2011年・強制動員真相究明全国研究集会報告
2011年5月28日から29にかけて強制動員真相究明全国研究集会がもたれ、全国から50人が参加した。今回の集会は「日本の朝鮮植民地支配と強制連行」をテーマに朝鮮内での労務動員を中心にもたれ、鉄鋼統制会関係動員数、連行者賃金や教科書問題などについても報告がなされた。
ここでは、朝鮮内での動員に関する報告である鄭恵瓊「戦時体制期韓半島内人的動員(労務動員)」と朝鮮内での動員計画や動員組織について示した庵逧由香「朝鮮における総動員計画と強制連行」についてみておきたい。
鄭さんの報告は朝鮮半島内の労務動員について作業現場と死亡者の面からまとめたものであった。1947年の大蔵省管理局『日本人の海外活動に関する歴史的調査』通巻10、朝鮮篇第9分冊によれば、1938年から1945年までの道内動員者数は578万2581人とされている。国家総動員体制のなかで600万人近い強制動員がなされたわけであるが、そのような国内動員の実態については不明の点が多い。韓国での真相糾明と被害者支援においては朝鮮内動員者は支援対象とされてはいない。
鄭さんは朝鮮内での労務動員作業現場目録を作成してきた。その現場数は現時点で7200か所を超えている。その内訳をみると約5500か所が炭鉱や鉱山であり、他に工場が約800か所、軍事施設構築が約200か所、土建(発電・港湾を含む)が約220か所、鉄道・道路工事が約170か所である。動員が多い地域は、平北の約930か所、京畿の800か所、咸南の約720か所などである。
鄭さんは朝鮮内労務動員での死亡者659人の分析もおこなった。10歳で釜山の紡績工場に動員され亡くなった慶北尚州の金さんや11歳で平北の鉄道工事現場に連行され、事故で死亡した全南の洪さんの例、慶北の麻城国民学校で12歳の子どもたちが神社造成作業での事故で集団的に亡くなった例などが具体的に示された。死亡者が多い現場は、鉱業や土建の現場であり、1943年以降に増加している。
庵逧さんの報告は朝鮮での総動員組織と総動員計画の概要を示すものだった。総動員計画が1930年代当初から策定されてきたことが示され、動員機関である朝鮮総督府や朝鮮駐屯日本軍、国民総力朝鮮連盟の組織図、物資動員計画の構成状況、物資の配当実績、重要企業などの図や総動員関係年表も示された。総動員関係年表からは朝鮮での動員がどのようにおこなわれたかを知ることができる。また、すでに1929年には資源調査法・資源調査令が施行されていること、国家総動員法施行前にさまざまな動員法が出されていたことなどの指摘もあった。
韓国では2011年8月に日帝強制動員・平和研究会の設立が予定されている。この会は強制動員の研究をすすめ、研究者間の交流を強化すること目的にしている。韓国での真相糾明委員会の活動がおわり、調査支援委員会の活動も終了するという動きのなかでの出立となる。朝鮮内動員の研究もこの中ですすんでいくだろう。調査・研究がすすみ、補償から除外された人々の尊厳の回復につながる政策が採られるべきだ。日本国内での資料調査も必要になるだろう。朝鮮内での強制動員の実態把握は、日本の侵略戦争下における東アジア全体での強制労働の実態を把握するうえでも欠くことができないものである。
集会では塚ア昌之さんが鉄鋼統制会傘下の工場での敗戦期の連行者数を示す鉄鋼統制会の資料(『終戦直後の鉄鋼労務』東京大学経済学部図書館蔵)も紹介された。今後も、軍需省や各統制会関係文書の調査が必要である。
なお、集会資料集に、朝鮮人軍人軍属約16万人分の動員状況を分析した「朝鮮人軍人軍属名簿から見た朝鮮人動員の状況」を掲載した。今後の分析の参考になれば幸いである。
*樋口雄一さんの報告内容は「戦時下朝鮮農民の生活と社会行動」として『「韓国併合」100年と日本の歴史学』(青木書店2011年)に収録されている。