縁の下の。       生駒孝子

 

 

民家の窓の明かりも半分は消える頃2度目の集荷に向かう

「ああ、また選別か」トラックヤードに広げた製品を前に

生産管理のTさんたちが慌しく作業をしている

新しいラインが立ち上がるときにはよくあることだ

 

仕方なく通路にトラックを停め直しウイングを開ける

振り返ったTさんは開口一番「何時まで待てる?」

来たか 納入時間までをギリギリ逆算して伝える

今日の休憩時間はなしか、と覚悟を決める

荷待ち時はいつ声が掛かるかと昼寝もできない

ざわざわと落ち着かず休んだ気がしないのだ

 

普段から一癖あるTさんには「さわらぬTに祟りなし」

と皆遠巻きにして喋りかける人も無い

大らかな上司のIさんもなで肩を増増落として

「悪いね」とため息つきつき歩いてくる

 

作業の邪魔にならないように隅をリフトで辿り

出荷できる製品からトラックに載せ始める

そこへ「ごめん、ちょっとリフト貸して」と小走りに

声を掛けるのは腰の低い修正屋のMさんだ

まだいたの?交代の運転手が夜明け頃会ったと言ってたのに

Mさん先日までは「ウチの会社ほんとブラックですよ」と

笑っていたがもう無理矢理の笑顔もでないらしい

 

手持ち無沙汰に冷たく冴えた星空を見上げる

そういえばTさん前回記念日のお祝いに間に合わなくて

奥さんに怒られた、としょげてたけど今夜は大丈夫かしら

 

煌々と力持ち達を照らす明かりを背に小さく声を掛ける

今夜も長くなりそうですね

あと3時間          生駒孝子

 

 

私がトラックに乗り始めた頃、他社の運転手に

一日何時間コースか問われ12時間と答えると

「そりゃあちょうどいいね」と言われたものだった

それより長ければ身体がきついし、短ければ食べていくのに

給料がきついという意味だとおいおい身に沁みることになった

 

もしも就業後3時間あったならなにができるだろう

 

まずは眠りたい 眠れるアパートのおばさんになって

王子様は来なくていいからただただ眠りたい

 

返信待ちの手紙の山の書き出しも変わると思いたい

 

家事を支える老母にもたまには私の煮物を食べさせたい

 

歯医者さんにも「歯間ブラシも毎回使いなさい」と叱られずに

済むかしら

 

心沈んだ夜には三線を奏でてもみたい

仲間と演奏できるほど練習できたなら なお

 

厳しくなるばかりの社会の中で

助けてもらった分の手助けだけでも返したいのに

 

 

ドライバーになって24年

私の3時間はどこへ消えてしまったのだろう

 

就業後の3時間が無理なら一日が27時間になってもいい

 

はるか昔毎週図書館通いの文学少女だった事を思い出せるかも

新聞だって配達される前にいないから、と断ることもないだろう

 

大義名分ばかりで庶民の命を軽んじる人々に反論できる

知識も持てるだろうか

 

しまった、27時間でもいいなんて言ったなら

ギリギリ生活に必要な時間を差し引けばもう3時間働かせられる

これぞ「働き方改革」