淡々と証言

同僚たち3人「たちかぜ」裁判

 

 2009年7月8日、「たちかぜ」裁判は2回目の証人審問だった。梅雨の雨にぬれた横浜地裁には、10時10分の開廷前から傍聴者が列を作り抽選を待った。

 9時50分抽選。浜松自衛官人権裁判の原告2人と私は幸いにして当選、傍聴席に座ることができた。今日は自殺したTさんの元同僚3人と国側証人I砲雷長の証人審問だ。

 まず、NOさんの主審問からだ。被告のS元二曹がガス銃で物陰から突然撃つのは日常茶飯事であったこと、撃たれると血がにじむくらい痛く、青アザになること、Tさんの背中やお尻に20前後の青紫色のアザがあるのを入浴中に見たことがあると証言し、M班長が知らないはずがないことを述べた。また、自殺の前夜、Tさんと養老の滝で飲み、Tさんが途中まで書いた遺書を取り上げたことも証言した。

次はTさんの先輩であるKOさん。S元二曹から殴る、蹴る、ガス銃・電動ガンで撃たれるなどの暴行を日常的に受けていた。とりわけ、6月1日の暴行事件では首から下のほとんどのところを50〜60発も撃たれた。M班長も見ていた。ビデオの購入も強要された。Tさんが殴られるのも電動ガンで撃たれるのも何回も見ている。M班長がそれを止めるようS元二曹に指導しているのは見たことはない、黙認していたのだと思う。KOさんの証言は自身も被害者だけに迫力がある。

KAさんの証言は午後からになった。KAさんは、自分はS元二曹からの暴行を受けていないが、隊内で殴る、蹴るなどのS元二曹の暴行が日常的にあったことは目撃している、Tさんがエアーガンで撃たれたことも2、3回目撃しているし、アザもみている、Tさんは本当に痛いと言っていたと話した。また、自衛隊を辞めたあとTさんが自殺したことを知ったが、I砲雷長からの電話はなかったと証言した。

国側の反対審問は、Tさんがパチンコやスロット、フーゾクで遊び、借金を重ねたことを印象づけようとするのみで、S元二曹の暴行については否定できないためか、証人の細部の記憶違いを指摘して証言の信用性を貶めようとするのが精一杯という印象だ。

4人目、最後は国側証人のI砲雷長。既に退官しているというが、三等海佐で二等海佐の艦長の次の位置にいた人物だ。事件後艦長の指示でTさんの生前からの行動の調査をしたという。調査は聞き取りで、NOさん、KOさん、KAさんのほか1名の調査をしたという。しかし、I砲雷長の聞き取りはTさんが借金のため自殺したという予断の下にパチンコやフーゾクの話に集中したものであったようだ。彼自身はS元二曹の暴行やガス銃、ナイフ製造などについては見ていないし報告も受けていないと証言した。

審問は午後4時30分に終了した。

裁判後の報告集会では、原告側3人の証言について、几帳面な証言で事実をきちんと述べたと弁護団は評価し、反対審問にも淡々と対応できたと報告された。

また、I砲雷長の陳述書には話していないはずのことが書かれていて、借金やフーゾクのオンパレードでS元二曹の暴行にまったく触れていないことなどの問題があり、反対審問でその信用性を打ち砕くことができた報告された。

自衛官の自殺の多発という悲しい現実をきっかけに遺族のやむにやられぬ想いから始まった裁判において、自衛隊の体質と下級兵士の権利が具体的に問われる段階に入ったのを目の当たりにして感慨深い。現職も含め3人の自衛官が原告側として証言台に立ったことの意義は大きい。

 次回はいよいよ原告と被告S元二曹の証人審問だ。                           [M]

 

「たちかぜ」裁判の日程・横浜地裁

 9月9日(水)  13:30〜   証人審問  被告S、原告1名