浜松基地自衛官人権裁判第14回口頭弁論報告・裁判学習会報告
○第14回口頭弁論報告
2010年5月31日、静岡地裁浜松支部で裁判の第14回口頭弁論がもたれ、50人ほどが支援に駆けつけた。今回の弁論では被告の国側が出した準備書面7と書証、原告側の出した準備書面9と書証の確認がなされた。国側は自殺の原因を、職場でのパワハラによるものではなく個人的な事情によるものとするために、家族関係の些細な出来事をもちだし、それがさも重大なトラブルのように表現している。そのことがいっそう原告側の怒りを強いものにしている。
口頭弁論の後、今後の裁判の進行協議がなされ、裁判長から今年度3月末の結審の意向がだされた。それにより、7月以降の証人尋問の予定が組まれ、来年の春には地裁判決を迎えることになった。
予定としては、7月には上官のショップ長N、9月には上官の課長O、10月には原告と証人、12月には元同僚、原告の証人尋問となる。裁判も大詰めとなった。いま一層の支援を呼びかける。
○裁判学習会
同日、板屋町会館で支援する会が主催して学習会がもたれ、主任弁護人の塩沢弁護士が「浜松基地自衛官人権裁判の法的争点」という題で報告した。
塩沢さんはこの裁判がいじめをしたNとNに職務をさせた国に対する賠償請求裁判であることを示した後、この裁判の争点を@Nの不法行為の評価、A国と上官の安全配慮義務違反、B安全配慮義務違反の前提としての「予見可能性」、C違法行為(不法行為と安全配慮義務違反)と自殺との相当因果関係の4点にまとめて解説した。
以下、まとめるとつぎのようになる。
@のNの不法行為についてみれば、自衛隊側は行き過ぎた面はあるが「指導」であり、いじめではないとしている。しかし、さわぎり判決では「他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は原則として違法」と判断した。Nの行為はそのような違法なものであり、故意・過失による権利侵害であり、賠償責任がある。
Aの国の安全配慮義務違反については、原告はNの行為に対する責任を国に負えと言っているだけではなく、国自体の落ち度(安全配慮義務違反)を主張している。N自身が安全を配慮せず、また上官(課長やショップ長)も安全の配慮を欠いていた。それゆえ国には賠償責任がある。
Bについては、Nや国側は自殺するとは思われず、予見できなかったとしている。課長やショップ長はいじめがあることは認識していた。そのことと予見可能性の認識とどう結びつくのかが議論になる。さわぎり判決では、心身の負荷労働によって健康を損ねている事実を認識した段階だけでなく、心身の健康を損ないかねない労働実態が認識された段階でも、予見可能性の存在と義務を肯定すべきとしている。それに拠れば、今回の事件でも予見の可能性があり、対応すべき義務があったということになる。
Cについては、不法行為と安全配慮義務違反という違法行為と自殺との「相当因果関係」についての理解が求められる。被告の国側はそもそもうつ病ではなく、自殺は本人の自由意思であり、仮にうつ病であったとしてもNのよるいじめではなく、個人の家族的な事情によるものとしている。その理由にプライベートな家族関係の問題をあげてきているが、その間違いは一つ一つ反論できる。
以上が、今回の話の要約である。
国側の反論は人権侵害の存在自体を否定するものであり、それは遺族の怒りをいっそうかき立てるような内容である。これに対し、真実を明らかにし、その尊厳を回復するために、二〇一一年三月末の結審に向けての多くの市民の支援が求められる。それが裁判勝利と自衛隊内の人権確立につながる。
(T)