2006年11月19日(日)14時   会場・板屋町会館
「核とミサイルを問う」
   ー現代の軍拡と政府の動向を考えるー
講師 池田五律さん    主催 人権平和浜松



 

20061119日、派兵チェック編集委員会の池田五律さんを招いて学習会を持った。以下は池田さんの講演の要約である。

 

浜松のみなさん、こんにちは、池田です。2006年初めには練馬の第1師団からイラクへ派兵されることになり、その抗議行動を行いました。自衛隊が地域浸透をいっそうすすめるようになり、また、町内会に不審者110番の廻状が回されたりしました。米軍再編に連動して、入間基地へのPAC3配備もすすめられているので、防衛庁と三菱重工への反対署名も集めはじめました。

● 弾道ミサイル防衛について

はじめに弾道ミサイルについてみておきます。簡単に言えば、核を搭載すれば戦略ミサイルとなり、人工衛星を打ち上げるためならロケットとなります。長距離ミサイルの典型は、大陸間弾道弾ミサイルです。

いわゆる「テポドン」ですが、テポドン1号は到達距離が2,000kmでしたが、テポドン2号は3,500kmといいます。これは、朝鮮からグアムに到達する距離となりますが、この射程は準中距離ミサイルレベルです。19971125日の米国防総省報告書では、射程距離を4,000km6,000kmと推定しています。この6,000kmは朝鮮からアラスカに到達する距離となり、5,500km以上の大陸間弾道ミサイル(ICBM)となります。ただし、このテポドン2号の射程距離については、様々な憶測があり、1995911日付『ソウル新聞』(韓国紙)では、米国防情報局(DIA)の分析として4,3006,000km、ロシア情報当局の分析として9,600kmと報道しています。また、1995929日付『ワシントンタイムズ』紙は、DIAの分析として7,440km、弾頭を小さくすれば9,920kmと報道しています。

今日では、この米国防総省の報告書の推定値が、テポドン2号の射程距離として一般的になっています。また、北朝鮮は米国全土が射程距離に入るテポドンXを開発しているという情報もあります。7月のテポドン発射訓練ではナホトカ沖に落下したと報道されています。アラスカ方面つまりアメリカ向きの訓練でしたが、失敗しました。また核実験が成功したのかどうかは不明です。

このようなミサイルからの防衛を口実に、「弾道ミサイル防衛」構想されるようになりました。弾道ミサイルを迎撃ミサイルで撃墜するというのです。

 このミサイル防衛では、@早期警戒衛星、早期警戒レーダー、Xバンドレーダーなどで探知し、A上昇段階で、航空機に装備したレーザー兵器や宇宙配備の攻撃衛星からレーザー攻撃(構想検討中)、B射程の短い戦域弾道ミサイルは海上発射型で迎撃(構想検討中)、大気圏外の慣性飛行段階で、海上発射型スタンダードミサイル(日米共同開発中SM3)によって迎撃、米本土防衛に関しては地上配備型も配備(開発中)

C射程の短い戦域弾道ミサイルをTHAADTerminal High Altitude Area Defense)で迎撃(開発中)し、再投入段階で、THAADあるいはパトリオット(PAC3)で迎撃(配備中)する、というのです。

 SM3開発は1984年から始まっていますが、現、ミサイル防衛局(3軍統合組織)の前身もこの年です。2001年には過去最高の395億ドルの予算を使い、強化してきたのです。このようなミサイル防衛の軍拡は、宇宙の軍事利用から「宇宙の兵器化」といわれています。PAC3で迎撃しても被害は甚大になります。

 ●ブッシュ政権の核戦略

 このミサイル防衛(MD)の歴史について次にみておきましょう。 

米ソ核軍拡競争は抑止力理論で正当化されていました。1960年代にはABM(Anti-Ballistic Missile)開発がすすみ、抑止力論にある「相互確証破壊」を崩壊させる危険がでました。「相互確証破壊」とは、核兵器を保有して対立する陣営のどちらかが戦略核兵器を使用した際、もう一方の陣営がそれを確実に察知して報復を行う、それにより、一方が核兵器を使えば最終的にお互いが必ず破滅するという状態のことを指しています。核を保有することで、互いの核兵器の使用をためらわせるというのです。

ABM開発に対して、1972年には弾道弾迎撃ミサイル制限(ABM)条約が結ばれました。レーガンはSDI構想による宇宙軍拡を推進しました。ブッシュ父は湾岸戦争をおこない、戦域弾道ミサイルの「脅威」を口実に、宇宙での迎撃・追跡システムを含むTHAADPAC3の計画を推進しました。クリントンは、宇宙配備がABM条約違反となることなどからTMD構想を示し、米本土防衛NMDと分けていました。

しかし、ブッシュjrTMDNMDを統合し、ミサイル防衛MDをすすめ、2002年にはABM条約を脱退したのです。冷戦時代の核戦略の三本柱はICBM(大陸間弾道弾)、SLBM(潜水艦発射弾道弾)、戦略爆撃機でしたが、ブッシュ政権は2001年に「対テロ戦争」の一環として「核態勢見直し」(NPR)をおこない、冷戦時代の「脅威ベース」から「テロリスト」や「ならず者国家」など「潜在的敵を抑止」する「能力ベース」へと態勢を転換したのです。それは、イラク、北朝鮮、イラン、ロシア、リビア、シリアを攻撃対象国とするものです。

あらたな三本柱は @核兵器(旧三本柱)および非核兵器による攻撃的打撃力システム A能動的および受動的防衛手段(MDなど)B将来発生する脅威に即応できる新たな能力を提供する、再活性化された防衛基盤(インフラ)の確立などです。小型核兵器開発も進めていくというのです。この新しい3本柱は、MDにみられるように、強化された指揮・管制および情報のシステムによって結びつけられるものです。

 

●日本のミサイル防衛

日本ではミサイル防衛をめぐる動きが、1998年のテポドン発射を契機に「新ガイドライン」の下で一気にすすみました。情報収集衛星は2003年に2基、2006年には1基がうちあげられました。99年には準備室でしたが、2001年に内閣衛星情報センターが設立されます。

1999年度から現在の海上配備型ミッドコース防衛システムにあたる海上配備型上層システムの日米共同技術研究がはじめられています。より高い能力を目指した迎撃ミサイルを、日米が共同して設計、試作および必要な試験を行うというのです。このなかで、ノーズコーン、第2段ロケットモーター、キネティック弾頭、赤外線シーカーに関する設計、試作および試験にむけての必要経費が計上され、1999年度から2005年度までに計約262億円が計上されているのです。2005年には日米共同開発へと移行し、共同開発経費は2006年度予算ではシステム設計に伴う経費約30億円が計上されました。

日本政府は20031219日に安全保障会議と閣議を開催し、米国が開発、配備しているミサイル防衛(MD)システムを、北朝鮮の中距離ミサイルに対処するという理由で2004年度から導入することを決定しました。04年度にはSM3PAC3を購入し、イージス艦1隻をSM3搭載型に改造し、航空自衛隊の高射群1個部隊をPAC3部隊へと改編するために1068億円を計上しています。

実際の配備は2007年度から11年度にかけてですが、イージス艦4隻と4高射群をPAC3部隊に改編します。これらの配備には維持管理費を含めて8000〜1兆円の費用が必要と、防衛庁は試算していますが、MDの主契約企業と関係の深い「ランド研究所」は日本のMD配備には1兆2000億円から5兆9000億円かかると、2001年の論文で試算しているのです。

また、「ガメラレーダー」の開発と配備もすすめられています。下甑島に配備予定の新型レーダー「FPS−XX」がそれです。報道によれば、防衛庁は、ミサイル防衛(MD)システムの一環として、空自下甑島分屯基地(薩摩川内市)に新型の警戒管制レーダー(FPS−XX)1基の配備をめざし、2006年度予算の概算要求に、整備費188億円を計上、2009年度までに全国で計4基の配備を予定し、下甑島は第1号となるといいます。防衛庁は下甑島のほか青森、新潟、沖縄各県で新型レーダーの配備を検討し、下甑島のレーダーは北朝鮮だけでなく、中国の弾道ミサイルも監視します。このようにMDにむけての研究開発がすすめられてきたのです。

在日米軍のミサイル防衛態勢の強化もすすめられています。在日米海軍は、横須賀港にアーレイバーク級ミサイル駆逐艦フィッツジェラルドカーティス・ウィルバージョン・S・マッケーンステザムラッセンマスティンを弾道ミサイル監視艦として、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦シャイローを弾道ミサイル迎撃艦として配備しています。空軍は常駐ではないのですが、沖縄の嘉手納基地RC-135WC-135などを展開させ、弾道ミサイル実験の光学/電子情報収集や大気中に浮遊する放射性物質の観測・収集して北朝鮮に対しての日米共同でのミサイル防衛態勢を敷いています。20076月から神奈川県の横須賀基地を拠点とする第7艦隊の艦艇を、空母と旗艦をのぞいてすべてイージス艦とするというのです。首都圏の在日米軍基地へのPAC3の配備を前倒しにするともいいます。また嘉手納基地へのPAC3の配備も強行されています。これらは「米軍再編」の流れの中にあり、空での日米の横田共同作戦センターの設立につながるものです。「自衛隊再編」が問題です。自衛隊へと管轄を委譲し、自由に米軍がそれを利用するという態勢が作られようとしています。

 

● ミサイル防衛の問題点

報道では、米国防総省ミサイル防衛局は20069月1日、陸上発射型のミサイル防衛実験を太平洋上で実施し、模擬弾道ミサイルの迎撃に成功したといいます。アラスカ州コディアクから標的となる模擬弾頭が打ち上げられ、バンデンバーグ空軍基地(カリフォルニア州)から発射された迎撃ミサイルが、大気圏外で撃ち落としたというのです。地上発射型の迎撃実験は、2004年12月と05年2月とこれまで2回とも失敗しているのですが、今回の実験では、総額約8千万ドル(約93億円)の費用をかけて実施しました。今年の6月には日本の自衛隊も参加して、ハワイ沖で海上からの弾道ミサイル迎撃実験をおこないました。

ところで、このように「ミサイルをミサイルで撃ち落とすことが本当に可能」なのでしょうか。記者の半田滋さんは、次のように紹介しています。「米国が日本政府に参加を勧めているTMD構想について、迎撃効果を疑う声が防衛庁内にある。湾岸戦争で生まれた『パトリオット神話』が幻想であることを知っているからだ」「湾岸戦争で米国は、イラクが発射したスカッド改良型の中距離弾道ミサイル「アルフセイン」を地対空ミサイル「パトリオット」(PAC2)で迎撃した。米軍は当初、96%を撃破と発表したが、その後の調査で9%にすぎないことが判明した」「TMD構想に含まれるPAC3や戦域高々度防空システムTHAADにしても、空中でミサイル同士をぶつけ合う神業的手法を取ることに変わりない。命中率が上がらず、技術的につまずいた米国のSDI(戦略防衛構想)の焼き直しだけに、命中精度は『まったくの未知数』(航空自衛隊幹部)。確実なのは、1個高射群で約800億円するパトリオットと比べ、はるかに高額であることぐらい」と。

ミサイルを撃ち落せる可能性があるのは上昇段階です。そのために、米本土向け弾道ミサイルを日本周辺で撃墜するということになるのです。ここから「集団的自衛権見直し」の声が出てくるわけです。このようなMDで儲かるのは軍需産業や宇宙航空産業です。そのために宇宙基本法改悪をすすめ、武器輸出三原則の緩和をすすめようとしているのです。

 

●核とミサイルの軍縮にむけて

 冷戦以後、アメリカ軍は「対テロ戦争」を以ってその存在理由としています。共同作戦計画・相互協力計画の刷新により、日本の港湾・空港のリスト化をすすめ、いつでもグローバルな展開に使えるような態勢づくりを狙っています。背景には、軍事の革命をすすめ、早期に発見して攻撃を加えるという「予防先制同時攻撃」を遂行するというビジョンがあります。この現代戦では、政府中枢の麻痺を謀る「麻痺戦」がキーワードとなり、社会の結び目への攻撃(結び目攻撃)が重視されています。そうした戦争で重視されるのが「情報戦・諜報戦」です。その意味では、世論操作を含めて、常に戦時となっているわけです。

このような文脈で米軍は「予防先制攻撃態勢」と「能力ベース」の再編と確立を進め、それに呼応して自衛隊再編・防衛庁の省への昇格・国家の再編・「国民保護」の態勢強化の動きがつぎつぎに出されてきているわけです。防衛省設置の動きにおいては、防衛大臣としての権限の拡大とともに、PKOや米軍の後方支援を含め海外派兵が自衛隊の本務とされることになります。恒久的海外派兵法策定も狙われています。海外派兵用の陸自の中央即応集団の設立もすすんでいます。朝霞にはこの即応集団の司令部の建物の建設がすすんでいます。座間には日米の陸の統合司令部ができるのです。自衛隊の夜間の戦闘訓練も増加しています。PKFの解除も狙われ、スーダンへのPKO派兵の動きもあるようです。

 このような中で自衛体内での矛盾も増加し、隊内でのいじめや隊員のDVも増えているといいます。

 北朝鮮は核やミサイルをもつことで、米朝対話を求めています。経済制裁の中で、アメリカがもっとも気にしているのは核拡散でしょう。日本の中には、核保有論を語る閣僚さえ出てきていますが、そのような愚かな動きは日本を浮きあがらせるだけです。臨検から「周辺事態」へと事態が動きかねない状況もあります。

常に不安と恐怖を煽って、訓練をかさねて危機をつくりだし、民衆を誘導していこうとする動きが顕著です。

 このような、いつでもどこでも戦争ができるという動きに抗して、核とミサイルの軍縮に向けての運動こそ求められているといえるでしょう。東京でもPAC3反対署名をはじめました。空の日米の共同司令部ができる横田基地への抗議行動もすすめたいと考えています。