12・4東京「いま問われる日本の過去清算」集会開催

 韓国内では日本の植民地支配の清算にむけての運動がすすんでいる。

 2011年8月30日には、韓国憲法裁判所が日本軍「慰安婦」、原爆被害者の訴えを認め、韓国政府が日韓請求権協定第3条による紛争解決を怠ってきたことを、憲法違反とした。それにより、韓国政府は日本政府への元「慰安婦」への賠償を求めて行動をはじめた。

それに先立つ2011年6月には、「対日抗争期強制動員被害調査及国外強制動員犠牲者支援に関する特別法」の第37条が改正され、強制動員被害者を支援する財団の設立にむけての検討が始まった。この財団は2012年末には設立される予定である。

この動きは、強制動員被害者がPOSCOに対して賠償の支払いを求めた裁判の結果である。POSCOは日韓請求権協定によって、日本の資金で設立された製鉄会社である。この裁判では被害者が敗訴したが、ソウル高等法院はPOSCOの道義的責任を認め、基金を設立しての被害者支援を指摘した。この基金の設立はそれを受けての措置であり、この基金へは日本からの出資も期待されている。

また、2011年8月には韓国企画財政部と国会企画財政委員会が、強制労働をおこなった日本企業との契約業務で、WTOで開放対象としないことを認められている公共機関での入札を制限することを決定した。9月16日には、李明洙国会議員らが136社の戦犯企業を示した第1次リストを提示した。それにより、東西発電の唐津火力発電所建設での三菱と日立の入札に対しては、国会議員が東西発電を呼び、日帝強制動員被害者への支援行動を要請した。

さらに、2011年11月8日には、韓日協定再協商国民運動が設立された。この国民運動は、日本軍「慰安婦」、強制動員被害、原爆被害者、未帰還同胞、略奪文化財返還、歴史教科書歪曲などの6つの未清算課題の解決をあげている。この運動は、1965年の韓日協定がこれらの問題の解決の壁となっているとし、その再協定を求める国民運動である。

このような動きを受けて、2011年12月4日に東京で、強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワークの主催による「いま問われる日本の過去清算」集会がもたれた。

 はじめにネットワーク代表の持橋多聞さんが開会のあいさつをおこない、現代史研究会の生方卓さん、平和フォーラムの福山真劫さん、勤労挺身隊ハルモニと共にする市民の会の李国彦さん、戦後補償ネットワークの有光健さんらが連帯の発言をおこなった。

韓国から来た李国彦さんは、勤労挺身隊ハルモニと共にする市民の会の活動と共に日帝被害者新聞の編集もおこなっている。

李さんは、昨年の11月からの三菱と協議について、65年間、交渉のテーブルにつかなかったから意義があるが、現時点では成果はなく、三菱側には誠意がなく、自分たちの本音は語らず、保身のみのようだと報告した。李さんは、韓国では今後は戦犯企業の入札制限がなされ、謝罪しない企業は入札を制限されるとし、三菱側の誠意のない態度はさらに企業イメージを悪くし、反感を買うことになるだろうとした。

また、李さんは韓国での活動について、光州での三菱自動車は市民の抗議のなかで一台も売れることができずに撤退した。名古屋の朝鮮人女子勤労挺身隊員への厚生年金脱退金99円支払い問題に対しては、光州で10万人を目標にしてひとり1000ウオンの募金を集める活動がすすめられ、11万8千人分が集まった。これまでの抗議の意思表示は28万人に達した。中高生も140の学校で約7万人が参加した。この運動で中高生も記憶することになり、闘いは未来へと続くとまとめた。そして、平和のために連帯し、謝罪を勝ち取るまで闘っていきたいと話した。

続いて、特別報告として韓国の国会議員の李明洙さんが「対日過去清算を通したアジアの平和と実践」の題で問題提起した。

李明洙さんは牙山出身の自由先進党の議員であり、政策委員長を務めている。李さんは、地球村の時代を迎える中で、強制動員の賠償問題など解決しなくてはならない問題があるとし、9月16日には136の戦犯企業の発注入札制限を提起し、漏れた企業は第2次名簿に反映させたいと話した。そして、歴史は鏡であり、それを磨いて子孫に残したい、未来にむけての和解を求めたい、名誉回復が大切と述べた。李さんが提出した集会用文書には、至急にすべき課題として、日本の戦犯企業名簿第2次を発表すること、韓国政府と企業が入札制限を守らせること、安定した支援委員会の運営などがあげられている。

 シンポジウム「いま問われる日本の過去清算」では、吉澤文寿さんが「日韓請求権協定と戦後補償問題の現在」、崔鳳泰さんが「憲法裁判所決定、戦犯企業入札制限と日本が問われる過去清算」、足立修一さんが「日本弁護士会「共同宣言」と強制労働問題解決の道」のテーマで問題提起をおこなった。

 吉澤さんは、日韓会談での対日請求8項目の内容を紹介し、韓国側の個々の請求権に対して日本側が補償を行うことを排除することになった経過を示した。吉澤さんは、日韓協定で解決されたのは外交保護権の問題であり、その解決は限定的なものとし、日本には植民地支配の責任はおろか、悪いことをしたという認識がなく、法的な責任に対する認識もなかったとした。最近では支配を不法なものとはせず、「不当」とする認識が示されている。この協定では植民地責任は克服されていないが、この「不当」であったとする認識から植民地責任の清算にむけて新たに出発すべきとした。

続いて、崔鳳泰さんが「憲法裁判所決定、戦犯企業入札制限と日本が問われる過去清算」の題で発言した。

崔鳳泰さんは、日本軍「慰安婦」と原爆被害者問題で、韓国政府の不作為を憲法違反とした憲法裁判所の決定は、1965年体制で放置されてきた日帝下の被害者問題を解決するよい機会をもたらしているとした。続いて崔さんは戦犯企業の入札制限の動きや韓日協定再協商の運動を示した。そして、日本政府は個人請求権があることや不法行為や非人道的行為での請求権問題は未解決であることは認識している。これは韓国政府の認識と違わないから、日本政府が被害者の請求を履行すれば問題は解決するとした。また、日本政府は1965年の請求権協定を利用して解決を拒んでいるが、それが不信を生み、逆に韓日協定全面破棄運動が広がることになっているとした。崔さんは最後に、課題として民主主義と東アジアの平和的共同体にむけて、冷戦構造による1965年の韓日協定を超えた新たな体制づくりをあげた。 

足立修一さんは、日韓の弁護士会による共同宣言を紹介し、韓国や中国に関わる強制連行裁判の判例を分析し、個人の請求権については裁判では一貫した判断がないとした。また、日韓協定によって賠償しなくてもいいとしてきたことをあげ、1967年に韓国で被爆者協会が結成されたが、見捨てられてきた経過なども示した。そして、強制動員では韓国では支援法があるが、日本でも何らかの措置が必要であること、被害者への自発的な補償が求められること、個別企業から和解をすすめ、それを集団的な補償と和解につなげていくことなどの、今後の課題をあげた。

シンポジウムでの発言の概要は以上である。

 ILOは、戦時の朝鮮人強制労働や性奴隷制については早急に被害の回復をおこなうように意見表明をおこなっている。強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワークは、「朝鮮人強制労働被害者補償のための財団設立に関する法律(案)」を作成し、日本での立法による強制労働補償財団の設置を求めている。国際的な人権の動向をふまえて、立法を実現させることで、国境を越えての戦争被害者の個人賠償権を実現していくことが求められている。