2010・8 強制併合100年韓日市民共同宣言ソウル大会

 

● 強制併合100年韓日市民共同宣言ソウル大会

2010年8月29日、ソウルの成均館大学で強制併合100年韓日市民共同宣言大会がもたれ、1000人が参加した。

集会はサムルノリと女高生の歌で始まった。女高生のホさんの自作の歌はハルモニたちへの思いを表現したものだった。それは若い世代による植民地主義克服に向けてのメッセージだった。

開会の辞では、韓国実行委員会の李離和さんが過去清算のための真相調査と立法にむけての出立と連帯を呼びかけた。追慕の黙祷の後、青年学生決意文と韓日市民共同宣言の経過が報告され、日本とサハリンでの集会の状況も示された。

続いて日本実行委員会の鈴木裕子さんが連帯の挨拶をおこなった。鈴木さんは、日本がアメリカの世界戦略により軍事的な植民地とされ、そのなかで戦後賠償を切り抜け、植民地支配と侵略戦争の責任から免れてきた歴史を批判した。そして戦後賠償や戦後責任を履行し、公的な解決をおこなうこと、それを通して日本に民主主義を根付かせること、新しい歴史の創造にむけて連帯していくことなどを呼びかけた。

激励の辞では国会議員からの挨拶がなされ、日本の服部良一さん、韓国の金ヨンジン、黄ウヨ,姜昌一さんが発言した。韓日過去清算と未来のための国会議員会の幹事である姜昌一さんは、人類の普遍的価値が実現できない現状を批判し、植民地支配という強盗行為の清算にむけての共同行動を力強く呼びかけた。

集会では故・福留範昭さんへの感謝牌が遺族に手渡された。福留さんは強制動員真相究明ネットの事務局長などを担い日韓の市民運動の架け橋として活動するなか、2010年5月に急逝した。福留さんの生前の活動を示すスライドが示された。それは証言者の思いを体現して通訳した福留さんの姿を彷彿させるものだった。

 パンソリグループ「バダックソリ」は性の奴隷とされた女性たちに想いを馳せ、その尊厳回復に向けての詩を歌った。女性の絞りあげた声が太鼓のリズムとともに波打つように会場に響いた。それは身体を奪われ、死を強いられた人々の未完の想いを伝えるとともに新たな平和への旅立ち呼びかけるようだった。

 集会では、韓日青年学生決意文と韓日市民共同宣言が朗読され、さらに行動計画が発表された。その行動計画は軍慰安婦、強制動員、靖国無断合祀、関東大震災虐殺、サハリン、民族差別、歴史教科書、東アジア歴史人権宣言に関わる具体的な行動を提示したものである。

 集会は韓日の合同合唱団の歌で終わりを迎えた。最後の歌では、被害者市民が壇上にあがり、会場全体がともに歌うことで、過去の清算と民主化にむけての決意をわかちあった。

 

●「分野別行動計画」

今回ソウルで発表された「植民地主義の清算と平和実現のための日韓市民共同宣言」の「分野別行動計画」について、ここでまとめて紹介しておこう。

◎サハリン

「日・韓・サハリン現場民間フォーラム」、「サハリン韓人証言大会」の開催、「朝鮮人墓地実態調査」の実施と日韓政府の措置の促進、「日・韓・サハリン民間団体ワークショップ」のソウル開催

◎関東大震災朝鮮人虐殺

日本政府による謝罪と賠償の要求、関連資料の保存と公開、韓国と日本での調査委員会設置法案の制定促進、埼玉の犠牲者2人の遺族の捜索と遺骨の奉還

◎強制動員

2010年10月の日本での被害者証言集会の実施、被害者救済のための立法化運動の支援、対不二越闘争の国際的展開と報告書の作成、2011年までに強制動員真相糾明センター(仮称)の設立による資料収集と連帯活動、裁判資料などの収集と報告集の作成、軍人軍属被害者補償法と強制労働被害者補償基金法の制定に向けての署名や議員懇談会の開催、「真実と正義」の発刊

◎民族差別

朝鮮高級学校への学費無償化適用、無年金者への救済措置要求、「民族教育支援韓日市民基金」(仮称)の設置、丹波マンガン記念館の再開に向けての募金コンサートの開催

◎歪曲歴史教科書

歴史認識の共有と東アジア共同体形成、2011年の中学校での右翼教科書の採択阻止、10年を迎える韓中日の連帯の強化、共同の歴史教科書作りの推進、フォーラムや歴史紀行の開催

◎日本軍「慰安婦」

日本政府による立法に向けての国内外での活動、韓国政府による日本政府への公式謝罪と法的履行要求の促進、国際世論の形成、記憶追悼事業と女性への暴力根絶のための平和・人権教育の実施

◎靖国神社

靖国神社の歴史認識の危険性を知らせる展示や図録の発刊、合祀取り消し裁判闘争と8月の反靖国キャンドル行動の実施、合祀取り消し要求を拒否する不当性の国際的宣伝。

◎東アジア歴史人権平和宣言

奴隷性と植民地支配は人道に反する犯罪としたダーバン宣言の東アジアでの具体化、20119月の東アジア宣言大会実施。

このように分野別行動計画ではさまざまな行動の提起がなされている。これらの提起を受け、植民地主義の克服と東アジアの平和に向けての各地での運動の形成が求められる。      

 

●8・29強制併合条約締結地・標石除幕式

 ソウル集会に先立って、ソウルの南山にあった韓国統監府跡地で、強制併合100年共同行動実行委員会が主催して、強制併合条約締結地・標石除幕式がもたれた。式は強い雨の中、韓日市民300人が参加しておこなわれた。

韓国の強制併合を認めさせる条約が締結されたのは南山の統監府であった。それから100年経った今日、その歴史を記憶し、それを繰り返さないという誓いの場として標石が置かれた。

 除幕式は「愛国歌」ではじまり、抗日闘争や植民地支配によって生を絶たれた東アジアの全ての人々に対して、黙祷がなされた。

主催者の挨拶では、碑の設置経過が述べられ、この碑の設置を契機に東アジアの平和に向けて歴史を変革していくこと、南北統一や天皇制の廃絶、平和への想いをこの石に込めることなどが語られた。

韓国実行委員会の李海学さんは、ここは多くの人々の悲劇が始まったところであり、その恥辱を忘れず、そのような歴史を克服していく意思を示す場としたいと語った。

雨のなか、李ジサンさんとチョンギョンさんの「奪われた野にも春は来るのか」「生き残った人の悲しみ」「国恥追念歌」の歌声とギター音が流れる。

碑が除幕され、集会参加者が「アリラン」を歌い、植民地主義の克服と東アジアの平和に向けて万歳が三唱された。

この除幕式は、終わってはいない植民地主義への新たな闘いを決意し、その共同を確認するものであった。

 西大門刑務所歴史博物館では民族問題研究所が収集した資料を利用した『巨大な監獄植民地に生きる』の展示がおこなわれていた。この除幕式の日、民族問題研究所のメンバーのガイドによる展示説明会ももたれた。展示は強制併合、植民地支配の実態、生活、抵抗、戦争動員、終わらない植民地主義の6部で構成されていた。咸南の国境地方や建国忠霊廟鎮座祭の写真帳など、現物をゆっくりと閲覧したいものが数多くあった。

 

 ●「韓日の過去清算と東アジアの平和」国際学術大会

強制併合100年韓日市民共同宣言大会の開催にあたり、各地でさまざまな行事がおこなわれてきた。8月27日・28日には成均館大学で、「韓日の過去清算と東アジアの平和」をテーマに「国際学術大会」がもたれた。この学術大会は被害、清算、平和、未来の4部で構成され、20を超える講演と討論がなされた。ここではいくつかの講演内容を紹介しておきたい。

金承台さん(民族運動史学会)は「植民主義と虐殺 日帝の植民地主義と韓人虐殺」で、日本による植民地戦争と植民地支配での虐殺について東学農民、義兵、3・1運動、独立軍、関東大震災、戦時動員の順に具体的に示し、その虐殺が植民主義と深く関わり、人道と歴史に対する犯罪行為であることを指摘した。

南相九さん(東北アジア歴史財団)は「強制動員と靖国問題」で、厚生省が靖国神社に提供した韓国人資料20727人分を年度別に調べ、1959年19650人、1964年82人、1972年66人、1973年385人、1975年509人と提示し、補償からは排除しつつ靖国には情報を提示していた日本政府のありようを批判した。それをふまえ、日本政府の合祀関与への謝罪、合祀者を強制動員被害者と認めての教育展示、被害者の名誉回復などを求めた。

李相勲さん(民主社会のための弁護士会・過去清算委員会)は「韓国内の過去清算訴訟の現状と意義」で、日帝強占期被害者の裁判闘争の成果と到達点を総括した。金さんは、韓日会談文書公開と韓国政府による支援法の制定、供託金1円当たり2000ウォンを批判しての1円あたり10万ウォンとする改正案の上程、ポスコによる被害者との協議の開始、戦後の企業との同一性の確認、三菱重工との協議の開始などを獲得したものとして挙げた。課題としては、日本政府に厚生年金の名簿から被害者を調査させるなど協力させること、韓国政府に日本が保管している供託金だけでも取り戻すように努力させること、サハリン被害者の郵便貯金などの被害救済の推進、韓国政府による「日帝被害者救済平和基金」の設立、軍慰安婦には日本政府による立法での謝罪と賠償などを示した。

金昌禄さん(慶北大学)は「韓日条約体制と朝日交渉」で、1965年韓日条約を分析して韓国と日本が反共倫理と経済論理を掲げ、「無効」の表現に対してあい異なる解釈をしたが、そこに「真の合意」があったとみるべきとした。この1965年体制は1990年代には亀裂をはじめ、日本政府は、条約は有効だが、支配は不当というように転換し、韓国政府は慰安婦などの不法行為には日本政府に法的責任が残っていると発表した。金さんは、日本政府は条約の「不法無効」を認めて賠償をすすめるべきであり、賠償は過去を清算しないことによる負担よりは軽いものと指摘した。

金東椿さん(聖公会大学校・元真実和解委員会)は「韓国の過去清算運動と東アジアでの平和」で、韓国における過去清算の運動を総括し、過去清算が政治と社会の改革作業に一環であることを示した。金さんはいう。韓国にとっての過去清算は、親日勢力との断絶、日帝による被害糾明、冷戦後の戦争と国家暴力による犠牲者の真相糾明と名誉回復、アメリカ進駐過程での民間人犠牲の清算などがある。それは日本に反省を要求するだけでなく、国民内部での過去清算問題を抱えているということであり、それは冷戦を支えた新たな形での植民地主義勢力の克服の課題である。冷戦という用語は再定義されるべきであり、それはアジアでは焦土化作戦を伴う戦争であり、植民地主義は1945年以降も清算されなかった。市民社会での過去清算の動きを強め、被害と苦痛の記憶を各国の市民社会が共有するようなあらたな連帯が必要であり、それが東アジアの共同体につながる。

金敏浮ウん(太平洋戦争犠牲者補償推進協議会)は日本の過去清算についての討論で、日本の過去清算を国内での過去清算と東アジアとの過去清算に分けて説明した。金さんは、日本国内での清算は軍国主義の解体と民主主義の確立が人的な清算を含む形でなされるべきであるが、アメリカの戦略の下で、公職追放されたものが復活した。その過程は東アジアでの賠償政策の後退とともに進行した。そのことは日本で過去の清算が認識され、社会化されることの障害になったと指摘した。さらに日本国内にある社会的に構造化された差別の背景を問うことを求めた。また、民主化にむけて、加害者としての負債意識を転換し、国家権力の不当な行為への責任追及をすすめるべきとした。

さまざまな問題提起を受け、活発な発言が会場参加者から出された。討論がかみ合ったとはいえないが、植民地主義の克服とアジアの平和をテーマに討論がなされ、過去の清算を民主化と社会変革の課題と関連させての議論が深まった。関係者が一同に会してこの問題意識を共有したところに、今回の討論会の意義があった。過去の清算は歴史を民衆が自らのものとして獲得し、民主・人権・平和を実現していく作業である。

(2010・9、竹内)