2010・12・20 浜松基地人権裁判第19回証人尋問5

 



2010年12月20日、静岡地裁浜松支部で浜松基地人権裁判(第19回)がもたれ、証人尋問(原告の妻と被告の先輩隊員N)がおこなわれた。今回の裁判には90人近い支援者が駆けつけ、交替で傍聴した。防衛省は12月10日付けで亡くなったSさんの公務災害認定通知を送った。自衛隊内での人権侵害によってSさんが精神的に追い込まれたことを自衛隊側も認めざるをえなかった。

 裁判に先立って、早朝、裁判を支える会は浜松駅前でチラシまきをおこない、通勤する市民に裁判の現状と支援を呼びかけた。

裁判では、午前にSさんの妻が証言した。妻は代理人の尋問の答える形で、Sさんが優しくて話を聞いてくれる人であり、自衛官としての仕事に誇りを持っていたこと、いじめがすすむなかで口内炎などができるなど体調を壊していったこと、弁当の量もNより早く食べ終わるようにと少なくしてなったこと、持ち帰りの仕事が増え、アパートで仕事の出助けもしたこと、クウェートに派兵されたが、帰ればNのいじめがあることから、帰りたいけど帰りたくないと言っていたこと、Nにお前はバカだからと予習復習を強要されていたこと、Nに反省文を書くように言われ、思いつめた表情で書いていたこと、言った通りにやらないとおこられる、どうしたらいいのかわからないと同僚のTさんと語っていたこと、上司のNさんが持った食事会にはNは参加しなかった、上司のNさんには全員を集めて話し合い問題を解決してほしかったこと、いじめが続くなかで、出会った時とは別人のようになり、うつむくようになり、結婚記念写真を撮った際には下を向いていること、亡くなった後、亡くなる前日「Nのいじめがひどく、まるで制裁を受けているようだ」とこぼしていたことを知人から聞き、Nの存在が夫をこんな風にさせたと確信したこと、調停でNの謝罪を求めたが、10万円の見舞金なら出せるといわれ、裁判となったことなどを話した。

最後に妻は、夫の無念を晴らしたいということだけでなく、自衛隊内でいじめがあり、そのために亡くなっている人が多いことを知り、そのような自衛隊を変えたいこと、こどもに父が立派な自衛官であったことを示したいと思っていることなどを話した。

証言では、いじめによってSさんが死に追いこまれていった状況が浮き彫りにされ、夫への強い愛情も示された。

そのような妻の証言に対し、被告である国の代理人は私生活に関するつまらない質問をくりかえした。また、被告Nの代理人は質問に詰まり、裁判官から「質問が質問になっていない」と指摘され、傍聴席からは笑いが漏れた。最後に原告側代理人は、自衛隊側から「遺留品引渡書」さえ提示されていない事実を指摘した。

続いて午後からは、被告のNの尋問がおこなわれた。Nは、尻を蹴る、頭を叩く、ほおを叩く、反省文を書かせる、工具で叩く、帽子を飛ばす、バカヤローと怒鳴るなど、暴言や暴行の事実を認める発言をした。しかし、それはSさんに作業上のミスが多く、責任と自覚に欠けていて、自主的な努力ができないからであるとし、脅しの言葉は使ってない、ゴミ箱を蹴ったりして自分を抑えた、落ち込んでいると感じたことはないなどと、その行為を正当化する発言に終始した。また、今回の事件で懲戒を受けた際の供述書の内容については、裁判での陳述書で否定する箇所が数多くみられた。

このようなNの証言に対し、原告代理人は、Nがカッとなり自身を失う傾向にあること、手を出しているが回数はカウントせず、数多くの暴行があったこと、100枚もの反省文を強要したこともあること、Sさんが出産立会いの休暇を申請した際には、カッとなり平手で顔を叩いたこと、正座を強要したこと、17年間同じ職場に置かれ、過剰な整備を後輩に強制していたことなどを次々に明らかにしていった。

このようなNの尋問を聞いていて、Nが反省の気持を持っていないこと、かつての供述書での発言内容を翻していること、「自覚をもたせる」「指導」の名目で暴行・暴言が正当化されていることを感じた。

最後の裁判官によるNへの質問は、Nによる後輩の指導経験がSさんとTさん2人だけであり、指導方法はN自身によるものであること、身分証の取り上げが権限外であることを確認するものだった。

 裁判の後、支える会による報告集会がもたれた。集会では、この事件では、自衛隊員が育てられるのではなく殺されている、隊員の生命が守られていない、周囲は知っていて見逃している、連帯感のない職場になっている、仲間を見捨てないというのが軍事組織の教育だが、見捨てている、いまもNが自衛隊を続けていることが信じがたい、なかには仲間を守れなかったと制服を脱ぐ決意をした人もいるのに、といった発言が続き、遺族は「息子の生命を感じることができないまま平然としている」「挫けてはいけないと思う、最後までやりぬきたい」と決意を語った。

 夜には交流会が40人ほどでおこなわれ、参加者がそれぞれ裁判の感想や今後の活動への決意を述べた。最後にNO!NO!BANDが裁判への想いを「よみがえれ、あなたの想い、とりもどせ、あなたの歴史」と歌で表現した。         (T)