道路工事 生駒孝子
こんなところで渋滞か
肌が焦げる音に顔を歪めながらハンドルから手を放す
交差点に蛍光ベスト姿で蠢く作業員や重機が見える
その中にひときわ小さい影がひとつ
所在なさそうに赤色灯を小振りに振っている
そろそろと近づいて手を上げるとヘルメットの下の
モノクロームの瞳に色が挿すのが見えた
私は笑顔にもならないくらいの笑みを送り
彼女の前を通り過ぎた
車内では美白、美白と繰り返す
化粧品のラジオCMが耳の外を通り過ぎていった
車の行き来もまばらになった深夜の交差点を
いくつもの大きな提燈が昼の空間をつくり出している
白いヘルメットが右へ左へ闊達に行き来する
大型トラックで道を占領して進めば
一輪車を走らせて編み上げ靴が散っていく
左手を上げて挨拶すれば
ヘルメットもリズミカルに上下する
サイドミラーで灯りを見送って
夜明けまでの時間を計りながら進む
そして工事はある日突然終わっている
真新しいアスファルトの色に
彼らの影だけを残して
闇 生駒孝子
新月を背にして私はひとり石を積む
同じ顔をした鬼が隣で石を崩して嗤う
人を呪わば穴ふたつ
人を呪わば穴ふたつ
渇いた口に言葉を落とし私はまた石を手にする
くらくらと沸き立つ日差しが石を焼く
河原を覆うカンナの葉裏に潜んで息を呑む
頭上を渡る風に見上げれば
鮮やか過ぎるその紅が
心の内を空に打ち上げて咲く
人を呪わば穴ふたつ
冷たい雨が音を立てて川面を乱す
夏を諦めきれずに踊るならそれもよい
雨粒たちは砕け散る瞬間
何と啼くのか
己を呪わば