浜松基地PAC3導入と
ミサイル防衛問題を考える
2006年2月19日浜松集会での
杉原浩司さんの話の要約
●ミサイル防衛とは
こんにちは、「核とミサイル防衛にNO!キャンペーン」の杉原です。
在日米軍の再編問題でミサイル防衛(MD)の問題を多くの人が見落としていると米シンクタンクの研究員が指摘しています。MDは再編=同盟変革の「カンフル剤」なのです。
はじめにMDの歴史に簡単にふれます。MDの源流は1980年代レーガン政権時のSDI=戦略防衛構想です。当時、このSDIに対して、軍拡競争を促進する、戦略的安定性を損なう、ソ連がSDIに同調するか不明、同盟国の安全保障を脅かす、莫大なコストに見合う効果がない、技術的現実性がない、ABM条約(対弾道ミサイルシステム制限条約)などの軍備管理取り決めに反する、新たなコンピューター戦争を招来する、といった批判がありましたが、これらは現在のMDにもあてはまります。
SDIはいったん挫折したかに見えましたが、1990年代、父ブッシュ、クリントンと経る中でアメリカはNMD(全米ミサイル防衛)とTMD(戦域ミサイル防衛)を構想し、日本へも共同の技術研究を持ちかけました。当時は日本を主体的に守るためのものという位置づけでした。21世紀になって登場したブッシュ政権はこれらを一体化させたMD(ミサイル防衛)を言い始めます。ブッシュは2001年5月、国防大学での演説で「ABM条約に代わる新たな枠組みを」と宣言し、ミサイルからの「多層防衛」を進めていきます。多層防衛とは、ブースト(上昇)段階・ミッドコース(中間飛行)段階・ターミナル(最終)段階に応じて、地上・海上・空中・宇宙に迎撃兵器を配備してミサイルを撃ち落とすという構想です。
●ミサイル防衛の問題点
MDとは日本政府が言うような「純粋に防御的」なものではありません。ノーム・チョムスキーが推進側の本音を紹介しています(『覇権か、生存か』集英社新書)。それは「単なる盾ではなくアメリカの軍事行動を可能にするもの」(ランド研究所)であり、「アメリカにはどこにでも環境を『形作る』能力と意思があるという保証」(アンドルー・ベイスヴィッチ)を与える「地球支配の道具」(ローレンス・カプラン)、すなわち「防衛というよりミサイル」(ジム・ウォルシュ)なのです。
「宇宙への兵器と核の配備に反対するグローバルネットワーク」(www.space4peace.org)のブルース・ギャグノンは「アメリカの核による先制第一撃能力を万能にする目的で構築されつつある」(『世界』05年7月号)と語っています。MDとは、「反撃されても大丈夫」と安心を偽装し侵略を誘導する「先制攻撃促進装置」であり「攻撃力倍増装置」なのです。
アメリカ宇宙軍(当時)は『2020年へのビジョン』で、世界経済のグローバル化によって格差がさらに広がり、その中でのアメリカの国益と投資を守るために、軍事作戦での宇宙面を支配するとそのもくろみを語っています。05年5月には米空軍が「人工衛星防衛」を名目に宇宙兵器配備を認める大統領令の発令を求めていると報道されました。MDは宇宙の軍事化・兵器化のための「トロイの木馬」でもあるのです。
またMDは既に軍拡競争を誘発しています。中国はMDに対抗してミサイルの多弾頭化を進めていますし、ロシアは地下移動式のICBM(大陸間弾道ミサイル)の実戦配備や最新型MDの開発と売却を進めています。このアメリカのMDへの参加を日本はじめオーストラリア・インド・イギリス・ポーランド・NATO・韓国などが進めています。台湾は日本と並ぶ有力なMD市場ですが、野党の反対でPAC3を含む米武器購入予算案の審議入りが否決され続け、アメリカのいら立ちを招いています。一方カナダは国内での反対の声に押されてMDへの参加を拒否しましたが、最近の総選挙で保守派が政権を握ったため流動的な情勢となりました。
●MDに巣食う軍産複合体
MDは軍産複合体にとっては金の成る木です。「スパイラル(らせん状)開発」と称して、未完成なものを最終価格も不明のまま見せつけて買わせ、更新させるのです。東アジアのMD市場はアメリカ軍需産業にとって最大の標的です。ランド研究所は日本への導入で最大5兆9千億円もの経費を見込んでいます。
アメリカ4大軍需産業を見てみましょう。次世代戦闘機JSF共同開発の中核を担うロッキード・マーチンはイージスレーダーシステム改修・PAC3・サードミサイルなど、トマホークを製造するレイセオンはSM3・Xバンドレーダー、JDAM(GPS誘導爆弾)を量産し無人戦闘機を開発するボーイングはABL(空中レーザー戦闘機)、ノースロップ・グラマンはグローバルホーク(無人偵察機)などを売り込もうとしています。軍需メーカーとして有名なTRW社はノースロップ・グラマンに吸収されました。
また日本の軍需産業も延命事業の目玉としてMDに参加しています。海上配備の次世代SM3については日米の共同研究から共同開発へと進んでいます。特にSM3の先端保護用の部品であるノーズコーンについては三菱重工製が使われることになりました(第2段ロケットモーターはIHIエアロスペース製を採用)。3月9日頃には、このノーズコーンが正常に作動して本体から分離することなどを確認する初の日米共同迎撃実験がハワイ沖で行なわれようとしています。
三菱重工は浜松にも配備が報道されているPAC3のライセンス生産も始めます。三菱側は1000億円を超える利益を見込んでいます。バッジシステムという自動警戒管制組織の改修では日本電気が、監視・偵察用の成層圏プラットフォーム飛行船では川崎重工が、アメリカ側のブラックボックスであったイージス艦の中枢システムの修理では三菱電機などが参入して利益を上げようとしています。
イージス艦の中枢システムの日米共同研究にまで踏み出そうというわけですから、軍事秘密保護が問題になります。既に6回行なわれ、日本ではなんと憲政記念館が会場となっている「日米安保戦略会議」は、日本の新旧国防族で構成される安全保障議員協議会が主催しています。現防衛庁長官の額賀福志郎はその事務総長、民主党代表の前原誠司は常任理事です。ここで軍事秘密の保全が話題となりました。
元防衛庁長官の久間章生が旗振り役となって、今年の5月にアメリカに正式に提案されるのが、GSOMIA(ジーソミア=軍事秘密一般保全協定)です。8月にはGSOMIA締結に向けた日米共同作業チームの発足も予定されています。これを結んで日本の軍需産業がアメリカのブラックボックスの修理をもくろんでいるのです。
三菱重工会長で日本経団連副会長でもある西岡喬は、武器輸出を待望し、MDに続いて、新型戦闘機、無人機、対テロ・生物化学兵器対処装備、ロボットなどを日米の共同開発としたいと発言しています。トヨタの奥田碩が会長を務める日本経団連は2004年7月に武器輸出3原則や宇宙の平和利用原則の見直しを提言しました。次期経団連会長(5月に就任)の御手洗富士夫はキヤノンから出るのですが、彼が社長だった1999年に、キヤノンの「研究開発5原則」(1991年策定)に盛り込まれていた軍事利用目的の研究開発禁止を放棄しています。
● PAC3・SM3導入の現状
MD関係費として2006年度予算案には1399億円が計上されています。地上から発射される新型パトリオットのPAC3は2006年度末からの部隊配備が予定されています。軍事雑誌(「航空ファン」05年10月号)の記事によれば、2007年度末までには入間(第1高射群)に、2008年度末までには浜松の高射教導隊と第2術科学校に配備されます。さらに09年度末と10年度末までに岐阜(第4高射群)、春日(第2高射群)への配備が行なわれるといいます。配備時期に時間がかかるために、米軍の嘉手納のPAC3を「首都圏防衛」に利用する計画も報道されています。PAC3は1発5億円以上と言われています。
イージス艦から発射されるSM3に関しては、日本のイージス艦の「こんごう」が2008年の派米訓練(ハワイ沖)で発射実験を予定しています。今年の3月9日頃には共同開発に移行した次世代型SM3を使った米軍のレイクエリーからの迎撃実験が行なわれますが、日本側の負担は62億円です。SM3は当面購入するものに限っても1発20億円という高価なものです。このSM3は米軍が120発、自衛隊が36発を当面保有する予定です。米軍はMD計画により、既に日本にレーダー役のイージス艦5隻態勢をとり、さらに今年後半には横須賀にSM3を搭載したシャイローの配備を計画しています。また早期警戒レーダーであるXバンドレーダーを青森の空自車力分屯基地に半年以内に配備しようとしています。これは米国土防衛用であり、日米安保にさえ違反するものです。
さらにMDを運用するために、横田基地に空自と米第5空軍による共同統合作戦センターを設置し、将来的には統合部隊の指揮までもが検討されようとしています。横須賀の海、座間の陸と合わせて首都圏での「日米戦闘司令中枢の結合」が達成されつつあります。
● MDへの抵抗とオルタナティブを!
MDは戦後の平和に関する諸原則、すなわち、憲法の平和原則・武器輸出3原則・宇宙の平和利用原則・集団的自衛権不行使・攻撃的兵器の保有禁止(専守防衛)・文民統制などを総破壊するものであり、実質的な改憲に等しいものです。
このMDに対し、自治体の港湾管理権に基づく米艦船の寄稿拒否やミサイル・レーダー配備予定地域での反対など、「自治体の平和力」を高めていくことが求められます。また、軍産複合体への明確な異議申し立てが必要です。軍需産業は本来、憲法第9条から見れば違憲産業、非合法産業です。「兵器を作るな」という当たり前の声を出していきたいと思います。
さらに、東北アジア地域の軍縮構想を打ち出すことも必要です。先日行なわれた日朝の安全保障協議などに対しても、MDやトマホークの削減を含む相互の軍縮を呼びかけるよう市民が声を挙げるべきでしょう。また、韓国や台湾のMD反対の民衆運動との連携も大切です。国会レベルでは、民主党内の護憲派グループにMD反対を提言に盛り込むよう働きかける必要もあるでしょう。GSOMIAや宇宙の軍事利用への反対キャンペーンも求められています。当面の課題は、3月9日頃に予定されている次世代型SM3の日米共同迎撃実験への反対行動です。
イラク戦争やMDにも深く関与するオーストラリアのパインギャップ基地に対する非暴力直接行動に参加したジム・ダウリングは、「私たちの安全は、より巨大で精巧な爆弾や、標的識別・偵察システムによってもたらされるのではなく、よりよき関係を構築することによってもたらされる」(TUP速報)と語っています。
2005年11月8日の日経新聞にはボーイング社の一面広告が掲載されていますが、月のなかにAWACS(空中警戒管制機)の影が映っています。こんな形で軍需産業の宣伝が堂々と行なわれているのです。浜松の皆さん、ともにMDとPAC3に反対し、宇宙の軍事化を止めていきましょう。(当日の話に一部加筆)
2・19行動記事
10時浜松基地フィールドワーク(高射教導隊・広報館のナイキ・PAC2・旧陸軍高射砲連隊跡などを見学)
11時に浜松基地へとPAC3反対の要請、
14時集会(パレットにて)
ビデオ『帰ってきたスターウォーズ』とテレビ朝日報道番組 杉原さんの講演・討論