「破壊措置命令」と沖縄へのPAC3配備の問題点

5.27ミサイル防衛と軍拡を問う浜松集会

                       

2012年5月27日、浜松市内でミサイル防衛と軍拡を考える集会を持った。主催は人権平和・浜松。集会では「ニュークスインスペース2 アメリカ宇宙支配の野望」(1998年)の上映の後、富田さんが沖縄の軍拡の現状と済州島での新基地建設の現状を語った。続いて小林さんが9条アジア宗教者会議の経過と済州島訪問について話した。その後、討論のための問題提起をおこない、話しあった。

今回の集会は、朝鮮の人工衛星ロケット発射の動きのなかで3月30日に日本政府が「破壊措置命令」を出したことに対し、宇宙戦争計画批判をふまえ、軍拡の現状と平和について討論するために設定した。

以下は、筆者による集会での討論のための問題提起をまとめたものである。

今回の破壊措置命令の問題点を考えるにあたっていくつかの視点を提示したい。

第1にアメリカによる宇宙の軍事化への批判が必要である。映像にもあったように、アメリカは宇宙軍(スペースコマンド)を創設し、宇宙ビジネスをすすめている。それは宇宙での兵器配備をおこなうという宇宙の軍事利用であり、プルトニウム電池も含め、宇宙空間での核軍拡をすすめるものである。

近年にはロケットの民営化がすすめられ、2012年5月22日にはフロリダの基地からスペースX社が国際宇宙ステーションへの無人輸送機を打ち上げた。三菱重工は5月18日に韓国のアリラン3号を乗せたH2Aロケットを打ち上げている。北の衛星ロケットはこのような宇宙軍拡のなかで起きたものである。このような動向は、宇宙の平和利用を否定する宇宙の軍事化の動きであり、費用も莫大なものになる。三菱の打ち上げには100億円、ヨーロッパ・ロシアでは80億円、アメリカのベンチャー企業では50億円程度といわれ、価格競争となっている。

第2に、この宇宙の軍事化、宇宙覇権によるグローバルな戦争の進行状況をみておくべきだろう。現代のグローバル戦争の特質は、宇宙の軍事化とその覇権にあり、その戦術的な表現が「予防先制攻撃」であり、「ミサイル防衛」である。そのための軍事の革命がすすめられ、グローバルな米軍の再配置がすすんでいる。新基地建設はその一環である。この戦争では平時の戦時化も一層すすめられ、国家による民衆の監視の動きがすすむ。

第3に、それにともなう米軍戦略の対中国シフトへの転換をみるべきだろう。北のロケットを「ミサイル」と呼びならし、軍事的な対応をおこなっている理由はこの戦略によるものである。沖縄への自衛隊の配備計画、済州島での新海軍基地建設、米軍のオスプレイの沖縄配備計画などは中国に対抗する動きである。そのために愛国主義が動員され、右派の動員がなされている。それは過去の戦争の正当化とともにある。

第4に日本による「破壊措置命令」の問題点である。このような宇宙の軍事化、宇宙覇権、ロケットの民営化・宇宙ビジネス、米軍戦略の対中国への転換のなかで、日本は米軍に従属しての軍拡を強化し、自衛隊の沖縄への配備をすすめている。

北の衛星ロケット打ち上げが、「ミサイル」という大衆宣伝工作として現れた。「ミサイルとみられる人工衛星ロケット」という表現ではなく、「人工衛星というミサイル」という表現で宣伝された。

その中で、米軍とともに自衛隊の沖縄方面への軍事展開がなされた。航空自衛隊司令部の米軍横田基地への移動と日米統合運用調整所(共同作戦本部)の設立と重なり、米軍情報によって自衛隊が軍事行動を共同して起こす態勢ができたときのことだった。空自は中部の基地のPAC3の沖縄へと展開した。それに際し、海自呉の軍艦や名古屋港の民間貨物船を使い、小牧のC130も利用した。浜松基地のAWACSの監視飛行も強化された。陸自も沖縄に化学戦対応も含んでの展開をおこなった。陸自や空自の沖縄上陸数は1000人近い。海自はイージス艦のみならず、駆逐艦、誘導ミサイル搭載駆逐艦、補給艦、多用途支援艦、ミサイル艦、輸送艦などを横須賀、佐世保、呉、舞鶴などから沖縄方面に展開させた。「ミサイル」を口実としての大展開である。その費用は膨大なものであろう。

さて、最大の問題は、このような軍事の展開が日本政府の政治的な意思とは別個に動く力を持っていることである。朝鮮からのロケット発射をめぐる日本政府の事実確認をめぐる混乱は、その力の存在を感じさせる。

4月13日7時38分の発射を米軍の早期警戒衛星SEWが確認した。7時40分というSEWからの情報は米軍横田基地も把握したはずである。日米の共同作戦本部がそこにはあるのだから、自衛隊も把握し、その情報は沖縄のPAC3部隊やイージス艦にも即時に伝達されたはずである。7時41分には田中防衛相が自衛隊の中央指揮所に入ったのはその情報によるのだろう。しかし、日本政府は8時3分にエムネット(緊急情報システム)で自治体や報道に「確認していない」と通報した。この間訓練してきたJアラート(全国瞬時警報システム)は作動させることができなかった。沖縄では4月5日に2回も沖縄の41自治体にミサイルがくるぞと訓練をおこなって、煽動してきたにもかかわらずである。この日の午後6時15分に破壊措置命令は解除された。

ミサイルは7分で東京を直撃するといわれているが、このような日本政府の対応は、実際にミサイルが飛んでも、政府には対応能力がないことを世界に示すことになった。

他方、このような日本政府の対応とは別に、米日の軍事的な対応が別の形で作動していることも明らかだろう。このことは、日本政府の政治判断を待つことなく、米日が軍事的な交戦行動を起こしかねないという問題点を示している。

また、ミサイルと騒いで民衆を煽動するメディアの実態とそれに煽動されてしまう国民性も世界に示された。

 第5に、このような宇宙軍拡と日本の軍事的な沖縄方面への派兵の動きに対し、新たな東アジアの平和の視点を提示し、対抗することが平和運動の課題である。宇宙の軍事化や核の配備、軍事の民営化の動きを批判し、基地の撤去にむかう運動をつくることが課題である。

過去の侵略戦争では情報の統制と煽動がくりかえされた。その後、戦争責任は十分に取られず、植民地責任についても放置されてきた。戦争被害者の尊厳回復は不十分なまま、冷戦構造が継続され、戦争がくりかえされてきた。福島原発事故でも情報統制、無責任、人権無視は同様である。

このような状況から、情報の公開、戦争責任・植民地責任の自覚、人間の尊厳とアジア平和の視点でのあらたな表現・行動が求められている。「命こそ宝」はそれらの行動を象徴する表現のひとつであると思う。