「反・貧困−輝く生命を守る街へ」浜松集会2008.2.29
2月29日
集会は浜松在住のブラジル人のグループ「アカデミーボディバーン」の武道とダンスのパフォーマンスで始まった。演壇には黒地に反貧困の文字を記した布が飾られた。そこに生活保護支援ネットワークの布川日佐史さんが立ち、開会のあいさつをした。布川さんは浜松での事件を紹介し、貧困が社会問題となり、病院にも行けず、生活保護も受けられないまま、周囲が見ているにもかかわらず、助けられずに死んでいくこの社会の問題点を語り、再発の防止を呼びかけた。
反貧困ネットワークの活動をすすめる湯浅誠さんが、基調講演の「生きるに値する生を−貧困は自己責任ではない」をおこなった。
湯浅さんは最近の相談事例から話をはじめ、派遣業や病気で生活が破壊され、車中生活やネットカフェ生活を強いられてきた人々の現状を紹介し、これらの事例から貧困が社会化され、一世代後が危機的な状況であり、今後どうなるのかを問い、社会をどう変えていくのか考えるべき時代になったことを強調した。さらに雇用・社会保険・生活保護の3つのセフティネットがボロボロとなったことを示し、非正規化が社会保険や医療保険からも排除されていく現実を紹介した。野宿者とは目に見える貧困層であり、ガス漏れを予告する炭鉱のカナリアのようにこの社会の崩壊を予告する存在である。貧困は教育・企業・家族・公的扶助・自己などさまざまな支えを喪失する中で生まれ、トラブルがいくつも重なって「溜め」のない状況に追いやられておきる。貧乏は金がない状態だが、貧困とは生きていれない状況である。湯浅さんは、貧困は決して「自己責任」ではない、選択肢をふやして「溜め」をつくり、貧困の背景を見えるように関心を持つべきとし、最後に「人間が人間として再生産されない状況で次の世代を産んでいくことができるのか。それで社会の活力がもたらされるというのか。それは社会の体力が弱まったということだ。軍事力ではなく、人間が人間らしく暮らせる社会こそ、本当に強い社会だ。この集会を新たな10年にむけてのきっかけにしよう」と呼びかけた。
次に、生活問題対策全国会議の調査団の舟木浩さんが発言した。調査団はこの日、事件の関連地を訪問し、現地調査をした。舟木さんは、生活保護という第3のネットを死守して第2第1のネットを強めたいとし、今回の事件は、
生活保護支援ネットワークの藤沢智実さんは浜松事件の経過と問題点を明らかにした。藤沢さんは第1に市福祉課は11月はじめにこの女性が急迫状況にあったことが判断できたのであり、そのときに保護対象とすべきであった。第2に救急車は市役所に向かったが、この行動は救急業務としては問題がある。第3に市職員には女性を引き受けたことの保護責任があり、横たわったまま放置したのは問題。第4に女性の周辺には多くの人がいたのに、救急車を呼ぼうとする人がいなかった。野宿者ゆえ人間の尊厳が無視された。藤沢さんはこのように問題をまとめ、生活保護申請に立ち会っての体験から、
集会では4人の市民が貧困状況との苦闘を話した。Aさんはうつ状況やアルコール依存とのたたかいを話し、今後の更生への意志を語った。Bさんは子どもの頃施設に預けられ面会時間も少なくさびしかったことを話し、民家を改築した寮での生活から居住空間を変えたい、仕事がしたいと話した。Cさんは脳出血や脳梗塞で生活が苦しかったが、2年前に支援団体に出会い、生活保護を受けて生活できるようになったことを話した。Dさんは夫のDVから逃れて母子寮に入り、さらに他県に逃れたが、生活保護が受けられず、子どもも学校に行かなくなった経過を述べ、浜松に戻って生活保護を受けて暮らしている現状を話し、「子どもと安心して生活できる福祉を」と訴えた。
オルタナティブ誌の日系ブラジル人記者の桶樫マリさんは浜松地域の日系ブラジル人の労働問題と社会保障の現状を次のように話した。
浜松には2万人ほどのブラジル人がいるが、国民健康保険への加入率は27パーセントと全国46位であり、定住してはいるが無保険・無年金が多い。外国人の労働災害は増加し、県内では1990年代に100件ほどであったものが、2003年には200件を超えるようになり、2日に一人が怪我をしている。労災の例をあげると、西田さんは29歳だが、指を4本切断し、藤沢さんは38歳で溶接ロボットに頭を挟まれ、2人の子を残して死亡した。日系人は2交替、12時間労働で働く人も多く、ノルマに追い立てられている。私たちの生活について知ってほしいし、差別をなくしたい。
浜松地域で外国人労働者や野宿者の支援にかかわってきた四ツ谷今日子さんは次のように語った。ボランティアとして生活保護申請などを支援してきたが、3分の1が継続している。福祉事務所は心身の状況を把握しないで無理な就労指導をすることもあり、それが再野宿を強いることにもなる。福祉事務所自身が野宿者を訪問して把握し、医療支援もすべき、法制度は市民のためにあり、その運用は人間の生命を大切にする立場でおこなわれるもの。人間の弱さに共感し、弱さを愛し、弱さを肯定して生きていきたい。弱い人間も命の輝きを失わないように生きられる社会にしたい。野宿者を嫌わず排除しないでほしい。日系ブラジル・ペルー人の野宿者支援に日本人市民も参加してほしい。
公的扶助論を専攻する根本久仁子さんは、市職員が社会福祉の仕事にかかわるものとして、人間の尊厳を確信し、利用者が主人公として輝く存在となるよう、利用者の利益の実現に向けて仕事をしてほしいと、市の職員の労働の方向性を示した。またその前提として福祉事務所の職員が伸びやかに働ける職場づくりが必要であり、そのような職場になるように、市民の声を反映させることが大切と語った。
反戦の署名や要請書を持っていっても市の職員は冷淡で、無愛想な対応をすることが多い。「輝く生命を守る街」とするには、このようにスズキなどの企業本位の市政を真の意味での市民本位のものにすることが、第一であると思う。 (T)