地引浩 詩２０
あるく 地引 浩
あるく あるく あるく
あるく あるく あるく あるく
あるく あるく あるく あるく あるく
巌さんが あるく あるく
巌さんが まいにち あるく
あるく あるく あるく あるく
あるく あるく あるく あるく あるく
あるく あるく あるく あるく あるく あるく
巌さんは あるく あるく あるく
巌さんは まいにち まいにち あるく
あるく あるく あるく
あるく あるく あるく あるく
あるく あるく あるく あるく あるく
巌さんは あるく あるく
巌さんは いつまで あるくのだろう
あるく あるく あるく
あるく あるく あるく あるく
あるく あるく あるく あるく あるく
巌さんは あるく あるく
巌さんは どこまで あるかなければならないのだろう
あるく あるく 巌さんはあるく
（２０１８．２・２２）
きっと きっと 地引 浩
大型クレーンが大きな砕石を掴み 持ちあげる
それから半周して海に向かって砕石を落とす
命の海が 海が音を立てて壊されていく
あの砕石の下は数えきれない命が生きている のに
大型クレーンは次々と同じ動作を繰り返す
鉄のフェンスで隔てられた わずか二百メートル先
手を伸ばせば届きそうな海は
悲鳴を上げ 泣いている
辺野古の浜が鉄条網で仕切られ
キャンプと呼ばれるアメリカ海兵隊の基地が居座り
やがて鉄条網はコンクリと頑丈な鉄のフェンスに変わり
治外法権のアメリカの領土が厳然と目の前にある
フェンスは色とりどりの旗やバナーが括りつけられ
人々の 願いや 怒りや 叫びが風を受けてはためいている
まだ工事は止められる
必ず止めよう きっと止められる
人々はキャンプのゲート前でスクラムを組み座り込む
百台ものダンプや大型車両の隊列に向き合う
機動隊の若者たちにスクラムをほどかれ
手足を掴まれ 数人がかりで檻に運ばれ
車両の隊列が通り終わるまで 監禁される
それでも 人々はゲート前に戻り 再び座りこむ
毎日 毎日 人々はゲート前にやってくる
まだ工事は止められる
夕暮れが間近の辺野古の空に爆音が近づいてくる
あれは きっとオスプレイだ
オスプレイが２機 頭上を横切り
北東に飛び去って行く
行先は きっと高江 高江のヘリパット
沖縄の空も海も陸も すべてがアメリカ軍の訓練場
「本土」の「日本人」のぼくらは知らんぷりをして
この国が平和だと信じている
この国のすべてをアメリカ軍が勝手にできるのに
空も海も 島々も アメリカが自由にできる
アメリカ軍の占領地なのに
辺野古のキャンプシュワッブゲート前に
人々は 毎日毎日集まってくる
新基地建設は きっと きっと止められると
（２０１８．２．１）
ずる うそ 地引 浩
ずる うそ はじしらず
ずる うそ はじしらず
ずる うそ はじしらず
ずる うそ むせきにん
ずる うそ むせきにん
ずる うそ むせきにん
あぶくのように きえるだけ？
そんなことで すむものか
せきにんとって おりのなか
となりのくにをみならって
（２０１８．４．１９）
この怒りを 地引 浩
不当決定に抗議する と書く
不当決定に抗議する を駅前で掲げる
からだ中で煮えたぎる
この怒りを 怒りを
どうすればいいのか
通り過ぎる人々の目と
同じ思いを確かめ合う
ああ 巌さんは 巌さんは
いつまで 歩かなくてはならないのか
恥！ 高裁不当決定 と書く
恥！ 高裁不当決定 を掲げて立つ
からだからあふれ出る
裁判長への 怒りを
鎮めることはできない
立ちどまる人々も皆
納得などできないと語る
ああ 巌さんは 巌さんは
いつまで 歩かなくてはならないのか
そして私たちも
（２０１８・６．１２）
始まりの夏 地引 浩
季節はなだらかに移っていくものと思っていた
しかし どうもそうではないらしい
突然 夏が来て
急に 秋が始まってしまった 今年
何かが だれもが考えもしなかった何かが
もう すでに始まっているのだろう
気付いていないのは 人間という生物の種だけ かもしれない
この数年 その兆しは確かにあった
「おかしい おかしい 今年の夏は」が口癖になり
それが 何年か続いた
猛烈な集中豪雨が幾度も列島の各地を襲い
記録破りの猛暑が続き
強烈な台風も何度も何度もやってくる
突然 そこらじゅうの地面が揺さぶられ
火山も連続して火を噴く
自然を見くびってきた傲慢な人間に
地球が仕返しをしている
川をせき止めてダムを造り
山を削り 谷を埋め 家を建てる
海や湖は埋立てて 工場や空港にしてしまった
人間は なんと愚かな生き物だろうか
大根の畝を作っている畑の隣で
ヒグラシが鳴き始めている
コオロギの鳴き声も ゆったりとしてくる
始まりの夏が 終わった
（２０１８．９．１０ ）
こんなくに 地引 浩
こんなくに あと百年もつとは思わない
こんなくに 百年後にあるとは思えない
たった七十年前の戦争のころをわすれ
ほかのくにでやったことは もっとわすれ
むかしからの食べものも暮らしかたもわすれ
世界中の食べものをあつめて 食らいつくし
お金でなんでも買えるのだとかん違いして
札びらをばらまくのが外交だと思いこみ
アメリカなんぞのにはペコペコし
となりのくにには悪口ざんまい
貧しいくににも えらそうにして
じぶんのくにのびんぼうにんには 自己責任
ゲンパツなんてこりごりなのに
よそのくににも売りつけようと
あんぜん あんぜんとうそを言う
戦争放棄のやくそくはとっくに忘れ
ひとごろしの武器輸出は こくさくで
びんぼう人は はたらいてもはたらいても びんぼうのまま
若者は けっこんもできず こどもも育てられない
みんな いまだけ 金だけ 自分のだけ
こんなくに あと百年もつとは思わない
こんなくに 百年後にあるとは思えない
それでいいの
（２０１８．９．９）
有刃鉄線と桟橋とカヌーと
ー沖縄・安和の桟橋にて
地引 浩
ここは 法律も届かない地
有刃鉄線に囲われた桟橋に向かって
人々は 叫び 叫び こぶしを突き上げる
土砂の積み込みをやめろ
違法な積み込みをやるな と
ここは 歴史も砕かれる港
冬の陽に照らされた台船に向かって
人々は 叫び 歌い こぶしを突き上げる
海はだれのものでもなく
海は すべての生き物のもの と
ここは 未来をはぐくむ海
台船に漕ぎよせるカヌーの仲間たちへ
人々は エールを送り こぶしを突き上げる
海保は 妨害をやめろ
土砂で海を 海を汚すな と
いまは 平和に生きるためのとき
黒雲が迫り雨粒が頬をたたくが
人々は 叫び 叫び 叫び 叫ぶ
もう軍事基地は作らせない
平和は 自分たちが創り出す と
（２０１８．１２．６）
信号機の倒れるとき 地引 浩
梅干の種を噛む 梅干の種を噛む
大梅の種は固く あごの力を跳ね返す
信号機が倒れた？
新札幌駅構内の信号機が倒れて上下線の線路がふさがれたという
運転士が気づいて 倒れた信号機の十五メートル手前で停車したという
十一月九日十二時四十分ごろのことだという
見えない あるはずの青信号が見えない 信号機の青信号が見えない
おそらく運転士は一瞬目を疑い
もう一度確認すると同時に急制動をかけたのだろう
三秒か四秒 運転士が気付くのが遅れたとしたら
列車は脱線し 転覆した
多数の重軽傷者が出たのは間違いない
梅干し種を噛む 梅干の種を噛む
種は固く 歯を跳ね返す
ＪＲ北海道 ずっと重大事故が繰り返されてきた
だけど 信号機が倒れたなんて聞いたこともない
いくら記憶を辿っても出るはずもない
信号システムは列車安全運行の要だ
信号が不具合を起こせば 列車を止めるしかない
信号機が倒れれば？？？？？
そんなことは 誰も考えたこともない
「もうＪＲ北海道はダメだろうか」
あの闘争団の仲間たちの悲鳴が聞こえる
悔しさも怒りも嘆きも 忘れることはない が
がんばれ がんばってくれ
おれたちの鉄道をつぶさないでくれ
おれたちの首を切った鉄道をなくさないでくれ
闘争団の仲間たちの悲鳴が聞こえる
梅干し種を噛む 梅干の種を噛む
種は固く あごの力を跳ね返す
ガキッ 種が割れた
（２０１８．１２．９）