スミレよ! べにはこべ
歩道の縁石の間に 列をなして逞しく葉を伸ばし
スミレが咲き始めて 何年になるだろう
邪魔になる草を抜いてやると 次第にその数を増やし
うす紫の花をつける春を 楽しみに待つようになった
年に一度
歩道や街路樹の下の草刈りに 業者がまわってくる
桜の根元に 沢山の黄色い花を咲かせるニガナは
すっかり抜かれてしまったけれど
今年も スミレだけは残しておいてくれた
ホッとした そのすぐ後
いつになく 再び草取りが始まり
草一本も残さず スミレも根こそぎ抜かれてしまった
それから数日後 天皇が浜松にやってきた
朝から機動隊による ものものしい警戒
駅前広場も警官が出て 人の流れを規制する
私たちの駅前毎日スタンディングも
「十五分 短縮してほしい」と言ってきた
理由を言わないので 無視して立ち続けた
おそらく 天皇の来訪時間を避けるため
千人もの人が道端で出迎えたとか
お役目を終えて
手に手に 巻いた日の丸の小旗を持って帰る人々
かって 天皇の名のもとに
どれだけの血が流され
どれほど沢山の人生が奪われたことか
こんな事のために
駅から一キロも離れた歩道のスミレまで抜かれたのだ
スミレよ
春には 意地でも葉を伸ばし
いつもの様に きれいに咲くのです
たとえ たった ひとつの花であったとしても