6・26 強制連行三企業(三菱・不二越・新日鉄)責任追及行動

 

●強制連行責任追及行動

2013年6月26日、強制連行三企業(三菱・不二越・新日鉄)責任追及行動が強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動の主催でもたれ、それぞれの企業の門前で支援の労組を含めて60人ほどで抗議行動が展開された。この日の行動には韓国から挺身隊ハルモニと共にする市民の会から共同代表と事務局長の二人が参加した。今回の共同行動での企業への要求項目は、被害者が生きているうちに問題解決を(謝罪と賠償)、問題解決にむけての話し合いの場の設定を(担当部局の設定)、包括的な解決に向けて強制労働被害者補償基金への資金拠出である。

2012年5月、韓国大法院は三菱重工業と新日鉄(当時は日本製鉄)への強制連行裁判の下級審の判決を破棄し、差し戻す決定をおこなった。その理由は被害者の賠償請求権は日韓請求権協定によって消滅していないとし、時効や別会社論も認めないとするものだった。三菱釜山裁判の原告は被爆徴用工であり、2000年に釜山で提訴し、日本製鉄ソウル裁判は釜石、大阪、八幡などの工場に連行された5人が、2005年に提訴したものである。この2つの裁判は高等法院で敗訴したが、差し戻されることになった。この大法院判決後、三菱・不二越・新日鉄の被害者は新たに韓国内で提訴した。三菱の裁判は光州で起こされ、この5月に最初の弁論がもたれた。

このような動きの中で、2012年10月に強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動が強制連行企業責任追及裁判全国ネットを中心に結成され、今回、三菱・不二越・新日鉄の3企業への問題解決を求める行動を、争議団の東京総行動に合わせて企画したのだった。

 

●三菱重工業

朝9時からは三菱重工の株主総会に向けて、品川駅高輪口の品川プリンスホテル前の街頭で、名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟を支援する会のメンバーを中心に「被害者は85歳、三菱重工は、いますぐ救済を」といった横断幕や旗などでアピールし、チラシをまいた。3年ぶりの三菱重工の株主総会に合わせての行動である。

三菱重工は長崎、神戸、若松、水島、横浜、名古屋などの工場に1万を超える朝鮮人を強制連行した。特に三菱名古屋へは朝鮮人女子勤労挺身隊員約300人を連行した。かの女たちは、空襲や地震による工場被害の後、富山へと転送された。三菱名古屋裁判はこの朝鮮人女子挺身隊が原告になって訴えたものだった。

判決は原告の敗訴であったが、強制労働の不法性は認定された。その後の三菱重工本社前での金曜行動による責任追及の中で、2010年11月から三菱側との和解交渉がおこなわれた。しかし三菱側は個人の請求権は日韓請求権協定で消滅したとし、被害者本人への賠償金の支払いを拒んだ。そのため、和解は2012年7月に決裂し、金曜行動が再開され、今回の株主総会でのアピールとなった。

今回の行動では街頭で500枚ほどのチラシを配布し、三菱側が問題解決に向けて行動することを求めた。株主総会参加者へのアピール後、三菱重工の入口に移り、その前で1時間ほど横断幕をひろげて立った。最後に、三菱重工はハルモニに未払い賃金を支払え!、ハルモニに返せ青春!償え人生!、謝罪し、賠償しろ!、韓国光州の裁判に誠実に対応しろ!とコールして抗議を終えた。

 

●不二越

午後12時からは新橋駅近くの不二越本社が入る住友ビルの前で、「不二越は強制連行の責任をとれ」「韓国裁判所は謝罪と賠償を拒否する戦犯企業をこれ以上許さなかった」などの横断幕を広げて、不二越に解決を求めた。不二越は朝鮮から1000人を超える朝鮮人女子勤労挺身隊を連行し、500人を超える男性徴用工も連行した。訴訟は2次にわたっておこなわれ、韓国大法院決定をへて、新たに被害者13人と被害者遺族が2013年2月にソウル地裁に提訴した。しかし、不二越は旧来のままの無責任な対応である。

ビルの前では第2次不二越訴訟を支援する北陸連絡会メンバーを中心に集会がもたれ、三菱、新日鉄、日韓共同行動など支援の仲間が「グローバルな時代にはいり、戦犯企業が賠償しないのでは世界に通用しない」「強制連行問題の解決は日本が戦争を反省していることを示すもの」と連帯の発言をおこなった。また集会では、韓国の挺身隊ハルモニと共にする市民の会の共同代表の金善浩さんが、企業から謝罪と賠償をかちとることを求めて、力強く発言した。この三菱と不二越の行動には神奈川シティユニオンの外国人労働者の仲間も参加し、チリ人民の歌やベンセレモスなどを歌って、連帯の意思表示をおこなった。神奈川シティユニオンは日本鋼管朝鮮人強制連行裁判の時から、企業責任を追及して連帯行動をおこない、今日に至る。

 

●新日鉄住金

午後3時45分からは東京駅近くの丸の内ビルにある新日鉄住金に対しての行動が取り組まれた。この行動には日本製鉄徴用工裁判を支援する会を中心に、東京総行動の中小労組ネット、JAL争議団や全石油などの労働組合の仲間が合流し、新日鉄住金は強制連行の責任を取れ!とアピールした。韓国の市民の会は「『法令順守』こそ企業発展の道、新日鉄住金は90歳を超える被害者にただちに補償を」と記された横断幕を持参し、支援する会に贈呈した。午前には小ぶりだった雨がスコールのように激しく降り始めた。その中で、韓国、三菱、不二越、新日鉄などの支援者が解決に向けての熱い思いを語った。

新日鉄と住友金属工業は2012年10月に合併して新日鉄住金となった。新日鉄は日本製鉄のときに八幡、広畑、大阪、富士、釜石、輪西などの工場に朝鮮人を連行した。日鉄八幡の港湾輸送などへの連行者を入れれば、1万人以上が連行された。日鉄関連の日鉄鉱業への連行者を含めれば、その数はさらに多くなる。日本製鉄への連行に対して、八幡・大阪・釜石への連行者が日本や韓国で裁判に訴えて闘ってきた。その結果が2012年5月の大法院判決となった。

闘い続けることで勝利の扉の入り口にたどり着いたのである。戦後補償裁判が始まってから20年ほど経ってのことだった。

 

●強制労働被害者補償基金による包括的な解決へ

今回の三菱の行動で配布されたチラシには、三菱名古屋航空機製作所道徳工場で朝鮮人女子勤労挺身隊とともに働いていた社員の三菱重工社長への手紙(2013年4月5日付)が掲載されている。

元社員は「三菱は何にこだわって戦後補償問題にケリをつけようとしないのか。時代を先取りすべき巨大企業として情けない話だ」、「宇宙にはばたく三菱は慢心しないで小さな足元の不具合も決して忘れないで理にかなった解決をして進むべきだ」という市民の意見を紹介し、国際的にも認められている強制連行の事がらに対して、冷静に正面から向き合い、道理に適った解決策を計ることが国際社会での巨大企業の矜持であると記している。

このチラシにあるように、時代を先取ろうとするグローバルな企業にとって、過去の強制労働に対して歴史的な責任をとることは欠くことができない事がらである。そのような企業文化の創造が企業にとっての矜持であり、社会的な責任である。

韓国での三菱釜山差し戻し裁判に対し、日本政府・外務省は2013年5月に意見書を出している。意見書では、日韓請求権協定で解決済みであり、請求権には損害賠償請求権も含まれる、それゆえ原告は債権を主張することはできないし、各企業にはそれに応じる法的義務はないとしている。そこには強制連行強制労働被害者への人権救済の視点は全くない。しかし、韓国大法院が被害者の賠償請求権を認めて差し戻しをしたのであるから、このような日本政府の意見は差し戻し審では認められないだろう。

この7月には三菱釜山と新日鉄ソウルの差し戻し判決が出される。そこでは具体的な賠償額が示されることになるだろう。新日鉄住金はその企業行動規範で、「法令・規則を遵守し、高い倫理観をもって行動します」とし、国際規範の尊重も語っている。それならば、その高い倫理性を行動で示すべきである。先のことを考えるのならば、関係企業は担当部局を定め、賠償を前提に被害者と話し合うべきであり、日本政府は包括的な解決のために方策を練るべきだろう。

20年の戦後補償裁判の多くが敗訴だったが、闘い続けたことが強制連行被害者の賠償請求権を認める韓国大法院判決を生んだ。この7月の判決を契機に、包括的な解決としての強制労働被害者補償基金の設立が求められる。    (竹内)