浜松市水道コンセッションと内閣府・EY新日本有限責任監査法人の動き
2018.10.27
「水・人権・自治」浜松講座報告
浜松市、2011年ころからコンセッション導入を計画
浜松市のウェブサイトでは2011年から上下水道のコンセッションの検討を始めたとする。その後、下水道は2018年4月からフランスのヴェオリアの日本法人などによる特別目的会社によるコンセッション経営が始まった。
浜松市は水道でのコンセッションの導入も検討しているが、2018年に入り、市側はコンセッションを「運営委託方式」と表示し、それは運営権の譲渡であり、売却ではないといいはじめた。しかし、(株)ジャパンウォーターのウェブサイトには、運営権の売却と表記されるように、コンセッションとは経営権の長期売却であり、企業は購入費として「運営権対価」を支払う。
2016.1新日本有限責任監査法人の福田隆之氏、官房長官大臣補佐官へ
2018年2月、浜松市水道事業へのコンセッション導入可能性調査の報告書が出された。それにより管路付のコンセッションが「有効」とされた。この報告書の作成を委託されたコンサルタント会社が新日本有限責任監査法人だった。
2015年12月25日の安倍内閣の閣議で、菅義偉官房長官の大臣補佐官にこの新日本有限責任監査法人のエグゼクティブディレクター(常務取締役)、インフラPPP支援室長の福田隆之氏(当時36歳)を充てるとした。福田隆之氏は2016年1月から内閣府で公共サービス改革を担当することになった。公共サービス改革とはPFIの推進である。
インフラPPP支援室はコンセッション推進
福田隆之氏の経歴を見ると、野村総研で2001年に財務省での日本初のPFIを手掛け、PFI民営化のアドバイザリー業務を担い、PFI参入支援などの業務をすすめた。
2012年からは新日本有限責任監査法人に入り、 戦略マーケッツ事業部のインフラストラクチャー・アドバイザリーグループで金融・PPP/PFIを担当した。新日本有限責任監査法人のインフラPPP支援室には、PFIの制度設計から実務までをこなす人材が集まり、コンセッション関係のアドバイザリー業務を担った。
現在、新日本有限責任監査法人のインフラストラクチャー・アドバイザリーグループには、福田健一郎氏がいる。この福田氏も野村総研から2012年に新日本有限責任監査法人に移り、上下水道事業体での経営戦略等の策定支援をすすめ、大阪市水道局コンセッション、浜松市下水道のコンセッションの支援業務を担ってきた。
新日本有限会社監査法人はロンドンのEY(アーンスト・アンド・ヤング)の傘下
EY(アーンスト・アンド・ヤング)はプライスウォーターハウスクーパース(PwC )、デロイトトウシュトーマツ、KPMGとともに4大会計事務所のひとつであり、グローバル企業のためのロビー活動をすすめる。EYはイギリスの水道民営事業では会計監査をおこなっている。
新日本有限責任監査法人はこのEYと提携してきたが、2018年にEY新日本有限責任監査法人と改称した。EYは日本にEY・JAPANを置き、EYジャパン合同会社、EY新日本有限責任監査法人、新日本パブリック・アフェアーズ、EY税理士法人、EY弁護士法人、EYトランザクション・アドバイザリー・サービス、EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング、EYリアルエステートアドバイザーズ、EYソリューションズなどの会社がある。
EY・PwCからも内閣府PPP/PFI推進室の専門委員選出
内閣府には民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)がおかれ、コンセッションを推進してきた。内閣官房の大臣補佐官となった福田氏はPPP/PFIをさらに推進した。
民間資金等活用事業推進室のPFI推進委員会の事業推進部構成員名簿(2018年)には、黒石匡昭(新日本有限責任監査法人・パブリック・アフェアーズグループ)、下長右二(パシフィックコンサルタンツ・事業マネジメント本部PPPマネジメント部部長)、福島隆則(三井住友トラスト基礎研究所)、村松久美子(PwC あらた有限責任監査法人電力ガスシステム改革支援室)などの名がある。
黒石匡昭氏は新日本有限責任監査法人のインフラストラクチャーアドバイザリーグループの責任者として民営化、PFI業務を推進してきた人物である。また、新日本パブリック・アフェアーズの取締役であるが、その社の活動のひとつは、「永田町・霞ヶ関ナビゲーション」である。それは、人脈を利用し、政策決定に影響力のある人物へのロビー活動をおこなうことである。
PwC あらた有限責任監査法人はEYとともにグローバルな展開をすすめるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)の日本法人であり、この2社の拠点はロンドンにある。
内閣府から浜松市に1億3700万円の支援金
民間資金等活用事業推進室は、上下水道コンセッション事業の推進をすすめ、それに資する支援措置として、2016年度第2次補正予算で13.9億円を獲得し、浜松市、宇部市、須崎市、奈良市、三浦市、宮城県、木古内町、小松市、大牟田市などに補助金を出した。
2016年12月、浜松市に市水道事業へのコンセッション導入可能性調査として出された額は1億3700万円だった。その他の主なものをあげれば、宇部市の下水道に1億800万円、須崎市の下水道に9900万円、奈良市の上下水道に9500万円、三浦市の下水道に7000万円、宮城県の上・工・下水道の可能性と資産調査の2件分に計1億1000万円が出された。
支援金1億3700万円は新日本有限責任監査法人へ
浜松市への1億3700万円の調査はコンサルタント会社に委託されることになった。4社の入札により、委託先は新日本有限責任監査法人となり、ここに全額が渡された。委託調査内容は、導入可能性調査、経営調査、資産調査、民間企業意向調査などである。新日本有限責任監査法人は浜松市の下水道でのコンセッション導入も担当してきた。
新日本有限会社監査法人でPFI・コンセッション導入をすすめ、政府への提言をおこなってきた福田氏は、内閣府で大臣補佐官としてPPP/PFIを推進する立場となり、内閣府の民間資金等活用事業推進室が獲得したコンセッション調査支援用の予算のうち、浜松市に渡された1億3700万円は新日本有限責任監査法人の収入となった。
内閣府からの補助金のうち、宇部市分はNJS(日本上下水道設計)が、宮城県の可能性調査は日本総合研究所、同県のデューディリジェンス(資産)調査はKPMGあずさ監査法人が受けた。
安倍政治による国政の私物化、お友達に有利な政策運営は、森友、加計のみならず、内閣府からの浜松のコンセッション調査委託費全額が新日本有限責任監査法人に流れたように、PFIでもおこなわれている。
日本政策投資銀行は、浜松水道の運営権対価を300億円と想定
2016年6月、内閣府や日本政策投資銀行はフランス・英国の水道分野での官民連携制度の調査をおこなった。この現地ヒアリングには、内閣府福田隆之大臣補佐官をはじめ、内閣府民間資金等活用事業推進室、内閣官房日本経済再生総合事務局、厚生労働省水道課水道計画指導室、民間資金等活用事業推進機構、日本政策投資銀行、日本経済研究所からの参加があった。
この調査のプレゼン用報告書を日本政策投資銀行(DBJ )が作成している。そこには「DBJは、日本初のコンセッション方式の導入を検討」と浜松の事例を掲載し、浜松の水道の運営権対価を300億円超と試算している。この額は2015年7月の第1回水道分野における官民連携推進協議会でのDBJによる「水道事業におけるDBJの取組について」にも記されている。
浜松市の上下水道のコンセッション調査については、日本経済研究所が委託を受けたことがあるが、この研究所は日本政策投資銀行の関連組織である。
2018年10月、浜松市長パリで国際投資家に浜松のコンセションを宣伝
2014年12月、鈴木康友浜松市長は東京での日経ビジネスイノベーションフォーラムで「浜松市の挑戦 上下水道コンセッションによる成長戦略・行政改革」の題で講演した。このフォーラムの主催は、日経新聞クロスメディア営業局であるが、特別協賛が新日本有限責任監査法人、アンダーソン・毛利・友常法律事務所、後援が内閣府、民間資金等活用事業推進機構、日本政策投資銀行であった。
2018年10月、鈴木浜松市長はパリで開催された国際インフラフォーラムで浜松の水のコンセッションについて講演した。このフォーラムの主催は長期インフラ投資家協会(LTIIA)であり、国際的な投資家の利益のために開催された。LTIIAにはコンセションを推進する日本政策投資銀行も2014年の設立時から参加している。市長は内閣府から要請をうけ、出張した。
日本の上下水道の資産規模100兆円近、同収入4兆円の想定
福田隆之氏は2014年11月の「コンセッションの概要と最新動向」(厚労省での講演資料)で「水道事業は我が国で最大の公営インフラ」とし、水道事業収入、約2.7兆円弱、資産規模約32兆円、下水道事業収入1.4兆円、資産規模約66兆円と計算している。上下水道の合計資産規模は100兆円近くとされ、同収入は4兆円を超える。
この公営インフラからどのように民間資本が利益をあげることができるのか、それがコンセションの真の狙いである。
2018年、政府はPPP/PFI推進アクションプランを改訂し、公的不動産での官民連携の推進を求めた。自治体に管理計画や固定資産台帳を整備させていくとしたが、それは、インフラの更新を利用して、ビジネス機会を創出するためのものである。
厚労省による自治体水道の売り出し
下水道を管轄する国交省、水道を管轄する厚労省も、コンセッションを推進している。
厚労省は、2017年2月の水道コンセッション導入促進方針で、「トップセールス」のリストと称するものを示し、大阪市・奈良市・広島県・橋本市・紀の川市・ニセコ町・浜松市・大津市・宇都宮市・さいたま市・柏市・横浜市・岐阜市・岡崎市・三重県・四日市市・京都府・熊本市・宮崎市への働きかけをあげた。
この働きかけでは、人口20万人以上、2013年度に原則黒字経営、2040年度まで人口減少率が20%以下であることが要件とされた。
厚労省はさらに、対象事業体の選定指標を、給水人口20万人以上であり、包括委託や第三者委託を実施していること、コンセッションを含む官民連携検討のために、厚労省の交付金や委託調査を活用していること、内閣府の交付金(上下水道コンセッション事業の推進)を活用していること、下水道など他分野においてコンセッションを実施・検討していることなどをあげた。
政府によって優良自治体水道の民間資本への売り出しがおこなわれているのである。
コンセッションを推進するものたち
内閣府は2015年度、浜松市をPPP/PFIのモデル都市5市のひとつとした。日本政策投資銀行と日本経済研究所は内閣府と浜松市、浜松信用金庫などと浜松市官民連携フォーラムを共催するなど、市との関係を深めてきた。
内閣府、新日本有限責任監査法人、日本政策投資銀行、つまり、民間資本活用をすすめる安倍政治、コンセッションをすすめる外資系コンサルタント、資金を出す投資銀行が手を結び、浜松市に人脈をつくり、コンセッション・民営化をすすめているのである。
コンセッション導入の際の、水需要・職員減・経費増額などは口実に過ぎない。狙いは民間資本が社会資本である水道事業の経営権を獲得し、そこから利潤を得ることであり、国際投資家がその利益の配分を得ようとしているのである。
パリでの国際投資家を前にした鈴木浜松市長の上下水道コンセッションの講演は、浜松の水道に国際的な投資を誘い、水の権利を外資に売り渡すことにつながる行為である。