8・27静岡県原子力県民講座(浜松)
「一番の被害は放射線自体よりも誤った情報による被害」
2016年8月27日、浜松市内で静岡県危機管理部原子力安全対策課による静岡県原子力県民講座がもたれ、30人弱が参加した。テーマは、「福島県の今」であり、放射線医学総合研究所の石井伸昌氏、ハッピーロードネットの西本由美子氏が講義した。その後SEリスクシーキューブの土屋智子氏の進行で質疑への回答がなされた。
放射線医学総合研究所による講義は周辺環境への放射能の影響についてのものであり、放射線防護の立場から無用な被曝はできるだけさけるものとしながら、福島で流通している食物は安全であるとまとめるものだった。また、質疑での回答で、国道6号での清掃ボランティアはそれほど問題がないとした。
広野町への帰還者であるハッピーロードネットの西本氏は、双葉郡の復興・再生をめざし、残った子供たちの未来のために、国道6号線やその沿線に桜を植え、国道6号の清掃ボランティアを中高生も参加して行ったことなどを話した。その際、誹謗中傷のメールや電話が数多く寄せられたとし、一番の被害は放射線自体よりも誤った情報による被害であり、低線量被爆や被爆リスクの問題は誇張されすぎているものとまとめた。そして、私は原発に賛成でも反対でもない、グレー、活動に自信を持っている、何回殺されても起ちあがりますと話し、広野町での櫻井よしこ講演会の開催や浜通りでの聖火リレー実現のための安倍総理訪問などを紹介した。
講演後の質疑の進行は、会場からの直接の質問を受け付ける時間はほとんどないものであり、発言の機会を制限することをねらった運営のようだった。
3・11福島原発事故により、全原発の停止という状況を迎えた。しかし、再稼働に向けて推進派による新たな宣伝活動が強められている。県危機管理部原子力安全対策課の講座の内容は、再稼働をすすめる政府・中電の影響を反映するものだった。
今回の講座では、福島第原発事故が収束されず、今も放射性物質が放出されていることはひとつも示されなかった。他方、福島の復興宣伝の強化と避難指示解除による帰還がすすめられ、新たな放射能安全神話がつくりだされ、宣伝されている。しかし、帰還者は70代の世代が多く、若い世代はほとんどいない。「ハッピーロード」の宣伝に対し、「ヒバクロード」(デスロード)の危険を感じているからだろう。年間20ミリシーベルトまでは被曝しても安全、福島では野菜の検査をしているからより安全なものを食べているなどといわれても、実際に事故は収束していないし、実際に線量は高いのだから、子どもがいれば帰還はしない。
静岡県民には原発について賛否両論がある。公平な立場での原子力講座の運営もなされるべきだろう。今回、「一番の被害は放射線自体よりも誤った情報による被害」とまで記されたたレジュメを県民に配布したのであるから、県はそれを批判する立場での講演と文章を用意する講座もぜひ開催してほしい。
今回は、帰還困難区域を抱えるにも関わらず、子どもたちの未来のために双葉郡の再生をあきらめません!と声高に語り、批判を誹謗中傷と一括し、放射能汚染の現実を風評被害対策で括っていく発言がなされた。静岡県の危機管理部はその発言に共感するかのようだった。それは、危機管理監をはじめ、危機管理部自体が危機なのであり、この組織への県民による危機管理が必要であるということだ。講座が終了したのち、連れ立って講座に参加した二人の女性が、ちょっと宣伝しすぎよね、おかしいねと話していた。通り合わせた講座参加者が、「あんな風に活動を宣伝する姿をみて、福島県民として恥ずかしい。申し訳ないという思いがない。子どもたちも福島を離れ、わたしももう戻らない」と語った。そのような気持ちをくみ取ることが危機管理には必要ではないか。