イラク派兵と有事7法案

2004年6月5日イラク派兵を問う講座での木元茂夫さんの話から

     自衛隊内での動揺

木元です。「すべての基地にNO!を・ファイト神奈川」という団体で活動しています。32年前ベトナム反戦運動が高まるなか、相模原―横浜で米軍戦車阻止闘争がおこなわれました。90年代に沖縄で反基地運動の高まりの中で、70年代からの相模原や横須賀での平和運動をリンクしたグループです。

今回出された有事7法案は予想以上に長文の法律であり、分析に時間がかかるものです。にもかかわらず、衆議院での審議はたった52時間でした。90年代初めのPKO派兵法の際には2年を費やして法律ができていたのです。国会での審議は軽視され、さらに国会審議抜きで―政令の改正だけで―多国籍軍への参加の話がすすんでいます。

けれども自衛隊はこのように続く海外派兵に適応できる部隊ではないと思います。すでにテロ特措法によって、インド洋派兵は2年半にわたりおこなわれています。長引く派兵は自衛隊内部に動揺を生んでいます。日本には補給艦が4隻ありますが、派兵に対応できる「ときわ」(横須賀)「とわだ」(呉)「はまな」(佐世保)の3隻がローテーションをくみ、が護衛艦(駆逐艦)付で派兵されています。横須賀の「ときわ」をみても、177日間派兵され、戻って3ヶ月間横須賀にいて、また177日間の派兵と厳しい勤務内容です。インド洋へはすでに延べ6000人が派兵されています。

防衛庁側が出してきた資料によれば、この中で50人が配置転換を申し出て許可されています。許可されなかった人も含めた配転希望者の数は、おそらくもっと多いでしょう。この配転希望の動きは、「静かな兵役拒否」であると、私たちは受け止めるべきではないでしょうか。自衛隊の内部には長期の派兵によって、矛盾がたまっているといえます。わたしたちが横須賀でチラシをまいても自衛官の受け取りが良くなっていますし、アンケートも自衛官と家族から12通が返ってきました。「派遣絶対反対」と書かれた回答もありました。派兵はすすんでいますが、それほどスムーズにいってはいないと言っていいでしょう。無理な派兵は自衛隊内部を動揺させます。さまざまな形でもれてくる自衛官の本音に耳を傾け、それを手かがりに運動のやり方を考えていきましょう。

 

●有事7法案の問題点

さて、イラク報道はあっても有事関連法や反対集会のついての報道はほとんどありません。ろくな審議もされていないのが現状です。

有事7法案についてその問題点の概略をみてみます。

外国軍用品等海上輸送規制法案は臨検をおこなうためのものです。すでに臨検は海上保安庁が日常業務としておこない訓練もしています。海自の指揮下で臨検し停戦・拿捕し、それにより捕虜がうまれることになります。その捕虜の取り扱いのために捕虜等取り扱い法案が出ています。それに合わせて自衛隊法の改正案がでています。米軍に武器弾薬を提供することができるようにし、捕虜収容所を設置するというのです。この収容所は自衛隊法の第27条に追加されるのですが、この条文は地連業務についての項なのです。

日本国憲法第76条では軍法会議はもてないことになっていますが、外国軍用品審判所をおくなど現憲法規定に挑戦的なものがあります。このようなものをつくっていいのでしょうか。 

特定公共施設等の利用法案では軍が港湾等を優先的に利用できるようにし、自治体に対しその責務を示しています。これまで接岸は自治体の許可が必要だったのですが、優先的に使用できるようにしようというのです。横須賀では市に対して原子力艦船の入港についての事前の通告があるのですが、9・11以降事前の公開はなくなっています。

米軍行動円滑化法案では、米軍が飛行場・道路・海域などを使用するとき『要請に応じるよう努めるものとする』というような責務の規定が入っています。船舶の航行にともなう海上保安庁長官の指定に反する行為には、20条で3月以下の懲役30万円以下の罰金という罰則規定をつくっています。

国民保護法案についてみれば、37条で平時からの協議会の設置が規定されています。しかし、神奈川県との交渉で感じたのですが、行政自身あまり積極的ではないと思います。法が通過しても、自治体は抵抗のベースになりえると思います。

 

●内部矛盾を見すえて反戦運動を

小泉首相は04年5月に2度目の訪朝をしました。和解の方向にもっていきたいというのが日本の政財界の本音だろうと思います。中国との経済関係からみて、朝鮮での戦争は日本にとって利益は少ないのです。戦争の主導権はアメリカに握り、経済復興の主導権もアメリカが握るということになります。そうした展開は、決して望ましいものではないでしょう。日米防衛協力はどんどん進んでいますが、ひたすら戦争へ、ということではないと思います。しかし、ブッシュ政権のPSI―拡散防止構想に乗っかって、北朝鮮のミサイル輸出を規制するための動きが着実に進んでいます。これは要注意です。

イラク派兵にしても想像していた以上に自衛官がネットでの書き込みやインタビューに応じていました。派兵反対の意思表示は予想以上にあったのでは、と思います。彼ら、彼女らも、実はいきたくないと考えている人が大多数でしょう。実際、防衛庁も治安情勢の悪化した後は、陸自をサマワから外へだしてはいないのです。もし戦闘に参加すればそれを支持する人々は少ないでしょう。

米軍のアルグレイブ収容所での虐待は派兵の大義を説明できなくさせています。派兵の継続は綱渡り的状況なのです。

歴史を見てもベトナム戦争、イランでのパーレビ政権の崩壊等、アメリカの軍事行動は成功していません。アメリカでも、人が死んでいくことに対する否定的な意識はこれまで以上に高いものがあります。国内の世論調査でも800名を超えた米軍の戦死者は「許容量を超えた」とする人々が多くなっています。米国政権内での内部対立も拡大しています。肥大化した軍需産業がすすめてきた側面が強いこのイラク戦争に対しての矛盾が顕在化しています。それほど米国内は強固ではないのです。

わたしたちが反対すれば派兵をやめさせるチャンスはある。支配の側が抱えている内部矛盾を見すえ、あきらめずに運動をすすめることが大切だと思います。

有事7法は成立しましたが、北朝鮮との国交正常化を基本的な課題としつつ、一方でほとんど可能性のない有事を想定した体制を整備していくことは、政府にとってもそんなに簡単ではありません。反撃のチャンスは、いろいろなところにあるでしょう。「国民保護協議会」なる組織が各都道府県に作られることになりましたが、順調にいくでしょうか。まずは、この動きに注目し、対抗する論理と運動をつくっていきましょう。

 

有事関連法案・特定船舶入港禁止法案の廃案と
イラクからの自衛隊の撤兵を求める要請書




 平和と人権の道をすすむのか、戦争と差別の道をすすむかが問われる今日、私たちの平和への思いに反し、日本は戦争のできる国家づくりの道をすすんでいます。現在国会では有事関連7法案と特定船舶入港禁止法案が衆議院を通過し、参議院で審されています。これらは日本を戦争体制に組み込んでいく法案であり、わたしたちはこれらの法案の廃案を強く求めます。

 また、03年末以来の自衛隊のイラク派兵は5か月が経過し、浜松基地からも3派にわたって派兵されています。この派兵は「人道復興支援」を口実とした米軍支援であり、イラクへの侵略戦争の加担です。憲法のみならずイラク特措法にも反する派兵を即中止し撤兵をすすめることを求めます。

 有事関連法案は、国民保護という名の戦争への民衆動員、米軍の戦争への軍事的支援、自衛隊の参戦、船舶への臨検・攻撃、報道統制、自治体への軍事的統制、民間活動の統制と処罰、反戦平和運動への弾圧、などにつながるものであり、憲法の基本原則に反するものです。また朝鮮を仮想敵国とし、軍拡をすすめることは南北統一や平和的外交努力に反するものです。戦争とその準備こそ非人道的行為です。人道を語るのであるならば、戦争の準備をやめ、アメリカによるイラク占領を中止させ、自衛隊を撤兵させるべきです。

 わたしたちは平和と人権をもとめる市民として、これらの法案の制定の動きに抗議し、その廃案を要求し、イラク占領の中止と即時撤兵を求めます。



日本国首相様                       2004年6月5日  

 6・5イラク派兵を問う講座にて採択  

NO!AWACSの会浜松