生きる      べにはこべ

 

 

畑の隅の小高い草地

草刈りの鎌先を

突然 雉子のメスが逃げ走る

見ると

几帳面にくさの茎で組まれた 真丸の巣

ピンポン玉より少し小さな 薄茶色の卵がびっしり

草むらには いく筋かの 雉子の通り道

 

ザッザッと近付く 草刈り音に怯えながらも

ギリギリまで卵を温め続けた 母雉子

あわてて

背丈の伸びた カツオ菜を覆いかぶせ

穫り終えたブロッコリーを 根ごと引き抜き

周囲に並べ 巣を隠す

畑の外へ逃げた母雉子は

わざと 私の目の前を走って見せる

片方の羽を少し持ち上げ

いかにも ケガをしているかのように

 

毎朝 畑の周囲の 遠く 近くで

甲高い声を上げる オスの雉子も

この日は すぐ近くの竹藪で 半日 鳴き続けた

人間の注意を 自らに引きつけ

命がけで 子どもたちを守ろうと必死な つがい

あなたたちの敵ではないよ と

伝える術のない もどかしさ

 

時折り 草むらを通った気配を確認し

充分な日々が過ぎた後 恐る恐る 巣を覗く

少しだけ残された卵のカケラ

使われた雉子の道を うっすらと残したまま

何羽が孵り 育っていったのか

 

子育てを終え

二羽で餌をついばんでいた水田に

今 水が張られ

田植えの準備が 進んでいる


「強さ」ということ    べにはこべ

 

 

駅前で沢山の枝葉を繁らせ

いかにも たくましそうに見えた

抱えきれない程のプラタナスの大木が

強風を受け 目の前で突然倒れた

プレート下の根腐れは 誰も気付かず

落ちた実も プレートの上では 生きられなかった

 

畑の草々は いっせいに丈を競い

せっかく植えた作物を 覆い隠す勢い

太い根を 真っすぐに 深く伸ばし

あるいは

地表浅くとも ありったけのヒゲ根をからませ

それぞれの抵抗

柔らかな土壌に 楽に伸ばした根は 簡単に抜かれる

抜かれても 抜かれても

途切れることなく 素早く花を咲かせる

また

細く ひ弱な根は 簡単に切れることで

髪の毛よりも細い根の元に

新たな芽を しっかりと地中に残す

ひとつ ひとつの弱さは それぞれの強さ

ただ ただ 懸命に子孫を残す

 

果たして私は 何を残せるだろうか