スタンディングの朝 地引 浩
信じやすく騙されやすい心は
平気でウソをつく 血統書付きが好きで
誰かを頼り 進んで従いたい心は
自信たっぷりに見える ヒトラー似を選んだ
として
それですべてが終わるわけではない
まだ はじまりのはじまり なのだ
できることから始める
とにかく 続ける
誰に言われることなく 自分自身の意志で
七月十一日
スタンディングの朝が始まる
きのうと同じ
スタンディングの日々が始まる
「戦争法つぶします」と
(2016.7.11 スタンディング300回目の日)
やんばるよ やんばる
やんばるの夜はまだ明けていない
深い森の闇をかきわけて
人々が集い始める
やんばるの森を守るため
おとといやきのうと同じように
やんばるの空が白みはじめてくる
青いテントに熱気が満ちて
人々は確かめ合う
やんばるの森を守るのだ
できることはなんでもと
やんばるの朝はたたかいの合図
県道を車列がゆっくりとすすみ
静かにその時を待つ
やんばるの森をこわさせない
工事の車はけっして通さない
やんばるの森に唄がながれる
赤とんぼが空に飛び交う
人々は声を合わせる
高江の暮らしを守るため
今こそ立ち上がろう 奮い立とう
やんばるの空気が切り裂かれる
やつらが森にやってくる
車列が県道をふさぐ
森の生きものは殺させない
ダンプカーを追い返えそう
やんばるの森は知っている
紺色の機動隊が迫り
人々は座り始める
やんばるの森を守るため
県道に座りスクラムを組む
やんばるの空はどこまでも蒼い
深い森に悲鳴が響く
人々は耐えに耐える
紺色のあらしに屈しない
結びあう腕に心を込める
やんばるの森に白い蝶が舞う
引き抜かれても 倒れても
人々はあきらめることはない
オスプレイパットは造らせない
なんどもなんどでも座りこむ
(2016.9.4)
ばちあたり 地引 浩
和綿(わた)の花が咲きました
一輪ですが 咲きました
畑の片隅の
青じそと荏ごまのしげみに
囲われたところです
オクラの花そっくりの
黄色のかわいらしい花です
うつむいたまま
はずかしそうにしています
空を見上げては
ただただ雨を待ちこがれる私ですが
その花をみつけて
てのひらで包み込みながら
ふと カムイ伝の正助たちを
想っていました
幾世代もの村人たちが
飢えのない日々を願って育てた
その作物 その花でした
生きるために
生き残るために
村の人たちと新しい世を創りたい
正助たちの想いは
和綿のように綿坊主となったでしょうか
いま ここに
その花を愛でてしまう
ばちあたりの私がいます
和綿(わた)の花が咲きました
一輪ですが 咲きました
綿坊主になるのは
いつの日ですか
(2016.8.10)
ブロッコリーの木の森で
やんばるの
ブロッコリーの木の森で
直径75メートルの円形に大地を削り
50センチの厚さに砂利を突き固める
それを新しく4基
そして幅4メートルの連絡道路1.4キロ
工事に必要な砂利は
10トンダンプで3千台分
7万5千本の樹木をなぎ倒し
ありとあらゆる生きものを踏みつぶし
人々の声も押しつぶす
それが沖縄・高江のオスプレイパット
世界遺産にもなろうというやんばる森の中
何のため?
だれかの戦争のため
戦争の訓練のため
世界を支配する野望のため
やんばるの
ブロッコリーの木の森に
人々は集まってくる
森と すべての生き物を守るために
人々は集まってくる
平和で静かなくらしを願って 人々は集まってくる
毎日毎日 毎日毎日
人々は集まってくる 何十人、何百人と集まってくる
ダンプカーを止めるのだと 集まってくる
ユンボ―の前に座るのだと 集まってくる
切り倒させないために樹木を抱くのだと
集まってくる
それでも それでも
工事は止まらない 止まらない
五百人の機動隊の壁が人々を阻む 阻み続ける
それでも それでも 人々は集まってくる
工事を止めたい 止めなければ
結びあう腕と腕に願いを込め 紺色の壁に立ち向かう
ブロッコリーの木の森を守るため
平和で静かなくらしを願いながら
人々は朝早くから集まってくる
ブロッコリーの木の森に集まってくる
(2016.11・12 満月祭の前の日)
憎しみの果てに 地引 浩
憎しみと蔑みと妬みと力のみで
世界が動いているのだとしたら
とっくに人類は滅びていただろう
憎しみは敵を探し
すべてを食らいつくす
妬みと蔑みは僕を求め
力はいくさをもたらす
人々は不満を口にし
憎むべき敵を探そうとし
不安に追われるようにして
声高に「偉大な国」を叫ぶ「男」に
何か変えてくれる気がすると
権力を与えた
かって そんな時代があった
ほら 八十年ほど前のあの国で
十年ほど前にもあの都市で
憎しみを煽り 情け容赦もない
男たちを「指導者」にしてしまった
それが何であったのか
人々が気づくのは
熱狂のときが去り
国や街が粉々になり
人々がどん底に落ちたあと
憎しみは
すべてを食らいつくし
限りなく敵を探し求め
やがて
自分自身をも食らいつくす
いま その入り口に立っている
(2016.11.9)
歩き続ける 地引 浩
夢を見た
巌さんの夢だ
満月の光のしたの
階段の手すりのようなところに
あお向けに誰かが寝ている
巌さんだ 巌さんが寝ている
やがて
巌さんが目覚め 起き上がると
なぜか 巌さんは少年になっていた
四十七年の枷から解かれたのだろうか
巌さんの顔は笑っているように見えた
きのうも きょうも
そして 明日も
巌さんの過去を取りもどす旅は続く
毎日 毎日 歩き続ける
巌さんは 街を歩き続ける
確定死刑囚のまま歩き続ける
歩き続けることだけが
自分を取りかえす術であるかのように
八十歳の巌さんは歩き続ける
巌さんの終わりのない旅は
いつまで続くのだろう
夢を見た
巌さんの夢を見た
袴田巌さんは少年になっていた
(2016.11.14 スーパームーンの夜に)