声 明
2011年7月11日
浜松基地自衛官人権裁判原告・弁護団
同裁判を支える会
1 本日,静岡地方裁判所浜松支部は,航空自衛隊浜松基地内でのいじめ(パワハラ)による自殺事件について,原告らの主張をほぼ全面的に認め,被告国に対し総額8015万0454円の賠償を命ずる判決を下した。原告,弁護団及び支える会は,この判決を高く評価するとともに,裁判所に対し敬意を表するものである。
2 2005年11月13日,航空自衛隊浜松基地第1術科学校整備部第2整備課動力器材班所属の3等空曹だったS(当時29歳)は,自宅アパートにて自殺を遂げた。Sは,同年に結婚をするとともに子どもも授かり,まさに人生の絶頂期における事件であった。
Sは,父親をはじめ叔父や従兄弟も自衛官という家庭で成長し,1995年の高校卒業と同時に希望に胸躍らせて航空自衛隊に入隊した。その後は順調にキャリアを重ね,2004年には,イラク特措法に基づきイラクに派遣されて任務を全うするなどした。
そのような経歴を辿る一方で,Sは,入隊直後から,先輩隊員から「指導」と称して陰湿で執拗ないじめ(パワハラ)を受けてきた。例えば,「死ね」「辞めろ」「五体満足でいられなくしてやる」などといった暴言を日常的に大声で浴びせられたり,顔を平手打ちされたり工具で頭を殴られるなどの暴行を頻繁に受けてきた。しかも上官らは,このような状況を把握していながら有効な対処をすることなく放置し続けた。その結果Sは,心理的負荷を過度に蓄積させられ自殺に追いやられたものである。
3 本判決は,いじめ(パワハラ)を放置し有効,適切な対処をしなかった上官の安全配慮義務違反を認めておらず,この点はまことに遺憾である。しかし一方,本判決は,先輩隊員がSに対して為した個々の行為についてその違法性を具体的且つ丁寧に認定し,その行為とSの自殺との因果関係を認定した。その上で,精神的苦痛に関する慰謝料のみならず,自殺に追い込まれたことによる損害としての逸失利益等も認めた。さらに,被告国の過失相殺の主張を全面的に否定した。この点は,概ね確かな事実認定と正義にかなった判決と評価できる。
4 自衛隊内でのいじめやパワハラ,セクハラによる人権侵害(自殺,訓練中の「事故死」等)に対する損害賠償請求事件には,既に勝訴が確立したさわぎり裁判や札幌女性自衛官裁判のほか,現在東京高裁で係属中のたちかぜ裁判や前橋地裁の朝霞駐屯地裁判,札幌「命の雫」裁判などがある。本日の判決は,これら係属中の裁判での勝利に大きく貢献するものと確信する。 私たちは,全国の同種事件の原告,弁護団,支援者と連帯して,今後も「自衛官の人権・人間の尊厳」を自衛隊内に確保するために全力を尽くすものである。
以上