猿舞座「いのちみつめて、うたをこぼせ」・
浜松実演2009.10.18
10月18日、浜松市の可美の総合センターで、猿舞座の猿まわしの実演「いのちみつめて、うたをこぼせ」がもたれた。主催は静岡県人権・地域改善推進会。猿舞座は村崎修二さんが1982年に結成した一座であり、猿まわしの実演は村崎耕平さんと猿の夏水(なつみ)によっておこなわれた。村崎修二さんの太鼓と浅草の雑芸弾のメンバーも支援しての実演だった。
猿まわしは被差別部落の芸能であったが、戦時体制の下で禁止された。30年ほど前に山口県(周防)でその再生を求めての研究と復興作業がおこなわれ、周防猿まわしの会が結成された。この猿まわしの会の芸能集団としてのプロ化の方向を批判して生まれた一座が猿舞座である。猿舞座は伝統芸能・民俗文化の継承と研究を重視し、猿の調教においても「本仕込み」といって、暴力によらない調教方法を取り、猿まわし師と猿とのコミュニケーションと信頼関係の構築をめざしている。
浜松の実演では、木登り、いす座り、空中輪くぐりである鶯の谷渡、鯉の滝登りなどがおこなわれた。猿は神の使いとされ、その演技は厄払いを意味し、猿は魔よけの赤いものを身につける。「本仕込み」はたたかず、かみつかずに教えるという調教であり、そのような調教によって仕込まれた猿を「花猿」と呼んでいる。
人間の気持ちを伝えられるように、ただひたすら猿との良い関係を作るために2年を過ごし、触れても大丈夫という関係を作り、その後に芸を仕込むという。叩かないで育てた猿には表情があり、叩いて調教した猿は無表情か怒っているかのどちらかになり、服をぬがせると体は傷だらけという。「人猿一体」の境地を目指しての調教である。このような調教方法をとる猿まわし師は数少ないという。
伝統文化の継承と研究を重視し、猿の調教における暴力の否定を基調とする世界観が教えるものは多い。猿自身の表情をみて、これは本物だと評価したという古人の視点は、大切にされねばならないと思う。このような猿と人間との関係とその演技は、尊厳とは何かを語りえるものだった。 (T)