高江にて    べにはこべ

 

 

強風が 木々の小枝を引き千切り

路上に落とすが

雲間からは 強い陽ざしが注ぎ

さまざまな鳥たちが鳴き交う

私にとってのウグイスの初音も

ここ 高江で聞く

 

雨に湿った小路では

沢山のモウセンゴケが地面に張り付き

かわいい花を立ち上げている

藪の中のシダも

一斉に 小さな両手をもたげて茂り

松も 枝々からたくましい花芽を突き上げ 

花粉を飛ばす

深く落ち込んだ谷が そこ ここに走る

山々は今 

シダジイのやわらかな黄緑で

ブロッコリーの森そのもの

道端のシダジイも 枝先を囲む新芽の上に

びっしりと蕾を付けた 真っすぐな茎を

放射状に 花束のように伸ばす

木の上にかぶさる傘のように

もうすぐ沢山の花をつけるというクロバイ

やがて薄紫に覆われるという森を想像する

 

何万本もの樹木と一緒に

ノグチゲラの営巣木さえも切り倒して造られた

オスプレイ ヘリパット

ただ面子のためだけに急がせた 見せかけだけの完成

杜撰な工事で 使用など出来ない

それでも ゲートは頑丈に閉ざされ警備員に守られる

 

業者の出入りすら無いゲート前に

二〇人もの黒装束が立ち並ぶ

1日に一七〇〇万円という 契約済みの警備費を

消費のための消費に 浪費する

 

抗議のテントを訪れた人たちに

子どもの頃 優しくしてくれた

慰安婦のねえねの話をするおじいは

捨てられたタバコの吸いがらを 黙々と拾う

これが やがて森に流れ

樹々を荒らす と

たかが 菜っぱの話だけれど  べにはこべ

 

ハサミで刈り取る葉物の根元に

双葉の形そのままの枯葉

水を得て 陽光のもと

真っ先に発芽し

根を伸ばし 次の葉を育て

黙って枯れていく

誇りもせず 嘆きもせず

静かな一連の流れとして

 

自らの環境を熟知し

充分な根張りの出来るところでは

存分に 伸びやかに

邪魔かと思われる雑草に囲まれても

お互いに風よけとなり 支え合う

密集しすぎた所では

春の訪れと同時に

直ちに自らを肥やすことをやめ

葉と葉の間の茎を伸ばし

花を付ける準備に入る

 

一生として 与えられた時間は皆 同じ

すべての生のめざす所

それはシンプルに 唯ひとつ

命を繋ぐこと

根張りを邪魔するものを 攻撃するでもなく

与えられた場で

自らの力で出来ることの 限りを尽くす

この一度の生を生きる

ただ それだけの為に

 

あゝ それにしても

自らの生息地さえも

何度でも破壊し尽くす力を持つことで

どのような安心を得たいのか

そして 何をしようというのだろうか

人は


ムカデ        べにはこべ 

 

 

まだ小学生の頃

冬の陽だまりの廊下 

雑巾を水につけ そっと搾り

雑巾掛けをしようと 手を置いた瞬間

激痛と

ムカデの足の 吸いつくような感触に

悲鳴を上げた

みるみる手は パンパンに腫れ上がる

それ以来

何より恐ろしい生き物となった ムカデ

 

スコップで 夫と畑の土を起こす

季節ごとに さまざまな虫たちも掘り起こす

ミミズは びっくりして身をくねらすが

一握りの土をかけてやると

すぐに静かになる

寝ぼけまなこの土ガエルは

起こした後方に もぐらせる

カブト虫の幼虫に似た

小型のイモムシは 埋め戻す

もしかしたら

豆の大敵 カナブンかも と思いつつ

 

「卵を抱いて 逃げないんだぜ」と夫の話

黒褐色の 幅広の体に

無数の足をゆらめかせ それでも丸くなり

沢山の黄白色の卵を

放さず抱き続ける母ムカデを思い浮かべる

ふと

原発に汚された 福島の土に生きる

母ムカデを想う

あの美しい卵を慈しみ

孵るまで抱き続けるのでしょうか

放射能のことなど 何も知る由もなく

 

それからは 追い払わず

黙って見送ることにしたのです

半世紀を過ぎた今も 

あの時の記憶は 瞬時に蘇り

私を 硬直させるのだけれど