「終わりなきミサイル防衛」に終止符を!

2008127日、岐阜の川崎重工と各務原の空自への要請行動の後、核とミサイル防衛にNO!キャンペーンの杉原浩司さんの講演会を持った。以下はその講演の概略である。

 

「終わりなきミサイル防衛」に終止符を!  
                〜岐阜での杉原浩司さんの話から〜

はじめに

「核とミサイル防衛にNO!キャンペーン」の活動を始めたのは、国際NGOの「宇宙への兵器と原子力の配備に反対する地球ネットワーク」(http://www.space4peace.org)の ブルース・ギャグノンさんが2000年秋に日本各地で講演を行った際、東京で受け入れ、話を聞いたのがきっかけです。「これはかなり大きな問題だ」と刺激を受けて、友人たちと一緒に、宇宙軍拡の問題も批判しながら活動してきました。

現在、ミサイル防衛問題は、首都圏へのPAC3配備などの形で具体化しています。PAC3ミサイルは、20073月末に入間(埼玉県)、11月末には習志野(千葉県)に配備され、081月末[注:130日に配備強行]には武山(横須賀)、3月末には霞ヶ浦(茨城県)へと配備が予定されています。さらに08年度には浜松、09年度には岐阜、白山(三重県)、饗庭野(滋賀県)、10年度には芦屋、築城、高良台(いずれも福岡県)と続きます。この間地域での反対運動も形成され、連携も始まっています。

ミサイル防衛(MD)とは何か

「ミサイル防衛」(MD)とは、弾道ミサイルを発射直後の上昇段階、大気圏外を飛ぶ中間飛行段階、着弾直前の最終段階という3段階にわたって撃ち落そうという計画です。上昇段階では開発中の航空機からのレーザー兵器(ABL)で、大気圏外ではイージス艦からのSM3などで、最終段階では地上からのPAC3などで迎撃するというのです。大気圏内外で撃ち落す地上配備型ミサイル「サード」(THAAD)も開発中であり、いずれ日本配備が狙われるでしょう。さらに米国は、宇宙空間に迎撃兵器を配備することも構想しています。ブッシュ政権は、あらゆる段階での迎撃を想定して、あらゆる空間に迎撃システムを張りめぐらすという「多層防衛」を掲げて、MDを積極的に推進してきました。米国はMDに日本を巻き込み、電子技術など日本の優れた民生技術の取り込みを図っています。日本政府は世界で一番の恥ずべき対米協力者になっています。

MDの源流は、米ソ冷戦下の1983年にレーガン米大統領が行ったいわゆる「スターウォーズ演説」にあります。ソ連の核ミサイルを無力化する平和のための兵器だとぶち上げ、「SDI」(戦略防衛構想)を推進しましたが、約11兆円が投じられた末にいったんは挫折しました。しかし、ブッシュ政権下で完全に息を吹き返し、実現可能とされる技術を発展させる形で蘇生したのです。MDが「SDIの息子」と呼ばれるのはそのためです。

「多層防衛」を掲げるMDは、壮大であるがゆえに軍需産業にとっては非常に美味しい構想です。MDの大きな特徴は「スパイラル(らせん状)開発」という、2年ごとに計画を立てシステム更新を続けていく開発方式を採っていることです。そのため、本来必要な実戦試験などを省いて未完成でも配備を優先させます。次々に更新、入れ替えを続けるため、軍需産業は半永久的な利権を保障されます。私たちから見れば無駄使いの典型に他なりません。PAC3は米国製が1発約5億円、三菱重工のライセンス生産により79億円に跳ね上がるとされ、SM31発約20億円と言われています。日本のMDは初期配備分だけで約1兆円、いずれは約6兆円に達すると試算(米ランド研究所)されています。

宇宙の問題に関して補足すると、米国は、2008会計年度軍事予算に極超音速の宇宙爆撃機(FARCON)の研究費3億ドルや自国の衛星防衛システムの開発費などを計上しました。中国の衛星破壊実験を格好の口実として、宇宙空間での戦争に備えるというのです。宇宙の軍事化から「兵器化」(ウェポナイゼーション=宇宙空間への兵器配備)の段階に近づいています。MDはそのための「トロイの木馬」でもあるのです。

MDはいわゆる「矛と盾」の盾にあたるものであり、攻撃力を高めることにその本質があります。決して「防衛」のためのものではありません。日本政府の「専守防衛にかなう」との説明はまやかしです。日本には自衛隊だけが存在するわけではありません。米海軍横須賀基地のイージス艦などには、500発を超える最新鋭の巡航ミサイル「タクティカル・トマホーク」が装備され、その約半数が中国や北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を標的とした発射態勢にあると言われています。日本列島が周辺国に対して史上最強とも言える先制攻撃力を保持していることを自覚すべきです。それにプラスしてMDを備えることは、「反撃しても無駄」「いつでも先制攻撃できるぞ」と相手を威かくしているに等しいのです。

ロシア、中国、北朝鮮は当然ながら反発し、対抗して軍備強化を進めるという悪循環=「軍拡スパイラル」が始動しています。「踏み込んだ外交」によって軍縮交渉を行わない限り、「終わりなき軍拡競争」「終わりなきミサイル防衛」の悪循環が続いてしまうのです。

その意味でMDは「先制攻撃促進装置」であり、「攻撃力倍増装置」であり、「軍拡競争促進装置」なのです。それは米国に「力を用いると威嚇する完全な自由」(ローレンス・カプラン)を与える「地球支配の道具」でもあります。

●それでもMDは止まらない

200212月に石破茂(防衛庁長官)が米国に行き、ブッシュのMD初期配備声明にぶつける形で「将来の開発、配備を視野に検討したい」と踏み込んだ発言を行いました。このコメントを準備したのは守屋武昌だったと言われています。翌0312月には小泉政権がMD導入を閣議決定するに至ります。そのMDは、日米政府の軍事政策において大きなウエイトを占めています。今回大きな軍産疑獄事件が発覚し、自衛隊・防衛省に対する批判が渦巻いている中でも、MD配備のスピードはほとんど緩んでいません。

2007年度後半の動きを振り返ると、1012日に青森県の米軍三沢基地に「JTAGS」(統合戦術地上ステーション)が配備されました。これは米国の早期警戒衛星の探知情報を受信し、司令部やイージス艦などに伝える役目を持ちます。1129日には習志野基地にPAC3の発射機が搬入されました。そして、1218日には海自イージス艦「こんごう」が60億円をかけてハワイ沖でSM3による初の迎撃実験を行いました。さらに「新テロ特措法」成立後すぐの08114日には、東京・新宿御苑でPAC3の「移動展開訓練」が強行されました。PAC3の射程は半径数キロから20キロと言われています。首都中枢(首相官邸、国会、中央省庁、皇居、大企業本社など)を防衛するために、事前に部隊を都心に移動させておく必要があるというのが、訓練の口実です。

こんごうのSM3実験へのハワイのNGOの抗議声明には、ハワイの先住民族の聖地である墓地が米軍のミサイル発射施設となり、ミサイル実験に使われていることへの強い抗議が記されていました。これはグアムにも言えることですが、先住民族の土地や海や空を占領したうえに基地強化や日米軍事再編が進行していることは押さえておくべきでしょう。

今回使われたSM3はレイセオン社製で1発約20億円。実験は事前に入念な予備試験を行い、飛翔コースなども把握したうえで行われており、出来レースに過ぎません。現行のSM3は、ハワイやグアム、米国土に向かう高高度のミサイルには届かないとされるため、日米政府は、ICBM(大陸間弾道弾)を迎撃できるとされる次世代型SM3の共同開発を進めています。三菱重工やIHIエアロスペースが部品の開発に参入しています。しかし、それをいくら配備しても、多数のおとりを持つミサイルや、一度に10発撃たれた場合にはとても完全には対応できないでしょう。

MDの標的は憲法第9

MDが憲法第9条を標的にしていることがますますはっきりしてきました。自衛隊の成立から海外派兵の実行に至るまで、第9条は解釈改憲によって形骸化されてきました。さらに恒久派兵法の制定まで狙われていますが、MDは解釈改憲の最終段階を担い、第9条をなし崩しに破壊します。憲法第9条を守ろうというなら、このMDに反対しなければなりません。  

例えば、MDは宇宙空間での迎撃=戦争が前提となっており、「宇宙の平和利用原則」は骨抜きにされます(注:米国が2008220日にSM3によってスパイ衛星を撃墜したことは、日本も衛星攻撃能力を備えることを意味する)。また、継続審議となっている「宇宙基本法案」は4月以降の審議再開と成立が狙われていますが、スパイ衛星の高性能化や早期警戒衛星の保有に道を開き、宇宙の軍事利用に公然と踏み込むものです。

日本の次世代SM3による迎撃は、米国を狙ったミサイルを撃ち落すためのものであり、憲法違反とされる集団的自衛権の行使そのものです。新SM3は同盟国への輸出が狙われており、武器輸出禁止三原則の破壊を加速させます。MDはまた、「文民統制」原則を揺るがすものです。閣議をしていたら間に合わないとして、自衛隊法が改悪され、迎撃権限は現場指揮官に委任されることになりました。戦争権限が自衛隊に丸投げされたのです。このようにMDは、憲法第9条の下で辛くも維持されてきた原則をことごとく破壊するのです。

 PAC3についても国民を守るかのように宣伝されていますが、守ると想定しているのは国家中枢や軍事基地、一部の大都市圏だけです。PAC3の展開はむしろ市民生活を脅かします。例えばレーダー装置は強力な電磁波を出します。関連して言えば、米軍が空自の車力分屯基地(青森県)に配備したXバンドレーダーは、さらに強力な電磁波を放出しています。航空機の通信に支障を及ぼすとされ、日本で初めて無期限の飛行禁止区域が設定されました。このため、海難救助活動で捜索ヘリが飛ばせないという被害さえ起こりました。ちなみにこのXバンドレーダーの警備は、イラクで市民を銃殺するなどの戦争犯罪を起こした悪名高い民間軍事会社であるブラックウォーター社に委託されています。

20079月に行ったPAC3の「移動展開訓練」に関する公開ヒアリングの場で、防衛省側は「電波法を守って運用する」と言うものの、「電磁波を測定するのか」「そのデータは公表するのか」と追及すると、「測定器は常備しない」「データは軍事秘密であり公表できない」と開き直りました。街中でPAC3を発射すれば爆風によって近隣のビルの窓が割れるとも言われています。また、081月の新宿御苑での移動訓練は、マスコミが事前の公表を控えたことで終了後にはじめて報道されました。防衛省は東京都には直前に知らせたものの、地元の区への公表は控えるよう指示し都もそれに従っています。秘密戦時訓練のような状況であり、情報統制がまかり通っています。

実際に日本全土を守ろうとすればPAC3は数百基が必要になりますが、経費から見てもそんなに配備はできません。本気で日本を防衛するとは考えていないと見るべきです。やはり「軍隊は民衆を守らない」のです。今後も「移動展開訓練」の具体的な問題点を追及しながら、PAC3配備に粘り強く反対していくつもりです。

MDが引き起こす世界的軍拡

MDは予想通りグローバルな軍拡競争を引き起こしています。その中でも「新冷戦」と呼ばれるほどに深刻な亀裂を引き起こしているのが東欧への配備計画です。チェコにXバンドレーダーを、ポーランドに地上配備型の迎撃ミサイルを配備しようというものです。

これに対し、ロシアは自国のミサイルの無力化を狙うものだとして強く反発し、軍拡で対抗しています。0712月、プーチン政権は欧州での通常兵力の上限などを定めた「欧州通常戦力(CFE)条約」の履行停止を宣言しました。また、MDを打ち破るとされる新型ICBMを開発したり、中距離核戦力(INF)全廃条約からの脱退の可能性さえ示唆しています。ロシアは米国に対抗しながら自国の軍産複合体の成長を図っています。

一方で、チェコやポーランドでの反対の世論も勢いを増しています。チェコでは予定地周辺の村長らが呼びかけて相次いで住民投票が行われ、反対票が圧倒的多数を占めました。

東北アジアにおいても、中国はMDに対抗して、多弾頭ミサイルの開発を進めています。朝鮮半島情勢も外交的解決に向かっていますが、米国は軍備強化を並行させるアプローチを手放しておらず楽観できません。また韓国も軍備のハイテク化を急速に進めています。MDは「軍拡スパイラル」を生んでいるのです。

MDは軍需利権の中心

MDは軍産複合体を確実に成長させます。山田洋行をめぐる軍産疑獄はようやくその一端を明るみに出しました。守屋武昌前事務次官は、沖縄の米軍新基地建設や海兵隊のグアム移転への税金投入やMD導入に深く関わってきた人物です。彼は95年に弾道ミサイル防衛研究室を設置し初代室長になりました。彼はその後、石破茂の2002年訪米時のMD導入検討発言を仕組むなどMD導入の脚本と演出を一手に担いました。

疑獄のなかで秋山直紀の存在がクローズアップされました。彼は081月に参院で参考人招致されましたが、2003年から始まった「日米安保戦略会議」を仕切ってきた男です。0311月、憲政記念館にミサイルの実物大模型を展示して、ボーイングやロッキード・マーチン、レイセオン、ノースロップ・グラマンといった米巨大軍需産業の兵器見本市を行いました。この日米安保戦略会議の最大のテーマがMDです。

秋山は新旧国防族でつくる「安全保障議員協議会」の事務局や「日米平和・文化交流協会」の専務理事を務めています。彼は春には訪米団を組織し、国防族と日米の軍需企業をつなぐ役割を果たしてきました。久間章生や額賀福志郎はその中心メンバーであり、石破や前原誠司も会議の常連パネラーでした。

山田洋行以上に防衛省と三菱グループとの関係が問題です。三菱重工、三菱電機、三菱商事は、PAC3などのライセンス生産や「FPS5」などのMD用レーダー・偵察衛星の製造やロケット打ち上げ、兵器輸入代理店などの活動で巨額の利益を得ています。港区高輪の「三菱開東閣」で石破や制服組幹部らへの集団接待が行われているという一部報道はその工作の一端でしょう。三菱のみならずIHIや川崎重工、伊藤忠商事、丸紅などが大きな利権を確保しています。この実態こそが明るみにされなければなりません。

止めよう!MDと軍産複合体

これまで反戦・平和運動は軍需産業の問題を十分に学習せず、それらに反対していく動きは弱かったと思います。憲法第9条がありながら、60年余にわたり軍需産業は存在し続けています。今では市場は年2兆円規模に肥大し、事実上の「軍産学複合体」を形成しています。MDをはじめとする兵器の配備に具体的に反対していかないと第9条は守れません。また、日本は米国から兵器を買っていますが、購入額は2006年にはアジアではオーストラリアについで第2位(約1000億円)、世界でも第5位となっています。

軍産複合体の問題に向き合い、「武器を作らせない、売らせない」、そして「買わせない」運動が必要でしょう。日米が共同して次世代SM3という最先端兵器の開発を進めていることは本当に恥ずべきことです。20068月の日米安保戦略会議で防衛庁防衛政策局長(当時)の大古和雄はこう言い放ちました。「日米の得意技術を結集することで(新SM3の)早期開発が可能になる。そのためには日米で自国のはらわたまでお互いに見せ合うことが必要だ。NATOでもそこまで至っていない」。日本政府は「第二次アーミテージ報告」(072月)が要求する日米軍需産業の「統合」という路線を忠実に突き進んでいます。

憲法第9条の制約をはるかに超える海外派兵、先制攻撃用の武器が次々に開発され生産されています。ロッキードやボーイングや三菱などの軍需産業は、そのなかで巨額の利益を得ていくことになるでしょう。

第二次アーミテージ報告は、次世代イージス艦の日米共同開発や科学技術予算を軍事技術開発に充てることまで提言しています。さらに、武器輸出三原則の全面解除まで言及しています。日本の民生技術の更なる軍事転用も狙われています。この点は今後、大きなせめぎ合いとなるでしょう。日本には、軍需には関わらないという企業や技術者の平和意識が残っています。2007年末に再々放送されたNHKドラマ『ハゲタカ』では、大手電機メーカーの光学レンズ部門の米軍需ファンドへの売却が従業員による独立(EBO)によって阻止されるさまが描かれていました。軍需ファンドが欲しがったベテラン技能士は仲間にこう問いかけます。「我々技術者も技術が何のために使われているのか、責任を持って感じ続けなきゃいけないと思う」。

次世代SM3の重要部品の「ノーズコーン」(弾頭を保護する覆い)の開発は三菱重工が担当していますが、その部品は九州の山あいにある下請けの町工場で職人によって作られているそうです。この技術が先制攻撃用の「盾」に組み込まれていくわけです。科学者や技術者の責任を厳しく問いかけることが今まで以上に大切になるでしょう。

MDの正当性は今薄らいできています。米朝関係は平和条約の締結をも展望しながら、徐々に改善に向かっているようです。ミサイルにミサイルで対応するのではなく、踏み込んだ外交によって軍縮を図り、敵対的な関係自体を解消すべきでしょう。

グローバリゼーションによる「構造改革」は貧困や格差を拡大させています。地球環境の深刻な悪化も大きな問題となっています。「軍事に使う金を貧困や環境対策に回せ」という声が、かつてない説得力を持つ時代になっています。6兆円にまで膨らむというミサイル防衛に浪費するゆとりなど本来ありません。

そして、軍事利権の一部が明るみに出され、MDを正当化してきた利権構造もようやく見えてきました。MDはまさしく「利権まみれの偽装兵器」です。「軍産学複合体」に対峙し、「終わりなきミサイル防衛」に終止符を打ちましょう。今はその大きなチャンスであり、私たちの力で舵を切る時です。MDに反対する取組みを横につなげ、風向きを変えていきましょう。    

(資料提供:不戦へのネットワーク/文責:人権平和・浜松)