にあらたに対日抗争期強制動員被害調査及び国外強制動員犠牲者等支援委員会が組織された。職員はいったん解雇されて再募集されたため、活動が本格化したのは五月以降のことである。
二〇一〇年八月、この対日抗争期強制動員被害調査及び国外強制動員犠牲者等支援委員会(以下、調査支援委員会と略記)を訪問して、活動の状況について話を聞き、所蔵資料の閲覧をおこなった。以下はその報告である。
調査支援委員会の組織は、運営・企画、真相調査、支援審査の部署に大別できる。
運営・企画のうちの運営では、組織の管理、人事、予算執行、支援申請、電算システムの構築運営、史料の収集統括、計画樹立などをおこなう。企画では、委員会業務の総括、記録や報告書の作成、資料館・博物館の建設、海外追悼事業、遺骨実態調査、広報、法対などをおこなう。この下に調査と支援審査の課が置かれている。
調査では、調査一課が強制動員調査計画を立てる。調査の分担は、調査一課が軍人・軍務員・慰安婦、調査二課が中国・太平洋・サハリン・国内の強制動員労務者、調査三課が北海道以外の強制動員労務者、調査四課が北海道の強制動員労務者の被害調査をおこない、それぞれ各課で研究・資料収集・資料集の発刊をおこなう。
支援審査では、審査一課が支援審査総合計画を立て、強制動員と遺族の判定、死亡者・行方不明者への慰労金と生存者医療支援金の審査、犠牲者・遺族審査分科会の運営などをおこなっている。審査二課が、障害慰労金と障害関連の審査、障害等級判定分科会の運営、第三課が、未払金への支援金の審査、未払金関連調査、未払金被害審査分科会の運営などをおこなっている。
現在の第一の目標は、被害認定の処理率をたかめることにある。二三万件近い被害申請に対しての認定処理は二〇一〇年二月時点で五〇%を超えた状況であったから、その処理をすすめることが目標となる。調査支援委員会の設立で調査官数は一〇〇人以上に増やされた。ノウハウが蓄積されることで、月に一万件以上の処理もできるようになった。続いての課題は支援金の支給であり、申請者の九〇%が処理されている。支援対象者は、死亡者や行方不明者、未払い金被害者、生存被害者(医療支援)などであり、八月現在で三万七千件が処理されている。このうち死亡・行方不明者は八千二百人ほどであり、医療支援金の支給は九千件ほどである。
他の主な活動は、真相調査(浮島丸や紀州鉱山ほか)、釜山での記念館の建設、海外巡礼や慰霊碑建設などの追悼関連事業、遺骨返還協議などがある。釜山での記念館の建設は工事担当の企業が公募され、年内に着工することになる。遺骨の返還については予算がついていないという。
糾明委員会の時期に比べ、担当職員を増やすことで被害認定はすすんだが、強制動員の調査活動と遺骨返還事業は後退しているようにみられる。資料類の管理部署も縮小したが、名簿類や所蔵史料の冊子が作成されるなど、被害者や研究者による資料照会にも応じる態勢はある。
今回の訪問では、委員会の活動と主目標、資料閲覧の照会、企業供託名簿での企業名の一覧化とその公開、朝鮮内での動員における主要な現場の例、軍人軍属関係名簿における部隊の具体的な名前、沖縄戦関係死亡者の認定状況、日本内企業で動員認定された企業名のリスト、連行期北海道死亡者名簿の校訂結果の提供、年金名簿記載者の提供状況などについて質問した。また、委員会の所蔵資料の閲覧を申請し、調査用に収集された資料類を閲覧し、入力されている委員会認定名簿を検索して閲覧した。
調査支援委員会の調査部門の活動は二〇一一年二月までであり、あと半年である。ということはあらたな調査計画を立てることはできず、今課題となっている事案の処理しかできないということになるだろう。支援審査の部門は二〇一一年一二月末までであり、一回六ヶ月の二回の延長が認められても、二〇一二年一二月末でその活動は終わる。
調査支援委員会は、現在の申請被害の認定処理と支援金支給でその活動を終わるというわけである。個別支援といくつかの事例の報告書がだされることにはなるが、強制連行・強制労働の全体像は未解明のままになってしまう可能性もある。
朝鮮からの強制連行・強制労働は植民地支配での収奪を象徴するものである。その状況の解明とその不法性への賠償の実現はいまも課題である。現在までに収集された資料の活用と未だ公開されていない企業と政府の史料の公開を求めるとともに、日本内での強制労働被害者への賠償につながる立法に向けての活動がいっそう求められているように感じた。 (竹内)