4.25広瀬隆浜松講演『浜岡原発の危険な話』

浜松で広瀬隆さんの講演会をもちました。広瀬さんは「地球は生きている」とし、巨大地震が迫るなかで推進されている日本での原子力発電がいかに危険を語りました。以下、参考に当日のレジュメから、図を除いた文章部分を紹介します。前日には三島で講演会がもたれました。その講演映像のDVDがあり、講演の視聴を希望する方には送ります。人権平和浜松まで連絡してください。

   ◆いよいよ迫る東海大地震と浜岡原発

                                 広瀬隆   2010年4月25日浜松 

 浜岡原発は、1976年3月17日に1号機が営業運転を開始した。それからわずか5ヶ月後の8月23日に、当時東京大学理学部助手だった石橋克彦氏が地震予知連絡会で「駿河湾でマグニチュード8クラスの巨大地震が起こる」と警告を発し、以来すでに34年にわたってこのとてつもない巨大地震の危険性と同居しながら、綱渡りの原子炉運転を続けてきた。
 

太平洋を中心にプレートの配置を見ると、「フィリピン海プレート」、巨大な「太平洋プレート」、「北米プレート」、「ユーラシアプレート」がこみあっているところ、左図の左上に日本がある。このプレート4枚がひしめき合う中心こそ、右図の静岡県御前崎で、だからこそ周期的に大地震が起こる場所だということがよく分る。そして2004年と昨年のスマトラ島沖大地震の動きが、南のオーストラリアプレートを通じて、御前崎周辺のプレートに力をおよぼし、全部が連動している今、かなり危険な時期に来ていることを自覚しなければならない。

浜岡原発に危機感を持つわれわれが、最もおそれているのは、下図のように、巨大地震の東海地震と南海地震がほぼ100〜250年周期で起こってきた歴史の必然性を知っているからである。昭和東南海地震はやや南に震源域があって、東海地震のエネルギーが解放されなかったので、2010年現在は、安政東海大地震からすでに156年後にあたり、次の大地震の発生を「今か今か」と待っている不安な状態にある。

では、この周期性は、どのようなメカニズムで起こる自然現象だろうか。

 浜岡原発を中心にそれを見ると、駿河湾に対して、南海トラフと駿河トラフの海底大断層が切れ込んでいる。そして太平洋側から、フィリピン海プレートが、このトラフで常に沈み込み運動を続け、左側のユーラシアプレート(静岡県一帯)がそれに引きずられて、毎日無理な沈み込みを起こしている。
 しかし、ある期間が経つと、その歪みの限界を超えて、ユーラシアプレートが巨大な力でハネかえる。それが、東海地震・南海地震が周期的に発生する原理である。幕末の安政東海地震は、点線で描かれる震源域のように、このトラフと呼ばれる海底の大断層が引き起こしたマグニチュード8.4というとてつもない巨大地震であった。そして予測されている次の東海地震の想定震源域の中心(図中の×印)に、信じがたいことに浜岡原発がある。

御前崎は、今も着実に沈降を続けている。しかも海底の音波探査の図を見ると、もう30年前からユーラシア・プレートが大きくたわんで、今にもはねかえりそうな状態になっている。この一帯は、日本列島の中心にあたり、本州の造山運動として有名な、海底だった地帯が3000メートル級のアルプスを生み出したフォッサマグナの大地溝帯でもある。

そしてこの図のように、南の九州から長野県の諏訪湖まで続く世界最大級の活断層「中央構造線」がこのフォッサマグナとぶつかって途切れたところに、日本海から駿河湾まで達するもう一つの大断層「糸魚川〜静岡構造線」が走り、さらにフォッサマグナを挟んでこれと並行して「柏崎〜千葉構造線」が走っている。この柏崎を中心に、2004年と2007年に、立て続けに大被害を出した新潟県中越地震と中越沖地震が起こってきたのだ。フォッサマグナを挟んで、柏崎の対面に位置するのが浜岡原発である。

こうして東海大地震が目前と思われる昨年8月11日に、駿河湾が大きく動いて静岡地震を引き起こした。一体、日本に何が起こっているのだろうか。

◆ここ20年間の日本の自然現象

 人間は忘れやすい生き物だが、この20年間、日本に何が起こってきたかを思い出してみる必要がある。若い人には記憶がないが、1991年に「雲仙普賢岳」が大噴火し、たくさんの人が亡くなった。それから4年後の1995年に阪神大震災が起こって、本当に凄まじい被害が出た。日本は戦後の地震の静穏期が終り、活動期に入ったのである。1997年には川内・薩摩地方で震度5強という、ついに初めて原発現地を襲う地震が起こった。そのあと2000年6月から三宅島が大噴火を起こして、三宅島の人たちが大被害を受けた。

 その2000年6月、ちょうど同じ時に静岡県の浜松と掛川で顕著な異変が始まった。このグラフは東西方向・南北方向・上下方向の変位を示している。この異常変位は、浜岡原発を中心とする東海地震が起こる予兆だと言われているもので、御前崎一帯が一斉に動き始めた。非常にこわい変位が起こり始めて、この時ちょうど富士山でも低周波地震が起こり始めた。 

さらに2004年には、東南海地震の震源域でかなり大きな紀伊半島沖連続地震が起こって、その直後に新潟県の中越地震が起こった。中越沖ではなく、山古志村が大被害を受け、新幹線が脱線した内陸での中越地震である。そしてその3年後の2007年に柏崎刈羽原発を崩壊させた中越沖地震が、今度は海側で起こったのである。

 一方、浅間山ではこの5年程ずっと中噴火が続いているなか、今年に入って、なんと約60年ぶりに鹿児島県の桜島が大噴火を始めた。そして先月、ついにフィリピン海プレートが駿河湾でマグニチュード6.5の地震を起こして浜岡原発を直撃し、東名高速道路の路肩が崩壊し、伊豆諸島でもこれと連動するように、前後して地震が起こった。

ここまで説明した20年間の自然の激動を地図上で東から西に順に見てゆくと、新潟県で2度の地震、浅間山の噴火、富士山の異常、三宅島の噴火、東海・伊豆地方を襲った連続地震(静岡地震)、浜岡原発近くの浜松・掛川の異常変位、紀伊半島沖連続地震、阪神大震災、雲仙普賢岳の噴火、川内地方の地震、桜島の大噴火である。このように地図に並べて、中央構造線とフォッサマグナと一緒に見てゆくと、これらが無関係に起こった出来事であるはずはない。

江戸時代にこれとそっくり同じような記録がある。1700年代の江戸時代に、川崎から小田原までの宿場がほぼ全滅し、死者1万人を出した元禄大地震、続いて東海地震・南海地震、富士山の宝永大噴火、さらに桜島大噴火、浅間山大噴火(天明の大飢饉)、雲仙普賢岳大噴火が立て続けに起こって、それぞれ死者が数えきれないほどの大変な出来事が続いた。これこそ、日本列島の成り立ちから考えて、当然の連鎖的な変動であったことは明らかである。こういうとてつもない天災が1700年代の100年間ほどに起こって、そこに死者2万人を超え、マグニチュード8.4と推定される問題の東海地震・南海地震が入っている。

◆静岡地震は何を警告しているか

大地震はいきなり起こる現象ではない。1923年の関東大震災では、発生前の40年間に小地震と中地震がこの図のように多数発生してから、1922年の浦賀水道地震が最後の引き金となって、翌年の関東地震(関東大震災)を起こした。

安政東海地震の場合も、次頁の図のように、前後の11年間に、善光寺地震、小田原地震、伊賀上野地震に続いて、安政東海地震・安政南海地震が起こり、さらに安政江戸大地震、越中・飛騨大地震が、中央構造線とフォッサマグナを中心に続発したのである。

昨年8月11日に起こった静岡地震の場合は、その二日前と二日後に、いずれも伊豆諸島を軸にして三度の地震が続発し、さらに9月〜10月にかけて、サモア諸島沖地震、スマトラ島沖地震、バヌアツ近海地震がいずれもマグニチュード7.6〜8.0の大地震として起こっている。これらは、いずれも太平洋プレート境界を中心に起こったものであり、地球の巨大な動きが連動していることの証左である。東海地震のエネルギーがたまっている駿河湾にとっては、非常にこわい時期に入っているのである。ところが、多くの地震学者は、まったくこの関連性に警告を発しないばかりか、「無関係である」という信じがたい判断を下している。

◆静岡地震の実害

昨年2009年の静岡地震では、幸いにも住民にほとんど被害がなかったが、浜岡原発では数々の被害が出た。そこで静岡地震の実害を見る前に、この地震がどれほど「小さな」地震であったかを、頭に入れていただきたい。

地震の破壊エネルギーを比較すると、静岡地震を「1」とした場合、柏崎刈羽原発を破壊した新潟県中越沖地震はほぼその3倍で、岩手・宮城内陸地震は11倍、阪神大震災をもたらした兵庫県南部地震は16倍、そして安政東海地震はその700倍である。つまり昨年の静岡地震は、地球がクシャミをした程度の小さな地震でしかなかった。この静岡地震の178倍〜1000倍の揺れの地震が、これから間違いなく起こると予想されているのである。

ところがわずかマグニチュード6.5の静岡地震で、日本の大動脈東名高速道路の路肩が大崩落しただけではない。浜岡原発が1976年に稼動以来、33年目にして最大の揺れに襲われ、運転中の浜岡原発4・5号機が緊急自動停止し、およそ700人の全所員が動員され、第三次非常体制が発令された。

地震発生から1週間後の8月18日までに報告された浜岡原発のトラブルは、驚くべきことに、地球がクシャミをした程度のこの地震で実に46件を数えた。しかもうち25件が最新鋭のABWR型5号機であった。

原子力発電所は、原子炉建屋とタービン建屋という別々の建物から成っている。このどちらの建屋に破壊が起こっても、原子炉の沸騰水が一本の配管でつながっているので、その熱を奪えなくなり、炉心溶融(メルトダウン)という最大の惨事を引き起こす。東海地震で予測される大地震の場合には、原子炉建屋とタービン建屋が、まったく異なる揺れ方をする。今回の静岡地震では、1号機(廃炉準備中)と5号機(運転中)の周辺で、10〜15センチもの地盤の隆起と沈降が起こったが、東海地震では、隆起が1〜2メートルになることが分っているのである。つまり配管は簡単に破断してしまうのだ。

原発震災で最もこわいのは非常用の配線が寸断され、発電所内が完全停電となるブラックアウトである。この場合には、緊急事態に対して、何も手を打てなくなる。

静岡地震では、運転中の5号機で、わずかマグニチュード6.5の地震で原子炉の出力を調整する制御棒約250本のうち約30本の駆動装置が故障した。マグニチュード8を超える東海地震では一体どうなるか。浜岡原発のような沸騰水型原子炉では、原子炉を緊急停止する時、制御棒を下から挿入するため、激しい揺れがあった場合に、簡単に落下しやすい。しかも沸騰水型の制御棒は四つのブレードを持つ十字形であり、縦揺れと横揺れが同時に襲ってくるので、これが正常に挿入されない可能性が高い。浜岡では制御棒脱落事故が二度起こった前科がある。

◆浜岡5号機が記録した大きな揺れ

そして今、浜岡現地で最大の問題となっているのは、最新鋭の5号機が静岡地震で記録した異常に大きな揺れである(次頁のグラフ)。5号機は、1〜4号機と同じ地盤にありながら、これらより3倍〜4倍も揺れたのである。しかも1階の東西方向では、絶対に超えてはならない設計用最強地震S1をあっさり超える488ガルを記録してしまった。原子炉は3階にまで達しているが、ここでは548ガルもの揺れを記録した。従来の日本の全原発で「浜岡原発の耐震性600ガル」は図抜けて大きな耐震性を持っていると宣伝し、多くの人がその数字を信頼してきたが、この小地震で、ほとんどそれを超えるかどうかという、ぎりぎりの揺れを記録したわけである。

耐震性に求められる設計用最強地震S1とは、原子炉などの最も重要なAクラスの施設が弾性限界にとどまることを保証したものであった。
 このS1を超えるとどうなるか?

物体が大きな力(応力)を受けると歪(ひずみ)が出て、一定の限界を超えると、二度と元に戻らない変形を起こし、さらにこの変形が進行すると亀裂や破損が起こり、最後に破断してぶっこわれる。この危険領域に入ったところがS1であるから、5号機はその危険領域まで突入したのである。

言い換えれば、この700倍の東海地震であれば、浜岡原発は百パーセント、原子炉、配管などが破壊されて、大惨事を起こしていたのである。その最大の原因は、かねてから地元民に指摘されていたように、5号機の地盤の弱さにある。それに隣接して増設しようとしている6号機の地盤はさらに軟弱であるため、危険きわまりない地帯であることが明々白々となった。

◆防災予測はすべて外れた

加えて、東海地震の700分の1の静岡地震で、浜岡のある御前崎市は震度6弱にもなったのに、2003年3月の中央防災会議・東海地震対策専門調査会による「東海地震に係る被害想定結果」では、700倍の「本物の東海地震」で、浜岡の震度が6弱と予測している。この予測は大嘘であることが実証されたわけである。

2001年5月の静岡県による「東海地震の第3次地震被害想定」における緊急輸送路の被害予測では、静岡地震で崩落した牧之原東名高速道路は「ごく軽微な被害、またはまれにしか被害が発生しない幹線道路」と予測されていた。この予測も大嘘であることが実証された。全部デタラメだったのである。

◆浜岡原発の地盤は弱すぎる

そもそも浜岡原発のある相良層は、日本列島が形成された最後の造山運動で、グリーンタフと呼ばれる緑色凝灰岩が形成された地帯であり、軟岩として悪名高い地帯である。

軟岩の相良層は、図のように伊豆諸島や小笠原諸島から続くグリーンタフ地帯にあたるので、最近の三宅島の大噴火と、昨年8月の八丈島周辺〜駿河湾の連続地震は、明らかにこの一帯が海底深くで、活発に動き始めていることの最後の重大な警告である。

しかも縄文時代の温暖化時代に、浜岡は縄文海進によって海水の下にあったのである。「電力会社が宣伝している強固な岩盤とは、言葉だけだ。原発は、湾内の弱い破砕帯を選んで建設されてきたので、原発ぐらい弱い地盤の上に建っているものはない」という地質学者・生越忠氏の言う通りである。

 同じ場所、浜岡に建設されている原発の耐震性は、1号機建設当初450ガルだったのが、3号機から600ガル、次いで耐震性見直しで800ガル、そして今は1000ガルの補強工事がおこなわれている始末である。なぜこう耐震性の数字がコロコロ変るのか。
 そのたびに「余裕を持って設計している」と主張してきた中部電力の耐震性の数字が、これほど変るのは、一体どうしてなのか。何の根拠もない、ということにほかならない。

浜岡原発は加速度1000ガルにも耐えられると言い、自治体はそれを信じているが、地球の万有引力に逆らって、すべての物体を宙に浮かせるエネルギーが重力加速度 980 ガルである。1〜2分も巨大な揺れが続く東海地震で、それを超える1000 ガルの揺れを長時間受ければ、原子炉建屋が宙に浮いてしまうのだ。
 なぜ原子炉が耐えられるのか。

地震学者も、中部電力も、日本政府も、日本が破滅する前に、即刻答える必要がある。