4・7「種子と水はだれのものか」浜松集会報告
2018年4月7日、「種子と水はだれのものか」をテーマに集会をもった。参加は25人。そこで、グローバル化のなかでの食料主権、アグリエコロジー、水の権利などについて考えるとともに、浜松での水道の民営化の動きを報告した。以下はその際の報告をまとめたものである。
「浜松市の水道民営化を問う」
水は人権であり、水の管理は生存と自治の問題です。利権の対象とすべきではなく、公的な事業として運営されるべきです。しかし、浜松市は2017年10月、下水道のコンセッション方式による民営化契約をヴェオリアなどの企業集団による浜松ウォーターシンフォニー(株)と結びました。2018年には上水道の民営化を決めるような動きです。ここではこの問題について考えたいと思います。
● 水の民営化の動き
はじめに、水の民営化の動きについてみておきます。
グローバリゼーションのなか、世界企業(メジャー)が自由に動き回ることができるように障壁をなくす動きがすすんでいます。かれらは新自由主義を名目に規制緩和と公的分野の私物化(民営化・私営化)をすすめています。
水メジャーでは、フランスのヴェオリアとスエズ、イギリスのテムズウォーターが3大メジャーとよばれています。アメリカの建設企業ベクテルなども水メジャーのひとつです。かれらは、水男爵(ウォーターバロン)と呼ばれます。
水メジャーは世界に進出し、コンセッションなど公共事業の民営化をすすめてきました。水メジャーは世界水会議を操り、水資源有効活用と環境開発の名で世界に侵出してきました。その波がいま日本に来ているのです。同様に穀物メジャーによる食の支配もすすんでいます。
2013年4月、第2次安倍政権下、麻生太郎がワシントンのCSIS(戦略国際問題研究所)で日本の水道のすべてを民営化すると発言しました。安倍政権は、産業競争力会議をたちあげ、議長が安倍・議長代理が麻生ですが、そこで竹中が水の民営化や民間投資を提示しています。この会議は2016年に未来投資会議へと名称を変えています。水の民営化は安倍によるアベノミクスの「成長戦略」のひとつであり、公的部門への民営企業の参入推進策なのです。民営化のために、官民連携や広域化を掲げているわけです。
日本では水道民営化の口実として、水道管・浄水場などの老朽化、少子化と財政難が宣伝されています。また、2018年、官民連携の推進・民間企業の参入ができるように水道法を改悪しようとしているわけです。料金の改定は許可制から届出制にする、災害時の復旧は企業と自治体との共同責任として企業の負担を減らすという動きもあります。
水道の民営化では、コンセッション方式が推進されています。コンセッションは利権などと訳されますが、ここでは、水道資本の所有権とJ経営権を分割し、経営権を民間に売却できるようにし、民間企業が運営権を持つという方式です。すでにPFI(民間資金活用)法が制定され、公共施設の建設、維持管理、運営等を民間の資金でおこない、そこで民間の経営能力及び技術的能力が活用できるようなしくみができています。
地方自治体が水道事業者としての位置付けを維持しながら、PFI法に基づき条例で定めた範囲でコンセッション事業者に、水道料金の収受、水道施設の運営等に関する企画、水道施設の更新、災害時の対応等を担うようにするというわけです。
2018年2月に政府はPFI法の改定案を出しました。それは、コンセッションを推進するために、運営権売却に関する地方議会の議決を不要とし、条例で売却できるようにし、料金改定も自治体の承認なしで運営企業が通告するだけで手続きが完了するというものです。
水道が利権の対象とされています。日本の水道事業の収益は上下水道で3兆から4兆円といわれ、資産規模は100兆円ほどと算定されています。その利権をめぐり、ヴェオリアをはじめとする水メジャーや日本の資本などがうごめくようになったのです。
コンセッション方式の推進が政府によってすすめられ、浜松をはじめ、伊豆の国市、宮城県、奈良市、大牟田市、大分市など各地でその導入が検討されるようになりました。その動きは、各地で反対の動きを生むでしょう。
● ヴェオリアとは
ここで水メジャーのヴェオリアについてみておきましょう。
フランスのヴェオリア資本の歴史は古く、1853年の水道業、ジェネラル・デゾーにはじまり、1998年にヴィヴェンディとなりました。
ヴィヴェンディは2000年に水道・廃棄物部門を分離し、ヴェオリアができました。ヴィヴェンディは電気通信・メディア部門の企業となりました。ヴェオリアの事業は主に水、廃棄物処理、エネルギーの3部門であり、ヴェオリア・ウォーター、ヴェオリア・エンバイロメンタル・サービス、ヴェオリア・エネルギー、ヴェオリア・トランスポール(交通)などがあります。ヴェオリア・エンバイロメンタル・サービスは核廃棄物の処理もおこなう会社で、ヴェオリアは2016年4月、日本での低レベル廃棄物処理の計画を示しています。フランスでは再公営化がすすみ、ヴェオリアはフランスでの水市場を失ってきました。
日本では2002年に、ヴェオリア・ウォーター・ジャパンを設立、同年、検針部門のジェネッツを傘下にし、ヴェオリア・ジェネッツとしました。
ヴェオリア・ジャパンの契約の動向をみれば、たとえば、2006年には、広島市の西部浄化センターの運転・維持管理を3年間、約29億円で、埼玉県荒川上流及び市野川水循環センターの運転・維持管理を3年間、約6億円で請け負っています。2012には、松山市で2012年から2016年度の5年間、12億9654万円の契約で請け負いました。
このように日本での活動をすすめてきたわけですが、政府によるコンセッション方式の積極的導入により、ヴェオリアはその利権の触手を浜松にまで伸ばしたとみることができます。
● 民営化と反民営化の攻防
1980年代のグローバル化・新自由主義の動きは水道事業の民営化もすすめ、ヨーロッパ各地の都市で水道が民営化されました。しかしその民営化は大きな問題を生みました。それが、生存と自治の問題として意識化されるようになりました。
民営化とはいいますが、地域の水を企業が長期にわたり独占するのです。日本ではprivatisationを民営化と訳しますが、私物化、あるいは私営化とすべきです。企業は利潤を第1としますから、安全な水の供給ではなく、利益ための管理運営がなされます。契約内での利益が優先されるというわけですから、短期の収益が優先され、長期の投資は不足します。企業活動ですから、水道料金から内部留保がなされ、その水道料金の一部が水道事業外に投資されることも起きます。
水道料金の値上げが起きました。地域によっては企業による賄賂が社会問題になりました。労働者の非正規化や人員削減がすすみます。企業に撤退を求めれば、契約違反とされ、法外な賠償金を請求され、税金での補てんを強いられます。事業のコストが増大することもあります。企業活動ですから、全てが公開されるわけではありません。所有権者の監督が困難になり、企業の財政は透明なものにはなりません。投資や財政に関する企業秘密は増えるわけです。
パリでは、1985年にフランスの2大水メジャーのスエズ社、ヴェオリア社が25年契約でパリを分割し、給水業務を委託し、民営化しました。浄化や水質管理の業務はパリ市が70%出資の会社がコンセッション契約で担当しました。しかし、2009年までに水道料金2.6倍に上昇しました。パリの市長選では水公営化を公約とする市長がうまれ、2010年、水道は再公営化され、公共事業体が運営するようになりました。パリ水道オブザーバーによる市民参加型の経営が導入されたのです。水の権利は自治の権利でもあるわけです。
アメリカのアトランタはスエズの子会社UWS社が20年契約で民営化しましたが、人員の半分が削減され、料金が値上げされるなか、4年で契約を解消しました。
パリやアトランタだけではありません。再公営化の動きは、ベルリン、インディアナポリス、ハミルトン(カナダ)、ブダペスト、ブエノスアイレス、クアラルンプール、アルトマイ(カザフスタン)、アレニスデムント(スペイン)など各地ですすめられました。2000年から17にかけての再公営化は180件以上といいます。
この間、世界銀行と水メジャーが結び付き、債務負担軽減と引き換えに水の民営化を迫るやり口もすすめられてきました。
ボリビアのコチャバンバでの水戦争が代表的な事例です。ここの水は、アメリカのベクテル社の子会社アグアス・デル・ツナリ社の手に入りました。これに対して、2000年、民衆が、水と命を守る市民連合を結成し、激しい闘いにより、40年の民営化計画を破棄させました。
マニラでは、市の西側をスエズなどのマニラッド・ウォーター、東側をユナイテッドユーティリティ、ベクテル、三菱商事などのマニラ・ウォーターが請負いました。水道料金は上がり、支払えない人びとが生まれました。
このように、水の民営化による問題が顕在化するなかで、反民営化の動きが強まったのです。「water
for all(people)、not for profit」を掲げ、「water justice movement」といわれる運動が世界的に形成されたのです。
● 浜松の水道民営化の動き
このような歴史的な再公営化の流れがあるわけですが、浜松市は上下水道でコンセッションを導入しようとしています。
浜松市は、市のホームページでは2011年から水道・下水道でのコンセッションを調査・検討してきたと公表していますが、水面下ではその前から民営化を狙う動きがあったとみられます。
下水道ではヴェオリアと日立の企業集団がコンセッション受注を競い、2017年3月にヴェオリアが優先企業と決定されました。ヴェオリア・ジャパンが代表企業であり、ヴェオリア・ジェネッツ、JFEエンジニアリング、オリックス、東急建設・須山建設の計6社がコンセッションを担うことになりました。ヴェオリアは運営権対価として25億円を提示したと言います。それがそのまま承認されたようです。
受注が決定すると、ヴェオリアなどは、2017年5月に、浜松ウォーターシンフォニー(株)を設立しました(代表取締役社長山崎敬文)。会社設立も周到に準備されていたのです。
2017年10月30日、浜松市と浜松ウォーターシンフォニー(株)の間で契約が結ばれました。それは、2017年10月30日から2038年3月31日の20年間で契約であり、浜松ウォーターシンフォニーは、浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)の運営事業を担うことになりました。具体的にみれば、南区にある西遠浄化センター(浜松の下水の60%処理)、浜名中継ポンプ場、阿蔵中継ポンプ場に係る運転維持管理・修繕および改築を含む運営です。合意延長は最長で2043年3月31日とされています。事業の開始日は2018年4月1日です。
この契約書では、第50条に近隣住民の反対運動や訴訟等の項目まであり、それは、運動により、運営権者が損害を受けた時には市が補償するという内容です。それは、汚染が起き、市民が提訴した場合には、市が負担するということです。ヴェオリアなどはこれまで市民の反対運動や訴訟といった抵抗を受けてきたことから、委託にあたり、市にその責任を転嫁する項目を入れたとみるべきでしょう。このような項目を市に強要した浜松ウォーターシンフォニーは社会的な責任(CSR)をとれる企業といえるのでしょうか。
この契約が結ばれた10月には、下水道使用料の基本料金が現行から50%相当値上げされました。民営化による値上げの前に、市によって値上げされたのです。市は民営化とは無関係としていますが、関係があると言わざるをえません。
市はこの20年間で、総事業費を86億円(14・4%)分削減できると宣伝していますが、それによって失われる公営事業の中身はさらに大きなものであるとみるべきでしょう。
もともとこの施設は静岡県が所有し、民間企業に委託させてきましたが、浜松市に移管され、市はその経営をどうするかが問われ、コンセッション導入にいきついたのですが、その移管をめぐり、その裏で動きがあったのでしょう。
このように、下水道の民営化がすすめられるなか、2017年2月、政府から「民間資金等活用事業調査費補助金」から調査委託費1億3700万円が浜松市に流されました。それは2016年度水道事業会計の2月補正予算案に組み込まれ、この資金を利用して、民間会社への調査の依頼やパリへの視察などがなされたのです。浜松市は補助金の交付を求め、第1位と位置付けられて、交付されたのです。政府によるコンセッション推進の最前線にいるのです。その調査報告はこの3月末になされ、上水道へのコンセッションは「有効」とされました。まさに「コンセッションありき」なのです。市はまだ決まっていないと言っていますが、信用できません。1億3700万円は水道の補修に使うべきでしょう。
このような経過で、上水道へのコンセッション導入を2018年度に決めかねない状況なのです。
● 市民の視点
ではみなさん、私たちはどのような視点で行動すべきでしょうか。
水道法には、水道を計画的に整備し、水道事業を保護育成することで、清浄にして豊富、低廉な水の供給を図り、もって公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与する。国及び地方公共団体は、水道が国民の日常生活に直結し、その健康を守るために欠くことのできないものであり、その使用に関し、必要な施策を講じなければならないと記されています。
水は生存の権利であり、それを維持するには市民の自治が必要なのです。水は人権なのです。水は生命線です。安全より利益を優先し、水道を民営化していいのでしょうか。利権の対象とするのではなく、公的な事業として維持されるべきでしょう。
ボリビアでは「水は神からの贈り物であり、商品ではない」「水は命だ」と人びとが訴えました。グローバル化による水メジャーの侵入には、水と命を守る視点で対抗すべきです。
水の問題は、どう生きるかではなく、生きられるかどうかの問題ともいいます。政治的な立場を超え、食の安全の問題と同様、命を守る視点で、公正で公共な水の維持、公的事業を維持すべきでしょう。水を利潤追求の対象とすべきではないのです。
水は生存権と自治権の問題であり、水は人権なのです。いま、声をあげるときです。