4.29「昭和の日」集会・静岡
2011年4月29日、静岡市内で「〈昭和の日〉に考える集会」がもたれ、50人が参加した。この集会は静岡県内の市民団体の共催による天皇制批判の集いであり、人権平和浜松も共催団体となった。集会では小西誠さんが「日米安保体制と安保・自衛隊・天皇」のテーマで講演し、その後、反原発の訴えを含め、参加団体からのアピールがなされた。
小西さんは、今回の福島原発事故での自衛隊の出動、冷戦後の日米安保の再編強化、自衛隊のトランスフォーメーション、2010新防衛計画大綱と南西重視戦略の展開、沖縄海兵隊の撤退、制服組の台頭と防衛会議の設置、自衛隊内でのいじめや自殺の増加などについて解説した。
小西さんの講演は次のようなものだった。
福島原発事故への災害派遣は10万人態勢という創設以来最大の災害出動となった。内訳は陸自約6万9千人、海自1万5千400人、空自約2万1千300人、原子力災害派遣部隊約500人であり、これらは統合部隊として展開している。中央即応集団の特殊部器防護隊などの原子力災害派遣部隊が原子炉への放水作業などをおこなっている。また、即応予備自衛官や予備自衛官も召集された。その中で自衛官の急性ストレス障害も多発している。今回の派遣は、自衛隊が災害派遣を主任務にするものとなっていくのか、新たな軍部として台頭してくのかの岐路となるだろう。
冷戦後の日米安保は、ソ連脅威論が崩壊するなかで新たな脅威論が作り出され、その再編が進められてきた。9.11以後、日米安保の実戦的適用が強化され、2004年の防衛計画大綱では南西重視が示されてきた。さらに2010年の防衛計画大綱では周辺海空域の安全確保や島嶼部への攻撃への対応が重視され、南西重視戦略が軸となっている。
2005年時点での動きをみておけば、2005年2月の日米安全保障協議委員会で「共通の戦略目標についての理解に到達」としているが、これは日本の台湾海峡有事への介入とアメリカの対中国抑止戦略への組み込みを意味している。2010年の防衛計画大綱はこのような動きを受けてのものである。すでに2000年には新野外令が改定され、「離島の防衛」が初めて任務とされ、2006年の熊本での日米共同指揮所演習「ヤマサクラ」では南西諸島有事を念頭に置いての「島嶼防衛」が想定された。2010年の日米共同統合演習(実働演習)は「島嶼防衛」を含めての弾道ミサイル対処演習だった。
このような動きの中で、那覇の第1混成団の増強と旅団化がすすめられ、2010年3月には第15旅団へと格上げされた。それにより新設される中隊のうち1つは那覇、もうひとつは与那国への配置が予定されているわけである。
2006年のアメリカのQDR(4年ごとの国防政策の見直し)では、対テロ戦が長い戦争となることを示し、複合的な非正規型・非対称型の作戦への転換と質的優位の維持を強調している。そして、特殊部隊や心理戦を重視し、陸軍の旅団戦闘チームへの再編、無人偵察機の利用などをあげ、中国脅威論を展開している。国防総省の「中国の軍事力2009」を見ると、中国側の潜水艦や対艦巡航ミサイル・弾道ミサイルの問題をあげている。アメリカは第7艦隊の安全を確保するために中国の戦力の封じ込みを狙っている。この動きを受けて日本のメディアが中国脅威論を流している。
米軍再編ではグアム統合軍事開発計画が立てられ、グアム基地の強化がすすめられている。すでに米軍はB2、F22、グローバルホークなどをグアムのアンダーセン基地に配備している。沖縄の海兵隊1万2400人のうちの8000人がグアムに撤退する。沖縄に残る海兵隊は4400人ほどとなる。このように戦略的にはアメリカは沖縄から撤退の準備をしている。「思いやり予算」があるから沖縄に形式的に駐留しているということもできる。
自衛隊もこの米軍のトランスフォーメーションに対応し、戦後最大の再編を進めている。それは、北方重視から西方・南西重視へ、師団から旅団へ、機甲戦から対ゲリラコマンドゥ作戦へ、海外展開・海外派兵へ、戦車・火砲の大幅削減、シビリアンから制服組の台頭という形で進んでいる。
制服組の台頭は、2009年の参事官制度の廃止と防衛会議の設置にみられる。参事官は長官を補佐する文官の背広組であったが、防衛会議の設置によって制服組が長官を補佐するようになった。これは制服の権限強化であり、シビリアンコントロールの崩壊となる。また、高級幹部会同後の拝謁が行われるようになるなど、天皇の「名誉統帥権」化の動きもみられる。
自衛隊と旧軍・天皇制軍隊との連続性が問題である。自衛隊内の「営内生活」と「精神教育」は旧軍から継承されているものである。精神教育では、しつけ、死生観、愛国心、反共、歴史観などが教育される。憲法は営門で停止する。営内班での人権はない。営内では服務点検という私物検査がなされ、私的な制裁や暴力もある。近年ではいじめとそれによる自殺が増加した。特に海自では旧海軍の「伝統」が継承され、いじめや暴行が多発している。
ここ10年、自衛官の自殺者が増加し、1年で70人から100人が自殺している。多数の死因が「その他不明」とされているが、いじめ・暴行・退職制限・セクハラによるものが多い。米兵自衛官人権ホットラインでも「やめたい」「死にたい」という叫び声が寄せられている。いじめや暴行による自殺を認めると、組織の責任が問われることになるので、「その他不明」とされている。
自殺の背景と原因についてみれば、第1に旧軍の伝統と体質の継承にある。狭い艦内や営内での集団生活、営内班での私的制裁と暴力の容認、私的制裁のいじめへの変質、人権意識の欠落した教育と絶対服従の軍隊内での階級制度など、自衛隊はいじめや暴力が横行する職場である。第2に自衛隊のトランスフォーメーションと実戦化の中でのストレスの増加である。部隊再編のもとでの転勤や移動が増え、海外派兵訓練や対ゲリラ戦訓練など訓練の変貌によるストレスが増加している。
先進国では原発などのインフラがあり、小子化も進み、人権意識も強まった。戦争や治安出動ができるような状態ではない。今回の大震災出動により、本来任務ではない災害出動が主任務となっている。今後、自衛隊をこの非武装での災害出動を主任務とする災害派遣隊へと再編すべきだろう。「原発の安全性」と同様に、これまで声高に叫ばれた「抑止力」も虚構だった。それは日本の支配体制の危機であり、歴史的な転換期である。これまでの虚構が暴露され、新しい時代が生まれようとしている。その中でどのようなものを実現していくのかが問われている(以上要約)。
集会では浜岡原発の停止を求めての問題提起もなされた。そこでは、新たな翼賛体制の動きに抗すること、原発推進の責任追及をきちんと行うこと、反核・反安保の運動に反原発を位置付けること、日本が核汚染の加害者になっていることへの自覚、抗議の意思を明確に示すことなどが呼びかけられた。 (竹)