『軍需工場は今』浜松上映会

2007511日の夜、『軍需工場は今』の上映会を持ち、この映画の製作にも関わった全造船三菱重工支部の久村さんに解説してもらった。この映像や解説への感想、討論の内容を以下にまとめておきたい。


戦争が終わってからの造船労働者の労働運動の闘いの原点には、2度と戦争をしない、戦争には加担しないという思いがあった。それは戦争を造船現場が支えてきた体験からだ。そのような平和への志向を持った造船労働運動への国家と資本による攻撃が強められたのは再軍備と防衛力強化がすすむ1965年から70年にかけてだった。それは侵略戦争にも使える兵器の生産体制作りの一環であり、警察・公安と連携して現場労働者への人権侵害が加えられた。組合分裂などによって全造船は少数組合になったが、そのなかでも差別と闘う運動がすすめられてきた。

現在では日米同盟による軍事行動を支援するための企業グループができている。自衛隊の海外展開には、武器の製造、メンテナンス、補修のための労働者が必要になる。防衛庁と三菱重工、川崎重工、石播重工、三菱電機、日本電気などは定款を結んでいる。自衛隊が戦争をし、民間人が武器を供給してささえることになる。特に武器製造現場では、職場八分、賃金昇格差別、職場追放などの人権侵害がすすむ。

支配者には憲法9条が邪魔になる。民間技術者の戦域派遣や職場の人権侵害、ものいえぬ職場作りは憲法違反であるから、この憲法を改悪して、武器輸出や米軍支援や基地再編をすすめていこうとしている。労働組合がそれを支えるようになっていることが問題だ。仲間が戦地にいっているのに、三菱のように兵器生産の方針を出している組合さえある。朝鮮のミサイル開発を口実にマスコミを利用し、MDをすすめているが、実際にあたるとはかれら自身も考えていないだろう。開発を進めて、利益を得、その技術を民間に転用することが狙いだ。

2005年の軍需産業の契約についてみると、三菱重工2417億、川崎重工1297億、三菱電機1142億、日本電気1078億、東芝495億、ユニバーサル造船397億、川崎造船363億、石川島播磨348億、小松製作所338億、富士通が313億を契約している。 

これらの現場は物言えぬ職場となり、安全配慮義務を無視した戦時出張がおこなわれている。これまで、リムパック演習の時には労働者が同行したこともあったが、現在では戦場への派遣がおこなわれている。

インド洋での米軍への給油は無料であり、空母への発着用燃料の給油までもおこなわれているが、この艦船の整備には労働者が必要になる。インド洋にまで輸送されて修理することもあるだろう。空自のC130の修理には川崎重工(各務原)や石川島播磨が関わることになる。イラクの陸自の車両は小松製作所が作った。クウェートからサマワへの輸送は日通の下請けが担った。JALは陸上自衛隊の撤退輸送に利用された。すでに誘導ミサイルの工場があるからPAC3のライセンス生産は三菱の小牧の工場でおこなわれるだろう。ミサイルの心臓部分は電気産業が担う。PAC3本体は三菱重工、心臓部や感知装置は他の企業も参加することになるだろう。長崎ではイージス艦の6隻目が完成した。企業にとっては国家の金を使って技術開発をおこなえることになる。防衛自体には反対しないにしても、イージス艦や空母が防衛に本当に必要なのか、侵略の兵器は作るべきではない、という呼びかけも必要だろう。

三菱重工は品川に移転したが、三菱地所がこの旧国鉄用地をおさえて新たな経営拠点とした。新幹線品川駅の設置もその一環であり、国鉄解体による資本の利権の分配を象徴する開発だ。三菱は「国家とともに」をスローガンにし、防衛一兆円産業を利用して技術開発を狙っている。

この三菱重工取締役会長の西岡喬は日本経団連防衛生産委員会の委員長も務めているが、2007年3月、日刊工業新聞に「日本の防衛産業のあるべき方向」を寄稿している。そこで西岡は、防衛を担うのはわれわれ日本人であり自衛隊を支援する後方態勢を整えること、防衛産業は真に誇らしいものであり積極的に問題提起すること、MDのように個々のシステムの統合運用(システムズオブシステムズ)を進めること、ネット化によるマルチロール性の強調、武器輸出3原則は日米同盟の趣旨に反すること、次期統合戦闘機の開発は30兆円以上のプロジェクトであり共同開発に参加すべきこと、平和のために武器を輸出しないという方針は世界の常識に反すること、などと記している。

このような現在の利益のみを追求するものたちの心の闇は限りなく深く、救済の糸口さえ探すことが困難のようだ。

防衛産業はさまざまな人権侵害に満ちている。メンテナンスのための派遣命令を出し、外に漏れないように指示する。おかしいといえば、「非健全」扱いされ、排除される。安全配慮義務に反すると労働者が抗議する。同僚たちが組合員に対し『出て行け』『帰れ』とコールする。データが改ざんされる。防衛関連市議員連盟ができる。軍港の誘致運動が始まる。戦争がこれば儲かる、給料も増えるという意識が浸透する。三菱の戦争責任を問うことなく被爆被害だけが語られ、そのなかで再び加害行為がすすむ。

このように現場は人間として否定される職場になるが、工場内では少数でも町に出れば多数だと闘いは続く。この映画はその闘いを描いている。そして、見るものの内側に計ることのできない志を与える。                   2007年5月(T



「軍需工場は今」上映会 に参加して

 

 世間にあまり知られていない産業があります。企業名を聞けば一流の企業ばかりです。何を生産している産業かと言えば防衛産業(軍需産業)です。聞こえは良いが、人を殺す武器をつくっているのです。

 5月11日人権平和浜松の主催で「軍需工場は今」という映画の上映会が開催されました。また、軍需産業労働者からの報告・意見交換もありました。

 映画では、自衛隊の海外派兵が本来任務とされ、MD計画での日米共同研究が進み、武器輸出全面解禁の働きを高める日本の軍需産業の実態が明るみにされている。軍需産業の職場では、差別と人権侵害でものも言えない職場づくりが行われてきています。

・会社と公安が一体となった労働者のリストづくり

 思想・信条・人間関係から家族構成など21項目におよぶ。それにより、賃金・昇格差別、職場八分が行われている。              

 会社の方針に異を唱える人は、たとえ優秀であっても仕事を与えられず、出社しても自分の机の前に座り、仕事をしないで一日を過ごす。社前では「出社するな」と書かれたプラカードを持った職員が威圧している。

・労働組合

 戦後結成された組合は、「戦争に二度と協力しない」との思いからつくられたが、分断攻撃にあい、闘う労働組合は少数派となっている。組合間差別も行われている。

・闘い    

 このような状況の中、地域の仲間、心ある労働者の支援により裁判闘争で人権侵害や賃金差別の救済がおこなわれた。 この映画は、その一部を使ってつくられた。

軍需産業労働者からの発言

・武器輸出三原則

 軍需産業は、憲法9条が障害となっている。9条が無ければ何でもできると財界(日本経団連)から政界に強い要請が行われている。

・北朝鮮のミサイル発射

 現在、軍事衛星が6機飛んでいる。発射はアメリカも日本政府も知っていた。マ スコミが北朝鮮の脅威をあおっているだけである。日本はイージス艦が3隻あれ ば守ることができる。

・MD計画(ミサイル防衛計画)

 技術者は誰もあたると思っていない。開発費は国が負担している。技術力のアップと民事に転用できるように時間をかけて研究をしている。

・後方支援

 給油艦を日本は4隻持っている。アラビア海やインド洋で後方支援として作業をしているがアメリカ軍への給油はタダとなっている。

・民間技術者の戦闘地域への派遣

 メンテナンスや修理を自衛隊員ができないため、防衛省の要請で民間の技術者が基地から戦闘機や輸送機を乗り継いで戦闘地域へ向かう。家族には行き先もいえず、自衛隊員のように危険手当はもらえない。戦闘地域へ行くこと自体が、憲法違反なのだか、救済策が何もない。

                                                  (まとめ・K)