浜松基地自衛官人権裁判、勝訴判決!

2011年7月11日1310分から、静岡地裁浜松支部で浜松基地自衛官人権裁判の判決が出された。

 

今回の地裁判決は、先輩隊員による数々の暴行・暴言を違法とし、それらの違法行為と自殺の相当因果関係を認めるものであり、国側のいう過失相殺を排除し、約8000万円の損害賠償金の支払いを命じるというものだった。上司の安全配慮義務違反については認めず、先輩隊員への賠償請求は棄却したが、判決で提示された損害賠償金は提訴後の公務災害認定による支給金を除くものであり、ほぼ満額である。それは勝訴判決である。

この裁判は、航空自衛隊浜松基地の第1術科学校の整備班の3等空曹が先輩隊員によるいじめ(パワハラ)によって自死に追い込まれたとして、父母・妻子の4人が国と先輩隊員に対して1億1千万円の損害賠償を求めたものであり、提訴は2008年4月のことだった。

裁判が始まると浜松基地自衛官人権裁判を支える会が結成された。支える会は、傍聴の支援や署名運動、原告との交流会などを持ち、2011年6月には自衛官人権裁判の全国交流集会を開催するなどの活動をすすめてきた。

判決当日、支える会は地裁浜松支部前で裁判の勝利に向けて横断幕を広げた。傍聴席は60席だが、90人余が詰めかけた。抽選がなされなかったために、一時、法廷には座れなくなった30人余があふれた。傍聴できなかった人々は浜松支部前で判決内容を報告する弁護士の登場を待つことになった。

開廷し、裁判長が判決文を読み始める。原告妻に3488万7454円、原告子に4306万3000円、原告父母にそれぞれ110万円・・・と、国に対する損害賠償金額が示された。判決を聞いた原告の嗚咽が法廷内に響く。判決を聞いて弁護士が幕を持って出てくる。その文字は「勝訴」。法廷外で歓声が上がり、その声が法廷内にもこだまする。

裁判長はつづいて争点についての判断を読んでいく。先輩隊員の暴言暴行は国家賠償法上、違法であること、その行為により「適応障害」となり、違法行為と自殺には相当因果関係があること、上官の安全配慮義務違反は認めないこと、国のいう過失相殺の事情はないこと、すでに公務災害の認定があり、その分は賠償額を減じること、先輩隊員への賠償請求は棄却すること。この判決が示されると、法廷内では支援者の「ヨシ!」の声や拍手が響く。原告の妻が形見の制服を握りしめる。弁護士、原告、支援者が互いに握手を交わす。

判決ののち、記者会見と報告集会が地裁浜松支部横の県西部法律事務所でもたれた。原告と弁護団が現れると、拍手が鳴り響いた。会見と集会では、原告代理人の弁護士が判決の分析とその意義を語った。

そこでは、先輩隊員の違法行為を認定させたこと、違法行為と自殺との相当因果関係も認めさせたこと、過失相殺を認めさせなかったこと、各地の裁判での今後の追い風になること、請求額の満額に近いものが示されていること、先輩隊員の違法行為は国が責任を取ることになること、上官の安全配慮義務違反を認めないことは自衛官の人権保障につながらないこと、などが示された。

集会では原告がそれぞれ、思いを次のように語った。「亡くなった無念を晴らしたという思いで裁判を起こした。「指導」という名のいじめをなくしてほしい。」「訴えてきたことがほぼわかってもらえた。勝っても負けても親としてはつらい。」「先輩隊員Nは被告席にいなかった。判決をふまえて謝罪を要請したい。残念な部分もあるが、勝訴の意味は大きい。これからは他の裁判を支えていきたい。」

自衛官の人権をめぐっては全国各地で裁判がたたかわれている。浜松の裁判はその一つである。自衛隊内での人権の確立にむけて、一つひとつの裁判に勝利することが求められる。また、人権確立に向けては、軍事オンブズの制度化のみならず、自衛官が憲法上は認められている表現の自由や団結の権利を行使できるようにすることが課題である。自衛官自身が、上官や先輩に「いじめるな」、「パワハラをやめろ」と発言できる自由が求められるのであり、それができるような団結力や交渉力が権利として自衛隊内で確立されるべきだろう。(竹)